アメリカでの映画撮影開始時の掛け声手順 日本との比較

クラッパーボード
アメリカでの映画撮影開始時の掛け声

映画やクライアント用動画の映像撮影では、通常はそれぞれのテイクごとにカメラを回し、演技や動作を始めるための掛け声が使われます。

日本でもアメリカでも、録画や録音を始め、スレート(カチンコ)を打ち、演技や動作を始めるという手順は同じですので掛け声の基本的な流れは同じですが、スタイルはやや異なります。

スレートは日本ではカチンコと呼ばれ、ボードにちょうつがいでつながった拍子木がついたもので、作品名、シーン番号、テイク数などを記載して撮影ごとに映像の頭に映し込んで撮影したショットの管理をする目的と、録音と録画を別の機材で行うために、あとで音と映像のタイミングを合わせるのに使います。

撮影チームや現場によって違いはあるようですが、アメリカでの撮影開始の掛け声の手順は概ね以下の内容です。学生映画でも主要なプロジェクトの撮影では同じ手順で行います。日本語に直訳すると変な感じがしますので、かっこ内は私なりの意訳です。

参考までに“Cut!”の後も記載しておきます。

アシスタントディレクター
“Quiet on the set! Picture is up!”
「静かに願います!準備ができました!」

アシスタントディレクター
“Roll Sound.”
「録音を始めてください」
サウンドミキサー(録音を始め、)
“Sound speeds.” / “Sound rolling.” / “Speed.” / “Rolling.”
「回りました」

アシスタントディレクター
“Roll Camera.”
「カメラを回してください」
AC又はカメラオペレーター(録画を始め、)
“Camera speeds.” / “Camera rolling.” / “Speed.” / “Rolling.”
「回りました」

アシスタントディレクター
“Marker.” / “Slate.”(言わない場合も多い)
「スレート(カチンコ)をお願いします」
AC
“Scene ○○, Take ○○, Mark! / Marker!”
「シーン○○、テイク ○○、マーク!/マーカー!」
その後すぐスレートし(カチンコを打ち)、画面から出る。

DP/シネマトグラファー/カメラオペレーター(フレーミングを確認後、)
“Set.”
「セットしました」

ディレクター
“Action!”
「アクション!」

演技

ディレクター
“Cut!”
「カット!」

アシスタントディレクター
“How was the Camera?”
「カメラはどうでしたか?」

DP/シネマトグラファー/カメラオペレーター
“Good.” / “OK.”
「OKです」など。

アシスタントディレクター
“How was the Sound?”
「録音はどうでしたか?」

サウンドミキサー
“Good.” / “OK.”
「OKです」など。

(監督もOKな場合)
アシスタントディレクター
“Let’s move on.”
「次のショットへ行きます」など

(再度テイクを撮る必要がある場合)
アシスタントディレクター
“Back to one.”
「もう一度やります」

上記中のACやDPは省略表現で、実際にアメリカでも省略して表現されます。

AC:アシスタントカメラ
DP:ディレクター オブ フォトグラフィー
 

▶︎アメリカの映画制作の役職と仕事内容についてはこちらの投稿をごらんください。

上記中の / で分けた表現は、人や場合によっていくつかの言い方のパターンがあるものを並べて記載したものです。

“Quiet on the set!”と”Picture is up!”は、状況に応じてどちらかだけが言われる場合もあると思います。

“Quiet on the set!”は、実際には”Quiet on set!”と言われることも多いと思います。

“Sound speeds.”や”Camera speeds.”は、実際には”Sound speed.”や”Camera speed.”と言われることも多いと思います。

“Sound rolling.”や”Camera rolling.”は英語表現が省略されています。

カメラが回り始めたら撮影するのが通常ですので、ACにスレートを促すアシスタントディレクターの”Marker.”や”Slate.”は省略されることが多いと思います。

ACは”Scene ○○”の他にスレートに書かれた項目に応じて”Roll○○”も言う場合があると思います。

“How was the Camera?” “How was the Sound?”への返答は特に決まったものはないのではないかと思います。ちなみに英語で”OK.”と言う場合、文脈と言い方によっては「まあまあ」「そこそこ」の意味になります。

“Back to one.”はお決まりの表現です。

日本での映画撮影開始時の掛け声

日本の映画やCMなどの撮影では、監督/映像ディレクターは「ようい、スタート」「カット」と言うことが多いのではないかと思います。

日本の映画撮影では撮影チームや現場や状況によって違いはあるものの、概ね以下が基本形となるようです。映画のメイキング映像をいくつか確認した他、知り合いの日本の映画撮影監督/映画監督にも確認しました。

●デジタルカメラの場合

助監督(チーフ助監督が言う場合が多い)
「本番!」
各部門(気づいた人)が復唱
「本番!」

助監督(チーフ助監督が言う場合が多い):(撮影部/カメラマン、録音部に対し)
「回してください」(言わない場合も多い)
撮影部、録音部が録画、録音を開始
撮影部(カメラマンorチーフ撮影助手)
「回りました」
録音部
「回った」

助監督(サードorフォース):カチンコをカメラフレームに入れた状態で
「シーン○、カット○、トラック○」(テイク2以降は「トラック2」「トラック3」のみ)フレームから逃げる。

監督(チーフ助監督が言う場合もある)
「よーい、スタート!」
助監督(サードorフォース)がカチンコを打つ。

演技

監督
「カット!」
各部門(気づいた人)が復唱
「カット!」
助監督(サードorフォース)がカチンコを2回打つ

「シーン○、カット○、トラック○」は省略されることも多いと思います。

「よーい、スタート!」は「よーい、はい!」や「レディ、アクション!」と言う場合もあります。

カチンコを打つタイミングがアメリカと違い「よーい、スタート!」の後になりますが、「よーい!」と「スタート」の間にカチンコを打つ場合や、「よーい、スタート!」の前にカチンコを打つ場合もあるようです。
 
デジタルカメラの場合、ポストプロダクションでソフトウエアの処理で映像と音声を同期させる前提でカチンコを打たない場合も多いとのことです。

 

フィルムカメラの場合は、カチンコが閉じるところの映像とカチンコの音で映像と音声を同期させるため、また、フィルムを節約するために、以下のような手順が基本形となるとのことです。

●フィルムカメラの場合

助監督(チーフ助監督が言う場合が多い)
「本番!」
各部門(気づいた人)が復唱
「本番!」

助監督(サードorフォース):カチンコをカメラフレームに入れた状態で
「シーン○、カット○、トラック○」(テイク2以降は「トラック2」「トラック3」のみ)

監督(チーフ助監督が言う場合もある)
「よーい、」
撮影部、録音部が録画、録音を開始
「回った」
監督(チーフ助監督が言う場合もある)
「スタート!」
助監督(サードorフォース)がカチンコをカメラフレームに入れた状態で打ち、すぐにフレームから逃げる。

演技

監督
「カット!」
各部門(気づいた人)が復唱
「カット!」
助監督(サードorフォース)がカチンコを2回打つ

フィルムカメラで動作音がうるさい場合は、そもそもアフレコ前提のため録音はしないことがほとんどだとのことです。

 

ちなみに私が日本でクライアント用動画の撮影のディレクションをする時は以下のような流れにしています。

ディレクター
「カメラを回してください」
カメラマンが録画を開始
「回りました」
ディレクター
「よーい、スタート!」

演技など

ディレクター
「カット!」