映画「カメラを止めるな!」の撮影担当による書籍「低予算の超・映画制作術」

映画「カメラを止めるな!」の撮影をした著者による書籍「低予算の超・映画制作術」紹介とレビュー

映画「カメラを止めるな!」の撮影をした曽根剛(そね・たけし)さんが、「カメラを止めるな!」制作の舞台裏を紹介しながら低予算映画制作の裏側について書いた本です。

「カメラを止めるな!」のメイキングであるとともに、自主映画製作のガイドブックとなっています。

カメラマン視点から、と書かれていますが、筆者は映画監督でもあるため多くの映画制作の経験から低予算映画の実情を紹介しています。

本にはウラ話満載で、この投稿にもネタバレがあります。

映画「カメラを止めるな!」

映画「カメラを止めるな!」公式サイト
http://kametome.net/index.html

ストーリー
山奥の廃墟でゾンビ映画を撮影していた自主映画の撮影隊に本物のゾンビが襲いかかる。

監督&俳優養成スクール、ENBUゼミナールの開催する映画制作ワークショップでの作品で、イベント上映はするものの当初は一般劇場公開の予定はなかったそうですが、国内外の数々の映画祭で受賞、口コミで評判が広がり、最終的に全国353館で上映され、製作費300万円から興行収入31億円超の大ヒット、日本アカデミー賞8部門で受賞したとのことです。

書籍「低予算の超・映画制作術」の内容

本書の内容は、筆者と「カメラを止めるな!」の上田監督との出会いから始まり、「カメラを止めるな!」のプリプロ、撮影、ポスプロ、ヒットを振り返りながら、関連するトピックを取り上げる構成となっています。

「カメラを止めるな!」のメイキング写真が掲載されていて興味深いのですが、大半がモノクロで小さいのが少し残念です。そのかわりたくさん掲載されています。本の最初にはカラー写真が大きく掲載されています。

以下のようなことが書かれています。

上田慎一郎監督との出会い

上田監督のことは「変なヤツがいる」と話は聞いていて、筆者の事務所の引っ越しを手伝ってもらうことになったのがきっかけとのこと。

その後いろいろ話す中で、上田監督が地元の滋賀県からヒッチハイクで上京してきたことを知り、ヒッチハイクだけで日本全国を周ったことのある筆者は共感。

「カメラを止めるな!」の企画

上田監督から、ゾンビ映画を撮りたいけれども実現可能かどうかわからないという企画段階で相談を受けたエピソード。しかしその後完成した台本を読んでも残る、「ワンカットで本当に撮影できるのか?」「組体操による人間ピラミッドができるのか?」という疑問。

2分で特殊メイクでゾンビになるための工夫。

トラブルが発生した台本と本来劇中キャストたちが演じるはずだったトラブルなしの台本の2種類あった劇中劇台本。

映画の台本が劇中劇の台本を兼ねている裏話。

ロケハンにキャストや特殊メイクスタッフも同行し、実際にワンカット撮影をやってみて、筆者が撮影中に転んでしまったのを気に入った監督に、本番でも転んでもらえますか、と言われたエピソード。

ワンカット撮影をどう撮るか?代替案の検討。(しかし本番では苦労の末ワンカット撮影に成功)

