様々な作品の影響を受けつつ現代的なテーマを描く『ザ・クリエイター/創造者』人間よりもAIの方が精神性が深いかもしれない世界観(ややネタバレあり)

様々な作品の影響を受けつつ現代的なテーマを描く『ザ・クリエイター/創造者』人間よりもAIの方が精神性が深いかもしれない世界観(ややネタバレあり)

AI(自立ロボット達)と人間の関係を描いたギャレス・エドワーズ監督の映画『ザ・クリエイター/創造者』は、様々な作品の影響を受けつつ現代的なテーマを扱っており、またインディーズの雰囲気のあるメジャーSF映画です。

『ザ・クリエーター』のストーリー

ロサンゼルスが壊滅的に破壊された世界で、それがAIによるものだとしてAIを禁止している西側世界の軍隊がAIと人間が共存するアジア世界へ侵攻する中、かつてアジアで潜入工作員だった男がAI側の兵器の創造者を抹殺するために現地へ送られるが、見つけたのは子供のAIロボットで、彼女をかくまいながら西側の軍隊の攻撃を止めようとする。

主人公ジョシュア・テイラーの(以前の)役割

いきなり余談ですが、上で、主人公ジョシュア・テイラーが「潜入工作員」だったと書きましたが、これは単純に、映画を見た私の印象です。実際にどう表現されていたか覚えていません。実のところ彼がストーリー冒頭で妻とニューアジアにいた時の肩書又は役割の名称は、媒体によって様々な表現となっています。

公式サイト(英語):「ex-special forces agent」(元特殊部隊員

公式サイト(日本語):「元特殊部隊」

映画パンフレット(日本語):「潜入捜査任務についていた」

ウィキペディア日本語ページ:「元特殊部隊隊員」

ウィキペディア英語ページ:
肩書き「U.S. Army sergeant」(米陸軍軍曹
役割「undercover operative」(潜入捜査官、又は潜入工作員)

かっこ内は翻訳ツールを使った日本語訳です。

『ザ・クリエーター』で扱っているテーマ

さて、AIや戦争というテーマは現代的でタイムリーですね。

AIを描くとなると、AIの驚異とかAIが人間を攻撃するという話になりがちですが、今作はそういった体で始まりつつも、アジアではAI(自立ロボット達)と人間が共存していてそこに西側の軍隊が攻撃していく構図になっており、人間対AIではなく、戦争をする者対平和を望むものの対立になっているのが面白いです。

人間の世界に戦争がなくならないのは根本的には人間の生存本能のためだと思いますが、それがないAIはプログラムされない限り人間を攻撃する事はないだろうと個人的には思っています。

人間の情報処理能力は限られており、判断や行動は常に恣意的です。主観で行動し、自分たちの思想や生存や恨みを元に争い、人間の存在を最も脅かしているのは自然発生的な疫病を除けば人間であることは昔も今も変わりません。

十分に発達したAIは人間の処理能力を超える情報に瞬時にアクセスし、データと統計に基づいた客観的な判断をすることができるようになると思います。

自意識や生存本能を持つようになるのかどうかはわかりませんが、仮にもつとすると、この映画で描いているような世界の構造になるのかもしれません。

『ザ・クリエーター』のデザイン・世界観

『スター・ウォーズ』(1977〜)に見られるようなレトロでキッチュなデザイン、『ブレードランナー』(1982)に見られるようなアジアテイストの入った雑然とした街やレトロフューチャリスティックな乗り物のデザイン、『イリジウム』(2013)に見られるようなハイテクが自然に溶け込んだ未来的な世界観、あるいはコミックからアニメ化もされた『AKIRA』に見られる世界観やデザインなど、ビジュアル的に様々な映画からの影響を強く感じます。いいとこ取りとも言えます。

メジャーの扱うインディーズ映画

「史上最高に野心的なインディーズ映画を作ろうとしている」と、ギャレス・エドワーズ監督が映画パンフレットのインタビューで語っていますが、それは映画の世界観にも表れ、パンフレットで制作手法に関して読むと、さらに納得できます。

世界観
前述のように、人間対AIの対立ではなく戦争をする者対平和を望むものの関係がテーマになっており、AI(自立ロボット達)が寺院で僧侶をしている様子や、メインキャラクターである高度なAI少女がテクノロジーをリモートコントロールするときに胸の前で手のひらを合わせることでそれが発動するというアイディアなど、AIの方が人間よりも精神性が深いことが示唆されているようにも見えること、様々な作品の影響を受けた世界観やデザインの趣味が現れていることなどから、オリジナル脚本も手掛けた監督の思いが感じられます。

制作手法
制作方法もインディーズに近い手法が取られたようです。パンフレットに、様々な面白い裏話が書かれています。

製作会社へ売込みをして低予算で制作した最初の長編映画『モンスターズ/地球外生命体』を映画祭で見てマネージングを申し出てきたエージェントからオファーを受け『GODZILLA ゴジラ』に取り組む中、「低予算映画と大作映画、両者の長所を活かすための完璧なバランスがきっとどこかにあるはずだと思えた」こと。

『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』が終わり、ガールフレンドとドライブ中に草地の真ん中の日本語のロゴが書かれた奇妙な工場を見て、そこで作られたロボットが外に出た時のことを夢想し、その脚本執筆中にベトナム全土を旅している時、仏教の僧侶がAIというアイディアが生まれ、ベトナムを舞台にした『ブレードランナー』的なものを作ったらどうだろうと考え胸が踊ったこと。

『モンスターズ、、』のプロデューサーに連絡し、「史上最高に野心的なインディーズ映画を作ろうとしている」と説明したこと。

プロデューサーと2人でロケハンの名目でカメラを回し、プロダクション・デザイナーの1人がそれらのショットの上に絵を描き、ILMがテストの一貫として様々なSF要素を追加してくれ、それをスタジオに見せゴーサインが出たことなど。

規模は大きいですが、監督主導でインディーズ的な作り方をしたことがわかります。

パソコンの高性能化や様々なツールの発達で映像制作がしやすくなり、面白い時代になりました。しかしメジャースタジオの映画でオリジナル脚本のインディーズ的な作品を成立させるためには、実力と行動があってこそだったのだろうと想像します。