インターネットがない時代の少女たちの自己実現と恋 昭和のおすすめ少女マンガ

昭和のおすすめ少女マンガ

昭和のオススメ少女マンガを紹介します。

マンガに限らず映画その他のストーリーを面白いと感じるのは、年齢や作品の好みだけでなくその時の時代背景や時代の気分、表現のトレンドが影響しているはずで、今はじめて読む人が必ずしも面白いと感じるわけではないと思いますので、オススメというより、当時面白かったマンガの紹介と言う方が正確かもしれません。

現在も少年マンガ、少女マンガの分け方はあると思いますが、読者の性別を特に限定していないと思われるマンガも多いです。昭和の頃は少年マンガ、少女マンガの区別が今よりも比較的はっきりしていて、男の子は少年マンガを読み女の子は少女マンガを読むのが一般的でしたが、少女マンガを読む男子や少年マンガを読む女子もいて、私も少女マンガをよく読んでいました。

おそらく3つの理由があったと思います。

・少女マンガは感情の機微が描かれることが多く、ストーリーが面白かった

・少女マンガはダンス、歌、芝居など、表現者がテーマになっている作品が多く、個人的に共感した

・少女マンガは画面構成にメリハリやリズム感がある作品が多く、ビジュアルとして面白かった。

 

以下いくつかピックアップします。どこに魅力があったのかはそれぞれのマンガによって異なると思います。増刷分の情報は私が買った時点の情報のため必ずしも最終刷ではありません。また、単行本の価格は発行の時期で異なる可能性があります。

『うわさの姫子』①~㉛

小学館 てんとう虫コミックス
著者:藤原栄子
1975年(昭和50年)10月25日①巻初版1刷発行
1977年(昭和52年)4月30日①巻9刷発行
1986年(昭和61年)6月25日㉛巻初版第1刷発行
単行本価格:320円~360円

ストーリー
厳格な祖父に育てられた少女が転校した学校で最初はおとなしそうに振る舞うが、実は活発でスポーツ万能、男勝りな性格をしており、人気者になっていく。ガキ大将の少年は美人の彼女に運動神経抜群の座を奪われ最初は反発してちょっかいを出すが、次第に惹かれていく。一方彼女は最初、ハンサムだが病弱な学級委員長の少年を好きになるが失恋し、ガキ大将の少年とはケンカしつつも彼のいい部分も知るうち惹かれていく。一旦はお互いに好きだと告白し合うが、その後彼のことが好きなライバルが現れたり彼女の幼馴染が許嫁として現れたり、彼らの気持ちは揺れ動く。

後述の『ガラスの仮面』には及びませんが全31巻、10年以上に渡って連載され、当時人気があったマンガです。

掲載されていたのが『小学五年生』などの男女共通の学年誌ですが、単行本の表紙のデザインは暖色系が使われており、少女マンガと言っていいと思います。

大きな目の中にキラキラが描きこまれる絵柄です。また、主人公はいわゆる「姫カット」「姫子カット」と言われる髪型をしています。姫カットは日本の平安時代の女性の髪型にルーツを持つようですが、その呼び方は、特に「姫子カット」と表現される場合は、同様の髪型をしている本作の主人公「姫子」からの影響があると思います。

学校で起きる様々な事柄や、三角関係や失恋などの恋模様、小さい頃に姫子の両親が離婚してその後父も事故で亡くなっており、顔を覚えていない母親への思いと偶然の出会いなど1巻から盛りだくさんな内容で、その後も様々なことへのチャレンジや悲劇的な事件もあり、今だったら高校を舞台にするような印象のストーリーですが、主人公たちは小学校高学年です。

登場人物達が小学生なだけあって、純粋な感情が描かれることや、主人公がスポーツ万能で、様々なことに巻き込まれながらもチャレンジ精神旺盛で前向きな「ニュートラルでいいやつ」であることや、普段はいがみ合うこともあるガキ大将のマサキと結局安定の関係になっていくのも魅力です。

通常はラブコメ的な描き方が多いのですが、時おり恋愛にまつわるかなり繊細な感情が描かれます。一旦はお互いに好きだと告白しあった姫子とマサキですが、姫子は、マサキとキスしたと恋敵が煽ってきたのを聞いて心が痛み、改めて自分のマサキに対する気持ちを意識するとか、姫子の幼馴染が許嫁として現れ、普段はおちゃらけているマサキはシリアスになったりします。

悲劇的な事件が起きるまでは三角関係や失恋などの恋模様のエピソードが大きなウエイトを占めていますが、その後は恋愛要素を残しつつも様々なことにチャレンジする内容のウエイトが徐々に増えていきます。

