ストーリーのない映画・映像作品を楽しむ

ストーリーのない映画・映像作品を楽しむ

三幕によるストーリー構成は面白いストーリーを作るために有効とされ、私も自分のショートフィルム(短編映画)を制作する時に利用してきました。多くの映画でも使われていると思います。

しかしそのせいかどの映画を見ても、ストーリーは異なっても「何か問題や弱さを抱えた人物が、何かの状況に巻き込まれ、様々な困難に対処して、最後は状況を解決して成長したり先に進むか、無事もとの世界に戻る」という構造が同じのため、どれも同じように感じ、時々全く違うものが見たくなることがあります。

面白いかどうか人によって感じ方は違うと思いますが、ストーリーのない映画や映像作品もありますのでいくつか紹介します。ネタバレを含みます。

映画
 
『コヤニスカッツィ』Koyaanisqatsi 映画祭での上映:1982、アメリカ公開:1983

監督:ゴッドフリー・レッジョ
撮影:ロン・フリック
音楽:フィリップ・グラス
上映時間:86分(『コヤニスカッツィ』DVDパッケージより)

日本公開時の日本語タイトルは『コヤニスカッティ』でしたが、その後、実際の発音に近い『コヤニスカッツィ』と表記されているようです。2003年に発売されたDVDの映像中の字幕には『コヤニスカッティ』と表現されていますが、レーベルや箱には『コヤニスカッツィ』と表記されています。

一般的な意味でのストーリーはなく、人は映っていますが主人公などの登場人物はおらず、セリフもナレーションもない映像と音楽だけの映画です。自然の様子と、その中で増殖し、大量に移動し大量に生産し消費する人間の営みが描かれています。

冒頭はアメリカ原住民族の絵文字から始まり、ロケット発射の映像のスローモーション、広大な岩の荒野を夕日が赤く染める風景へと続きます。流れる雲や波をしばらく映したあと、土地を開拓する大型車両、煙突がモクモクと煙を吐き出す工場、都市における車や人々の流れ、大量生産をする工場の機械の動きなどの早回し及び時にスローモーションの映像と、繰り返しを多様したフィリップ・グラスの音楽によって構成されています。

映像にストーリーがないのと同様音楽にも一般的な意味でのメロデーは希薄で、早いテンポでフレーズが繰り返され、早回しの映像に合っています。その音楽に合わせた都市の人の流れや食品工場で次々出てくるソーセージの早送り映像は滑稽にも見えます。

映像の手法的には長編タイムラプスですが、明快なテーマというか視点があると感じます。

タイトルの『コヤニスカッツィ』はアメリカ・インディアンの部族のひとつであるホピ族のことばだそうで、映画の最後にその意味がテロップで説明されます。

1. crazy life.
2. life in turmoil.
3. life out of balance.
4. life disintegrating
5. a state of life that calls for another way of living

日本語字幕は以下のようになっています。

1. 常軌を逸した人生
2. 混乱した社会
3. 平衡を失った社会
4. 崩壊する社会
5. 他の生き方を脅かす生き方

タイトルの説明後、ホピ族に伝わる、人間の生活様式に警鐘を鳴らす予言もテロップで紹介されます。

監督のゴッドフリー・レッジョ(Godfrey Reggio) は、”These films are meant to provoke. They are meant to offer an experience rather than an idea or information or a story about a knowable or a fictional subject.”「これらの映画は挑発することを目的としています。 それらは、思想や情報、既知の又は架空の主題についての物語ではなく、体験を提供することを目的としています 」とインタビューで語っています。日本語字幕では「目的は挑発さ 3部作が提供するのは”体験”であり 思想でも情報でもましてや陳腐な作り話のストーリーでもない」と訳されています。「これら」というのは『カッツィ』三部作を表します(後で解説)。

映画の最後はロケットが爆発して墜落する映像で終わり、また壁画に戻ります。チャレンジャー号の爆発事故を思い起こしますが、これは無人ロケットアトラスとのことです。チャレンジャー号の事故はこの作品の約4年後のことです。

通常の映画は人間の目線に合わせてドラマが描かれますが、『コヤニスカッツィ』は、もっと俯瞰の視点で描かれていると思います。

ストーリーはありませんが、人間という種のストーリーを描いたと言えるかもしれません。単純な文明批判ではないものの、タイトルの選び方や最後に予言を載せていることから明らかですが、警鐘ではあると思います。こういう俯瞰の視点を持つ人は少なくないと思いますが、『コヤニスカッツィ』で俯瞰している視点に共感するかどうかは、2021年現在、人によるかもしれません。

