アメリカの映画制作の役職と仕事内容 (Job titles and descriptions in American film production)

映画制作の役職と仕事内容(主にアメリカの場合)

映画制作は少人数で行う場合もありますが、通常は多くのスタッフが関わります。大作映画のエンドクレジット(エンドロール)ともなれば非常に多くの役職が見てとれます。ここでは、アメリカの場合の映画制作に関する役職のうち主に撮影を中心とした役職を、学生映画の場合をまじえながら解説します。

プロデューサー(Producer)

映画製作のリーダーかつ責任者です。

企画からプロジェクトを進め、脚本開発、映画制作資金の調達、映画制作プロセス、宣伝、配給、売り上げの管理まで、映画製作の全般を管理します。通常は監督もプロデューサーが雇います。

ちなみに日本の映画業界では、「制作」とは映像作品を作る実作業を指し、「製作」とは企画から資金調達、制作、宣伝、配給、売り上げの管理までの全体を指します。「製作」がプロデューサーを指すこともあるように、プロデューサーは全体を管理します。

大規模なプロダクション(プロジェクト)であれば仕事は細分化し、プロデューサーの役割も多岐に渡るため、複数のプロデューサーがいる場合があります。逆に小規模なプロダクション(プロジェクト)であればディレクターが実質プロデューサーであることも多いと思います。力のあるディレクターがプロデュース業もする場合があります。

学生プロジェクトにおけるプロデューサー
映画学校によっては仕組みが違うようですが、学生映画では学生一人一人が自己資金で映画を作るため、本人がディレクターであると同時にプロデューサーでもあると言えると思います。

しかし、別のプロデューサーと組むこともあります。この場合のプロデューサーの役割は、学生プロデューサーであれ雇われたプロデューサーであれ、事務処理のサポートを中心に、ロケーション探し、スタッフの手配、オーディションの運営、ケータリングの手配、宣伝のサポートなどのうちのどれか又はいくつかを、ケースバイケースで行うことになると思います。

事務処理は主に撮影許可申請、ユニオン(俳優組合)所属のアクターの書類管理、クルーの雇用覚書の管理などがあります。

映画制作は非常に多くのことが必要ですので、学生プロジェクトであっても主要なプロジェクトともなれば、ディレクターが全てを手がけるのはかなり難しいため、優秀なプロデューサーと組むと進行がスムーズになります。

ラインプロデューサー(Line Producer)

ラインプロデューサーは、主に予算管理など映画制作の実務と、日々の撮影の物理的側面の管理をします。

学生プロジェクトにおけるラインプロデューサー
学生映画であっても映画の規模などによってはラインプロデューサーの役割を立てることもあるかもしれませんが、通常は学生映画でそこまで役割が細分化することはないのではないかと思います。

あるとすれば、ディレクター本人が自己資金で制作して実質的にプロジェクトを進行しているためにプロデューサーとしてもクレジットし、一緒に組むプロデューサーをラインプロデューサー又はプロデューサー補(Coproducer)とクレジットするかもしれません。

スクリーンライター(Screen Writer)

脚本家です。原作を元に脚本にする場合と、自分でストーリーを考えて脚本にする場合があると思いますが、いずれの場合も、制作する映画の長さに合わせて全体の構成を考え、フォーマットに則ってセリフと状況説明を記述します。ディレクターが自分で考えたストーリーを映画にする場合は脚本も自分で書く場合が多いのではないかと思います。

学生プロジェクトにおけるスクリーンライター
ニューヨークフィルムアカデミーのMFA Filmmakingコースにはスクリーンライティングのクラスがあり、ほとんどの場合、学生それぞれが自分の映画のディレクターであると同時にスクリーンライターでもあります。

主要プロジェクトではスクリーンライティングのコースの学生と組む人もいるようです。

ディレクター(Director)