また、様々な面で時代を感じます。

登場人物達の普段着に時代性を感じます。女子の体操服はブルマーです。

新聞部の発行する新聞をガリ版印刷で制作する様子が描かれます。ガリ版とは、原紙に鉄筆で文字を刻みインクを塗ったローラーを転がす簡易印刷で、今のようなコピー機が一般化する前は、学校のプリントも試験用紙も文集もガリ版で刷っていました。もちろん世の中にパソコンがなかった時代です。

『ガラスの仮面』①~既刊㊾巻

白泉社 花とゆめCOMICS
著者:美内すずえ
1976年(昭和51年)4月20日①巻第1刷発行
2012年(平成24年)9月15日①巻第84刷発行
2012年(平成24年)10月5日㊾巻第1刷発行
単行本定価:400円+税

ストーリー
父親がおらず貧乏で、母と中華料理店で住み込みで働く、芝居を見ることが好きでのめり込みすぎろくに仕事の手伝いもできない少女が、かつての大女優に女優としての秘めたる才能を見いだされ演技を始める。数々の逆境にあう一方正体不明の支援者に金銭的にも気持ちの上でも支援され励まされながら、女優としての才能を開花させていく。

映画監督と女優を両親に待つ才能あふれる少女がライバルとして描かれます。

芝居を続ける中、様々な不幸な境遇やひどい仕打ちにあいますが、それらを乗り越えていく姿に心打たれます。「逆鏡を乗り越える」のはある意味ストーリーの王道ですが、このマンガの主人公は、芝居への執着とのめり込み方、逆鏡の乗り越え方に狂気があるのが特徴です。

ストーリー冒頭、まだ中華料理店で働くただの少女だった頃からそのキャラクター性がこれでもかと表現されます、出前中に映画館への出前をした時に映画をタダ見したまま終わりまで見てしまい次の出前ができず、怒られている最中に目に入ったテレビのドラマに意識が行ってしまいさらに怒られ、あまりのテレビの見たさに、屋根に登って隣家の窓からテレビを覗きます。

しかし近所の子どもたちに映画の内容を身振り手振りで説明している様子をたまたま見かけた往年の大女優がその才能に衝撃を受け、声をかけます。

中華料理店の娘から、3人分の出前を時間までに1人でやったら芝居のチケットをあげると言われ、フラフラになりながら這いながら出前を終え、ほんとは冗談でからかって言っただけだった娘が意地悪くチケットを風に飛ばして海に落ちたチケットを拾うために冬の海に飛び込みます。

そうして見に行った芝居の劇場で、その劇場の持ち主である芸能会社の時期社長と目されている、現社長の息子であり後に正体を隠して主人公をサポートする男と出会い、また、後にライバルとなる、芝居を見に来ていた主演女優の自分と同じ年齢13歳の娘を見かけます。

連載が始まったのが1976年で現在㊾巻まで出ていますが、その後最新刊がずっと発行されず、作者の存命中に出るのだろうかと心配する声が見られます。

『シシイ・ガール』①~③

小学館 フラワーコミックス
著者:池田さとみ
1981年(昭和56年)11月20日①巻初版第1刷発行
1982年(昭和57年)5月20日③巻初版第1刷発行
単行本定価:360円

ストーリー
両親が自殺した少女が、父親を追い詰めて芸能事務所のトップの座を奪った叔父に復讐するため、様々な逆鏡を乗り越え、歌手として成功するためになりふり構わず努力する。

少女マンガで歌手を目指すストーリーはそれなりにあるかもしれませんが、本書のようにその動機が強い復讐心というのは珍しいかもしれません。しかし強烈な逆境を乗り越えていくストーリーという意味では普遍性があると思います。

主人公の少女奈智亜(なちあ)の父親は芸能事務所の社長でしたが、彼の弟、奈智亜から見ると叔父に横領の罪をなすりつけられ、会社を乗っ取られ、一家で車で心中する直前に奈智亜と彼女の弟は車から落とされ、両親だけが亡くなります。その後親戚のうちに引き取られますが、そこのおばが奈智亜たちを引き取らされたことに不満たらたらでつらくあたり、奈智亜たちは肩身の狭い思いをし、17歳になった奈智亜は弟と家を出て、アルバイトをしながらアパート暮らしを始めます。そんな折にふと、叔父が乗っ取った芸能事務所の新人歌手の街頭宣伝を見て、父や歌手だった母親が自分に残してくれた歌の能力を使って復讐することを心に誓います。