撮影

使うカメラや機材、カメラ設定やカメラワークの検討。

「カメラを止めるな!」撮影機材のすべて。

ワンカットの違和感を作るための検討。

撮影初日は大雨だったため予定を変更して撮影。翌日は天気が回復したが、ロケーションの廃墟内は前日の雨でびしょびしょ。バケツで水を汲んでは捨てていったエピソード。

ワンカット撮影でカメラが止まってしまっていたトラブル。

日を改めての再撮影で起きたトラブルと奇跡。

セリフの「カット」か、ほんとうの撮影を「カット」するのかわからなくなることがたびたび。

廃墟のロケ地用のトイレのレンタルに思わぬ出費。

廃墟の控え室のシーンは全く別の場所で撮影。上田監督の自宅で夜に朝のシーンを撮影した工夫。

梅雨の中の撮影で降ったりやんだりする雨に悪戦苦闘。

屋内と屋外の明るさの差を合わせる工夫。

登場人物の一人がバンダナをしている理由。

一発勝負だった血しぶきシーン。

人間ピラミッドのシーンはリハーサルでは試行錯誤してようやく一瞬だけ成功しただけの状態で本番に望んだエピソード。

ドラマの中継モニター室のシーンは当初、廃墟ロケーションの倉庫での撮影を予定していたが、スケジュールなどの都合で、特殊メイクの方のアトリエで撮影。

編集

カットされたシーン、CGが追加されたシーン。

カラーグレーディングについて。

公開

映画完成時に筆者は中国にいて、ネット接続に悪戦苦闘しながら初視聴。

「カメラを止めるな!」の映画祭出品と受賞、日本で話題性が高まっていく様子。

イタリアの映画祭ではワンカット撮影シーンが終了したらすでに映画が終わったかのようなスタンディングオベーション。

著者がインド滞在中に日本アカデミー賞で受賞した連絡を受け、受賞式に出席しないと日本アカデミー賞はもらえないため、香港での撮影準備中に弾丸帰国。

日本アカデミー賞に低予算映画が参加するのは稀なことで、場違いな空気を感じ、飲み物と食事が運ばれてきたが食べていいのかどうかもわからない。誰も手をつけないまま食事を下げられ、デザートが出始めたエピソード。

「カメラを止めるな!」は編集部門で最優秀賞を受賞。受賞者は自動的に日本アカデミー賞の協会員になるため、優秀撮影賞を受賞した筆者も協会員になったこと。

イギリス初に上映された映画祭ではチケットが数分で売り切れ、筆者自身の作品も招待上映されており、こちらもほぼ満席。

香港ではハリウッド大ヒット映画でもそのほとんどは1〜2週間しか劇場公開されないが、「カメラを止めるな!」は2ヶ月近くのロングラン。

香港には自身の監督作の準備で訪れていて、オーディションに応募が殺到。

マカオのカジノ王の娘である歌手/女優が「カメラを止めるな!」の大ファンで、ギャラ不要で映画に出演したいと言われたエピソード。

香港のナイトマーケットでの撮影中、現地のヤクザが現れ緊張が走るが、通訳が事情を説明すると、手のひらを返したように態度が変わり、この一帯ならどこでも自由に撮影をしてOKと言われたエピソード。

「カメラを止めるな!」のWEBサイトはプロデューサーと上田監督自身が作成していて、フライヤーやパンフレットは上田監督の奥さんのふくだみゆきさんがデザインしているとのこと。

スピンオフ企画

テレビ番組内の短編企画「白昼夢 OF THE DEAD」に「カメラを止めるな!」以上の緊張感で望んだエピソード。

スピンオフWEBドラマ「ハリウッド大作戦」ワンカットシーンで屋外の映像から屋内へズームアウトする時の慌ただしいセッティングチェンジ。予期しないトラブル。

おわりに

最後の章「あなたのカメラを止めるな!」はカメラマンであり映画監督である筆者からのメッセージです。

「私の言う自主製作は作って終わりではない。公開し、販売などの展開までを行うところまで含めての自主製作だ。」

自主映画というだけで相手にしてもらえない現実。

AIにとって代わられる映画の未来の予想。

コラムや筆者自身の映画での経験(実際は各章の中や後ろで語られている)

超低予算映画の「カメラを止めるな!」より低予算の多い映画制作の現実。超過密スケジュールの実態。

筆者がこれまで多くの映画に関わった中で経験した数々のトラブル。最も過酷だった撮影現場のエピソード。

中国の撮影機材のススメ。

迅速な撮影にミニジブのススメ。

高い位置から撮影する方法のいろいろ。

iPhoneで誰でも映画撮影できる時代。

おすすめの編集ソフト。

自主制作映画でいかに限りなく0円で編集するか。

筆者自身の中国でのトラブルだらけの撮影の経験。日本と違って撮影は何も決まっていない行き当たりばったり。台本はコロコロかわり、キャストやスタッフが対応できずに喧嘩ばかり。

映画企画を出すと多くの人は「なぜこの映画を作るのか」ではなく「誰が出ているのか?」「原作は何なのか?」に注視するが、有名原作、有名キャストではなくても、よい作品を作り宣伝がうまくいけばこれだけ多くの人が見て喜んでくれるということを証明した、という筆者の思い。

自主製作映画を作った後の映画祭応募などの展開。翻訳と字幕制作。映画祭の応募方法。

劇場公開するための方法。

DCPの作り方。

映倫は必要か。

宣伝のためのデザインにお金をかけずに自分でやる方法。

パブリシティのしかた。

自身映画を配信化、DVD化する方法と現実。

海外へ映画を売る方法。

感想

本書は「カメラを止めるな!」成功の熱量で上記を詳しく書いている印象です。「カメラを止めるな!」のメイキングであるとともに、自主映画製作のガイドブックとなっています。自主制作映画を撮りたい人や始めた人にとって色々と参考になる内容だと思います。

上田監督の映画ではあまりショットリスト(本書中ではカットリストと表現)や絵コンテは作らず、著者の曽根さんも自身の監督作の時にはショットリストを用意しないことが多いとのことで、意外でした。