監督です。映画のスクリプト(脚本)を実際のイメージや音へと翻訳する役割ですが、ディレクターの撮影時の主要な仕事はアクターに芝居をつけることとも言われます。映画制作の資金面やできた映画の宣伝はプロデューサーが行いますが、人によってはディレクター兼プロデューサーやディレクター兼スクリーンライター(脚本家)の場合もあります。

学生プロジェクトにおけるディレクター
映画学校によっては仕組みが違うようですが、学生プロジェクトでは学生一人一人が自分でストーリーを考え自己資金で映画を作りますので、本人がディレクターであると同時にスクリーンライターでもありプロデューサーでもあると言えると思います。

ストーリーを考え、スクリプト(脚本)を書き、予算の中でスタッフを確保し、ロケハンをしてロケーションを借り、オーディションをして役者を確保し、衣装や小道具を手配し、撮影スケジュールを考え、撮影時には全体の進行をしつつアクターに芝居をつけ、撮影した映像を編集します。主要なプロジェクトともなればディレクターが全てを手がけるのはかなり難しいため、プロデューサーと組むことが多いと思います。

アシスタント ディレクター(Assistant Director)

日本でアシスタントディレクター(AD)というと、テレビなどの小間使い的な役割をイメージすると思いますが、アメリカでは撮影の現場を進行する極めて重要な役割です。日本の映画業界の助監督に相当すると思います。

撮影前にコールシート(Call Sheet)と呼ばれる撮影予定表を関係者に配布し、撮影が円滑に進むように管理しつつ、ディレクターがスケジュールを省みずに何テイクも繰り返そうとする場合には進行を遅らさないように伝えるなど、全体の段取りや進行を管理する役割です。

学生プロジェクトにおけるアシスタントディレクター
学生映画でのアシスタントディレクターも、コールシートの配布や撮影時の進行管理などが主な役割で、プロデューサーがやるような事務処理などの実務はしません。通常はクラスメートに頼みますが、主要プロジェクトでは外部から雇う学生もいます。

ディレクター オブ フォトグラフィー(DP)/シネマトグラファー
(Director of Photography / Cinematographer)

通常DPと呼ばれる撮影監督です。カメラの位置や動き、レンズ、絞りの決定などのカメラに関わる部分だけでなく、照明も監督する絵作りの責任者です。規模の大きい撮影ではカメラオペレーターは別にいます。

学生プロジェクトにおけるディレクターオブフォトグラフィー(DP)
学生映画プロジェクトは小規模なことが多く、DPがカメラオペレーションもします。

アシスタントカメラ(AC)(Assistant Camera)

映画・映像の分野ではカメラアシスタントではなく、アシスタントカメラと呼ばれます。規模の大きいプロジェクトであれば、1st AC、2nd ACがいます。

1st Assistant Camera
カメラのフォーカス送りが主たる仕事です。シーンによってはキャラクターは歩いたり走ったりして、カメラとの距離が常に変化するため、それに応じてフォーカスを合わせます。通常はオートフォーカスは使わず、手動でフォーカス送りをします。

2nd Assistant Camera
カメラオペレーターによるカメラのセッティングと移動をアシストし、フィルムマガジンのロードとアンロード、カメラバッテリーの交換と充電、レンズの交換、スレート(又はクラッパーボード、日本でいう「カチンコ」)の操作、カメラシートの記録、フィルムラボとの連絡を担当します。又、フィルムの注文もします。

学生プロジェクトにおけるアシスタントカメラ
学生映画でも通常はアシスタントカメラが必要となります。カメラの組み立て、セッティング、レンズ交換、距離計測、スレート、セッティングの記録など、カメラに関する補佐をします。

ステディカム オペレーター(Steadicam Operator)

ステディカムは、カメラを滑らかに移動させるために、専用の器具を使ってカメラを身体に取り付け、体の動きの影響を軽減しつつ運用するものです。ステディカムオペレーターはその専門家です。重いカメラを身体に取り付けて、カメラフレーミングを意識しながら歩いたり早い移動をするため、肉体労働です。