歌のうまさは早速叔父の会社のスカウトの目にもとまりますがそれを無視し、他の会社のスカウトに乗りデビューが決まりますが、叔父の会社は様々な汚い方法で妨害し、卑劣な手で潰しにかかってきます。

 歌手として世の中に出るありようが現代はだいぶ変わり時代背景が違いますので、現代の人が初めてこのストーリーを読んだらどう感じるかわかりませんが、当時はとても心に残りました。

このマンガも様々な面で時代を感じます。

このマンガで語られるのは配信でもなくCDでさえなく、発売するのはレコードです。カセットテープも出てきます。

 最近の漫画やアニメでは、キャラクターが実年齢より若く描かれていることが多いですが、この漫画では主人公がかなり大人っぽく描かれています。 アパート暮らしを始め復讐を始めた年齢が17歳ですが、少なくとも20代半ばくらいに見えます。その理由の一つは、当時のマンガの絵柄の傾向が現在とは異なっていたこと、もう一つの理由は、復讐を達成するには主人公が強くなければならなず、それを絵柄にも反映させているためだと思います。

辞書によると、シシイ(sissy)という言葉には基本的に次のような意味があります。
 「女々しい少年」「いくじなし」、「姉、妹」「少女」、「同性愛の男」。
 著者は①巻の最後で、彼女のイメージは「妹みたいにかわゆくて(原文ママ)」「教会のシスターのように聖少女で」「看護婦さんのようにやさしい女の子」だと述べています。「sissy」は一般的には否定的で侮辱的な意味を持つことが多いようですが、おそらく著者は言葉の語感にも惹かれ、辞書に記載されていた意味の中から「妹」をピックアップしてイメージを膨らませ、自分の解釈のまま使ったのではないかと思います。

『ダンシング・ゼネレーション』①〜④

集英社 マーガレットコミックス
著者:槇村さとる
1982年(昭和57年)3月30日①巻第1刷発行
1982年(昭和57年)11月30日④巻第1刷発行
1984年(昭和59年)12月15日④巻第12刷発行
単行本定価:360円

ストーリー
様々なダンスのバックグラウンドを持つ若いダンサー達がニューヨーク・ダンシング・カンパニーの日本公演キャストのオーディションを受ける。しばらくダンスから離れていた主人公の女子高校生がオーディションを受ける友人に付き添い中、カンパニー所属の世界的な日本人ダンサーにむりやり踊らされるが彼女も含め全員落ちる。彼女と他の落ちたダンサー達が、ほんとうに踊りたいやつだけこいと言われ、彼が実験的に主宰するダンスチームに入り、少しずつ大きな舞台でダンスするようになっていく。

クリエイティブな分野で、時に自ら、時に外から設定された次の目標に向けて一歩一歩進んでいき、反発や葛藤、自己嫌悪や挫折、妬み、親の無理解や仲間の離脱を乗り越えながら切磋琢磨し高みを目指して、海外にも出ていくストーリーで、刺激的で面白かったです。

主要登場人物であるアイコとシン、単なるダンス仲間だった二人が親密になっていき、お互いに影響を与えながら追い越し追い越され、切磋琢磨する様子もみどころです。

主人公たちはあがきながら努力していきますが、巻を追うごとにステージが上がっていきます。

①巻ではニューヨーク・ダンシング・カンパニーに落ちはしたものの、そのメンバーである世界的な日本人ダンサー神崎の主宰するダンス・チームに入り、手作りのダンス公演をします。実力不足を痛感するもののカンパニーから認識もされ、理解者も現れ、ニューヨークでレッスンをする目標ができます。

②巻の最後では、主人公はダンサーになることを両親から認められないという試練もありますが、家出をしようとしたところ両親から理解を得ます。②巻まではダンスをしていきたいと願う女子高校生でしたが、その後③巻ではニューヨークで自分の踊りにあがくダンサーになっていきます。そして④巻ではニューヨーク・ダンシング・カンパニーの団員としてあがくダンサーとなっていき、パリ・オペラ座への留学が決定するところで物語は一旦終わります。

本作は、ダンサーとして理想的に成長していくサクセスストーリーを描くフィクションですが、今もダンサー希望の人が読んだらすごくインスパイアされるのではないかと思います。

その一方で、今とは社会状況が違う中でダンスの虜になった人たちの話として見ると、また違う面の面白さがあります。

時代が変わってもダンスは身体表現ですので普遍的だと思いますが、キャラクター達をとりまく状況は現代とは異なります。ここで描かれているのは、インターネットもスマホもなく、外で電話をする時は公衆電話を使い、今よりもはるかに外国が遠かった時代です。海外の情報を得る方法は旅行ガイドブックや新聞、テレビニュースくらいしかなく、海外にいる人と連絡を取るには「手紙」を出すか「国際電話」をするか、という時代です。今は海外の情報を入手したり海外にいる人とコミュニケーションすることがほんとうに簡単になりました。

作中、日本からニューヨークへの「往復の運賃だけで1人40万」という表現が出てきます。マンガと同時期を想定したストーリーだと思いますが、1980年代はまだ格安航空券が一般化していく前の時代で、海外に出ていくことは現在よりもハードルが高かったです。

また、1980年代から1990年代のニューヨークは治安が悪く、私が最初にニューヨークへ行ったのは1991年ですが、今ほど旅行者に優しい場所ではなかったです。ニューヨークへ降り立ったときは、「あの」NYに降り立ったワクワク感と同時に、独特の緊張感がありました。

単行本②巻の最初に、主人公がニューヨークへみんなでレッスンに行くことを親に許可してもらえないエピソードがあります。

このマンガには、そういった危険と隣り合わせだけれどもエキサイティングな街に乗り込み、異国の文化に苦労しつつも前進していく主人公はじめ登場人物達を見る面白さがあります。

ダンスという身体全体を使う表現をテーマとしているだけあり、ダンスシーンは画面構成もダイナミックです。身体の動き(かたち/ポーズ)を活かした画面構成で、メリハリとリズム感を作っています。

2024年2月4日追記
▶︎「デビュー50周年記念 槇村さとる展」のレポートと感想はこちらの投稿をご覧ください。

『N★Yバード』①〜③

集英社マーガレットコミックス
著者:槇村さとる
1983年(昭和58年)9月30日①巻第1刷発行
1984年(昭和59年)1月30日③巻第1刷発行
1984年(昭和59年)12月15日③巻第7刷発行
単行本定価:360円

ストーリー
ニューヨーク・ダンシング・カンパニーに所属した状態でパリ・オペラ座で研修生として修行をしていた主人公アイコがニューヨークに帰ってくるが、1年前恋人同然だった仲間のシンが、アパートを出ていて行方がわからず探す。一方、世界的日本人ダンサーでありこれまで引っ張ってきてもらった「先生」である神崎の呪縛に苦しみ逃れようとする中で新しい道を歩んでいくが、ダンサーとしても男女としても、神崎と恋人のシンとの三角関係が明確になっていく。

本作は『ダンシング・ゼネレーション』の続編で、『ダンシング・ゼネレーション』同様ドラマチックな展開が目白押しです。新しい登場人物が多く出てきます。『ダンシング・ゼネレーション』でキャラクターの背景まで描かれた主要登場人物以外の新しい登場人物たちも、それぞれの考え方、生き方が比較的丁寧に描かれています。

『ダンシング・ゼネレーション』では、ダンス好きな若者たちが、葛藤や挫折を乗り越えながら切磋琢磨して進化していく様子を中心に描かれ、その中で主人公アイコと、彼女の仲間の1人シンが恋人同然になっていきますが、『N★Yバード』ではダンサーとなった彼らの葛藤が描かれ、恋愛要素も大きな要素となっています。

ニューヨークに戻った直後、仲間の1人でありアイコの恋人同然となっていたシンが音信不通だと知ったアイコは彼を探しまわったことで自分の舞台に穴を開け、ニューヨーク・ダンシング・カンパニーを除籍となり、人生の帰路に立ちます。

アイコは新しい友人たちもでき、新しい道を模索しますが、シンはアイコの知らないところで独自の前進を遂げてまた目の前に戻ってきます。

新しいチャンスに巡り合い物事が周り始めたあとも、ブロードウェイのスターが仲間、あるいはライバルとなり、葛藤は続きます。アイコと、シンと、先生である神崎との三角関係も描かれます。それはダンサーとしての切磋琢磨、ぶつかり合いも含んでいるためよりドラマチックです。

『ダンシング・ゼネレーション』ではやや荒削りだったダイナミックな画面構成はより洗練されています。

ちなみに、プロのダンサーを目指すストーリーの大ヒット映画「フラッシュダンス」は『ダンシング・ゼネレーション』の最終巻(④巻)が発行され『N★Yバード』の連載が開始された1982年の翌年1983年に公開されています。