学生プロジェクトにおけるステディカムオペレーター
ニューヨークフィルムアカデミーのMFA Filmmakingコースではステディカムのワークショップがありましたが、これは熟練を要し肉体労働でもあるので、ステディカムが必要な場合は外部から雇うと思います。

ギャファー(Gaffer)

照明を中心とした電気部門の責任者です。照明計画の実行(及び設計)を担当します。

ガファーという用語はもともとイギリス英語において、「老人」、「労働者の分隊の主任」を意味し、イギリスの劇場で照明を調整する男性や街灯を手がける男性を表すためにも使われたところから来ているようです。

学生プロジェクトにおけるギャファー
学生映画におけるギャファーは、照明担当としてDPと相談しつつ照明器具のセッティングをします。クラスメートが助け合いギャファーの役割もしますが、シネマトグラフィーの学生と組んでシネマトグラフィーの学生がギャファーを担当したり、主要なプロジェクトでは外部から雇う場合もあります。

グリップ(Grip)

グリップは撮影機器のセッティングと保守をします。通常、DPまたはカメラオペレーターの依頼で、三脚、ドリー、トラック、ジブ、クレーンなどを、組み立てたり取り付けたりします。クレーンにカメラを取り付けたりドリーを押したりもします。ドリーとは、カメラ(及び三脚)とカメラマンを乗せて移動撮影するための車輪付き台車です。トラックとは、ドリーのレールのことです。

学生プロジェクトにおけるグリップ
学生映画ではクラスメートが助け合いますが、グリップの役割もします。主要なプロジェクトでは外部から雇う場合もあります。

キーグリップ(Key Grip)

グリップのチームの責任者です。

学生プロジェクトにおけるキーグリップ
学生映画は小規模ですので、わざわざキーグリップの役割を作るほど細分化はしないと思います。

ベストボーイ(best boy)

ベストボーイには2つのタイプがあります。

一つはギャファー率いる照明・電気部門のベストボーイで、ベストボーイエレクトリック(Best Boy Electric)とも言われるようです。ギャファーのアシスタント(右腕)として、各部門と連絡を取りつつ、機器の手配、照明クルーの管理などをします。

もう一つはキーグリップ率いるグリップのチームのベストボーイで、ベストボーイグリップ(Best Boy Grip)とも言われるようです。キーグリップのアシスタント(右腕)として、グリップのチームを管理します。

学生プロジェクトにおけるベストボーイ
学生映画は小規模ですので、わざわざベストボーイの役割を作るほど細分化はしないと思います。

スクリプト スーパーバイザー(Script Supervisor)

スクリプト(脚本)に不整合がないかチェックし、撮影時には、異なるショット間でセリフだけでなく衣装、メイク、髪、小道具、照明などの整合性を確認し、必要な全てのシーン、全ての必要なショットが撮影されたか確認します。

ストーリーの流れ通りに撮影する場合は混乱は少ないですが、撮影の都合上ストーリーの流れとはバラバラに撮影したり、仮にストーリーの流れ通りの撮影であっても様々なアングルで何テイクも撮影する中で、セリフの内容や手の位置や小道具の状態その他の整合性が取れなくなってしまう可能性があり、スクリプトスーパーバイザーはそれらを常にチェックします。

学生プロジェクトにおけるスクリプトスーパーバイザー
学生映画であってもスクリプトスーパーバイザーを立てる場合があります。他の役割同様、大抵はクラスメートに頼むと思います。

プロダクション デザイナー(Production Designer)

プロダクション デザイナーはアート部門全体の責任者です。ディレクターの求める視覚的要件に基づいて、セットの制作、ロケーションのセットドレッシング、装飾などについて予算とスケジュールの中で実行可能な方法を提案し、監督します。図面を準備する場合もあります。

学生プロジェクトにおけるプロダクションデザイナー
学生映画でセットの立て込みやロケーションのセットドレッシングが必要になる場合も、ディレクターが自分の予算の中で手配し、現場ではクラスメートに手伝ってもらいながら自分で立て込みをしたりセットドレッシングしたりしますが、主要なプロジェクトではクラスメートにまるまる依頼したり外部のプロダクションデザイナーを雇うこともあります。