2024年2月4日追記
▶︎「デビュー50周年記念 槇村さとる展」のレポートと感想はこちらの投稿をご覧ください。

『CIPHER サイファ』①〜⑫

白泉社 花とゆめCOMICS
著者:成田美名子
1985年(昭和60年)1月1日①巻発売(不確実情報)
1990年(平成2年)1月1日⑫巻発売(不確実情報)

白泉社文庫版①〜⑦
1997年(平成9年)3月19日白泉社文庫版①巻初版発行
2003年(平成15年)11月15日①巻第7刷発行
1997年(平成9年)9月17日白泉社文庫版⑦巻初版発行
2007年(平成19年)11月15日⑦巻第12刷発行
文庫版定価562円+税
上記の日付は元の単行本コミックではなく文庫版の奥付に書かれていた日付です。

ストーリー
美術学生でありながらモデル兼俳優で有名人の男子学生と友達になりたい女子学生が直接アプローチをして友人付き合いが始まるが、男子学生は瓜二つの双子の兄弟と毎日入れ代わりの生活をしていることを知り、友達は見分けられるという自分の信念によって2週間後に彼らを見分けられるか賭けをする。当てられれば真実を教えてもらうが、当てられなければ以後いっさい詮索しないよう伝えられる。

女子学生アニスの目線で描かれるエピソードと、兄弟又はそのどちらかの目線で描かれるエピソードがあります。女子学生も、双子の兄弟の方も主人公と言っていいと思います。

美術学校が舞台になっていますが、作品を作る様子は基本的には出てきません。また、双子の兄弟は役者をしていますが、仕事の様子はあまり出てきません。女子学生と双子の兄弟の関係が主に描かれ、彼女は賭けが終わったあとも双子の兄弟のアパートに入り浸り、ケンカしたりしつつも関係が深まっていきます。

価値観の違う若い男女が、はっきり自分の考えを主張しながら相手を理解し、親密になっていく面白さがあります。それは男女の間だけでなく、様々な人がいるアメリカらしく、友人や親子の間でも描かれます。主人公の女子学生は、離婚した両親それぞれをファーストネームで呼ぶのもアメリカ的です。

賭けの期限で彼女はほぼ見分けられるようになりますが、プライバシーに踏み込むことに躊躇し、わざと間違えます。その後も友達付き合いは続き、理解と関係が深まっていき、彼女はその後弟の方とより親密になっていきます。読者は、女子学生の目線で双子の兄弟の真実に近づいていく面白さがあります。また、彼女が恋愛を通して精神的に少女から大人の女へ変化していく様子も丁寧に描かれ、見どころとなっています。

シリーズ半ばでは双子の生い立ちからのストーリーも描かれ、入れ代わりの生活をするようになったきっかけのでき事や、さらにその引き金となった家族間での問題も時間を追って描かれます。

登場人物、特に双子の兄弟に関して、キャラクターが極めて丁寧に描かれています。生い立ちや過去の出来事、そこから生まれる現在の状況や価値観や関係性が描かれ、関わる人の価値観や人生もあり、それらがレイヤーのように重なっていきます。まるで、兄弟の数奇な人生に立ち会っているかのようなストーリーです。

ニューヨークが主要な舞台ですが、入れ代わり生活がその後悲劇を呼び、ある事件がきっかけとなり、双子の弟の方が責任を感じると共に、付き合い始めていた女子学生とも会えないと感じロサンゼルスへ引越します。

日本人である著者が取材に基づいて描いていますが、異国のストーリーを読む面白さがあります。単行本版は未確認ですが文庫版①巻には連載前の取材のレポートが文章と写真で掲載されています。

久しぶりに読んでみましたが、全く古さを感じさせないストーリーで、普通に面白かったです。

『3-THREE-』①〜⑭

小学館 フラワーコミックス
1988年(昭和63年)10月26日①巻発売(不確実情報)

ストーリー
歌唱力とルックスのよさを認められ、アイドル歌手としてのデビューが決まっていた女の子と、普段は地味だが卓越したギターのテクニックを持つ男の子が、互いに影響を与えながら、その後恋人どおしになり、それぞれトップになっていく。

最初はややぼーっとしていた少女と少年が、少女はその少年との関わりを通して、少年はその少女との関わりを通して、そして音楽を通して自己実現していく様子が描かれています。

心に空洞を抱え機械(電子楽器)に囲まれた部屋に住む少年、ぼおっとしているが芯がしっかりしており表情豊かで正義感もある少女の組み合わせがいい感じです。

アイドルに恋愛はご法度とか、バンド内のいざこざなども描かれます。

作者は音楽がかなり好きなんだろうなと感じるマンガです。