アート ディレクター(Art Director)

アートディレクターは通常プロダクションデザイナーからの依頼で、スクリプトを分析して必要なものを特定し、アート部門の予算とスケジュールの中でセットの建設や装飾を管理します。不思議なのですが、アートディレクターは「ディレクター」とついていますが、立場的にはプロダクションデザイナーの方が上です。

学生プロジェクトにおけるアートディレクター
学生映画では、セットや小道具の手配は、通常はディレクター自身が行い、必要に応じてクラスメートや外部から雇ったプロダクションデザイナーに依頼します。主要なプロジェクトの場合はさらにアートディレクターを雇う場合もあります。

プロップ マスター(Prop Master)

プロップマスターは小道具の調達と運用の管理をします。プロダクションデザイナーやアートディレクターと連携してスクリプトを分析して必要な小道具を決定し、購入又はレンタルし、撮影での小道具の配置と使用を管理します。プロップマスターという表現で役割を立てている場合はセットデコレーターが実際のセットドレッシングをすると思いますが、プロップ担当として小道具の手配から撮影時のセッティングまで行う場合もあると思います。

学生プロジェクトにおけるプロップマスター
学生映画では通常はディレクターが自分で小道具の手配もすると思いますが、主要なプロジェクトではクラスメートに依頼したり外部から雇います。ただ、その場合でもプロダクションデザイナーにプロップの手配と運用まで依頼し、プロップ担当まで細分化することは少ないのではないかと思います。

プロダクション サウンド ミキサー(Production Sound Mixer)

映画撮影でのサウンド部門の責任者ですが、通常はセリフなどの録音担当者として、ブームオペレーターを兼ねる場合が多いと思います。肩にかけたカバンに入れた録音機器を操作しながら、ブームマイクを支えて、セリフなどを録音します。ヘッドフォンでレコーディングの品質を常にチェックし、良好な録音ができていなければ、別テイクの撮影を要求する必要があります。

学生プロジェクトにおけるサウンドミキサー
どんな規模の学生映画でも、無声でない限りセリフの録音は必要なため、サウンドミキサー兼ブームオペレーターをクラスメートに依頼するか、外部から雇います。

ブーム オペレーター(Boom Operator)

ブームオペレーターはサウンドミキサーをアシストしてブームマイクを操作します。ブームマイクは棒の先にマイクがついたもので、これを支えてカメラに映らない範囲で役者の口に近い場所にマイクをキープし、セリフを録音できるようにします。複数の役者の会話の場合はそれぞれに合わせて素早くマイクの場所と向きを移動させます。

学生プロジェクトにおけるブームオペレーター
学生映画では、サウンドミキサー兼ブームオペレーターをクラスメートに依頼するか、外部から雇います。

メイクアップ アーティスト(Makeup Artist)

メイクアップ アーティストはアクターのメイクを担当します。

学生プロジェクトにおけるメイクアップアーティスト
学生映画では主要なプロジェクトでは必要に応じて外部のメイクアップアーティストを雇う場合もあります。メイクアップアーティストがヘアスタイリストを兼ねたり、衣装の調達もやってもらえる場合もあります。

ヘアスタイリスト(Hair Stylist)

ヘアスタイリストはアクターのヘアスタイリングを担当します。

学生プロジェクトにおけるヘアスタイリスト
学生映画でヘアスタイリングまで必要な場合は外部から雇うと思いますが、メイクアップアーティストがヘアスタイリストを兼ねる場合もあります。

その他
映画制作にはその他にも、規模が大きくなればさらに多くのスタッフが関わります。以下のウエブサイトに解説されています。当投稿でも参考にしました。
 

https://www.media-match.com/usa/media/jobtypes/

The Roles of the Film Production Team
https://www.govtech.com/education/news/The-Roles-of-the-Production-Team.html