余談ですが、石岡瑛子さんがデザインしたポスターも印象的でした。

ゴッドフリー・レッジョ監督の経歴についてはこちらの投稿もご覧ください。

『ポワカッツィ』Powaqqatsi 1988アメリカ

監督:ゴッドフリー・レッジョ
撮影:グラハム・ベリー、レオニダス・ズードミス
音楽:フィリップ・グラス
上映時間:100分(『ポワカッツィ』DVDパッケージより)

当初の日本語タイトルは『ポワカッティ』でしたが、現在は実際の発音に近い『ポワカッツィ』と表記されているようです。2003年に発売されたDVDの映像中の字幕には『ポワカッティ』と表現されていますが、レーベルや箱には『ポワカッツィ』と表記されています。

『カッツィ』三部作のニ作目です。音楽はまたフィリップ・グラスが担当しています。『コヤニスカッツィ』のスタイルを踏襲していますが、映像は早回しよりもスローモーション主体で、人の生活を追う内容となっています。

赤土の大地で土まみれになって荷物を運ぶ労働者の映像からはじまります。音楽は『コヤニスカッツィ』と異なり、エスニックで軽快な音楽です。タイトルをはさみ、夕日の映像と、さっきとは別の場所で荷物を入れたカゴを頭に乗せても運ぶ映像、カヌーで漁をしているらしい映像、荷物を乗せた天秤を担いで運ぶ映像、そして、世界の様々な場所で、山の段々畑や未発達の生活をしている人々の様子や寺院や川などでの祈りの映像も映されます。時々ひとの顔のアップを映すのは『コヤニスカッツィ』と共通します。

後半に入ると急に貨物列車の映像と早いテンポの曲に変わり、都市の様子へと続きます。

このタイトル『ポワカッツィ』もホピ族のことばで、映画の最後に意味がテロップで説明されます。

An entity, a way of life, that consumes the life forces of other beings in order to further its own life.

日本語字幕は以下のようになっています。

「他の生き方を食い荒らす生き方」

全般的に『コヤニスカッツィ』のような集積された緊張感や荘厳さはなく、特に前半は紀行ものの映像のように感じます。

『ナコイカッツィ』Naqoyqatsi 2002アメリカ

監督:ゴッドフリー・レッジョ
撮影:ラッセル・リー・ファイン
音楽:フィリップ・グラス
上映時間:89分(IMDbより)

ニ作目から14年、『カッツィ』三部作の三作目です。音楽はまたフィリップ・グラスが担当しています。この映画の約80%は、操作および処理されたアーカイブ映像とストック画像を使用しているとのことです。(英語版Wikipediaより)

このタイトル『ナコイカッツィ』もホピ族のことばで、「戦争としての生活」の意味とのことです。(英語版Wikipediaより)

日本でも2004年にユーロスペースにてロードショー公開されたようです。(『コヤニスカッツィ』『ポワカッツィ』DVDに封入された『ナコイカッツィ』特別優待割引券より)

『アンダルシアの犬』Un Chien Andalou(フランス語) 1929フランス

監督:ルイス・ブニュエル
脚本:ルイス・ブニュエル
   サルバドール・ダリ
上映時間:21分(Wikipediaより)

映像の断片をつないだ21分の実験的サイレント映画(音楽が入ったサウンド版)です。映画というよりアートフィルムと言ったほうがイメージしやすいと思います。

冒頭では、男がカミソリを研ぎ、バルコニーに出て夜空を見上げると、丸い月を上下に分けるように雲が横切り、それが連想するような女性の眼球をカミソリで切る映像へ繫がります。以後、男女の情のもつれを中心にしつつも、夢で見るように断片的なシーンが続き、それぞれの断片には物事の進行があるものの、脈絡や連続性なく物事が変化したりシュールなイメージが現れたりします。

上で紹介した『コヤニスカッツィ』のゴッドフリー・レッジョ監督は、ルイス・ブニュエルの1950年の『忘れられた人々』を見た時の感動は霊的体験に等しかったとインタビューで語っています。『忘れられた人々』はストーリーのある映画ですが、ストーリーのない映画を作った監督ゴッドフリー・レッジョが、明確なストーリーのない作品を過去に作った監督ルイス・ブニュエルの作品に惹かれたというのはおもしろいですね。

『天使』L’ANGE 映画祭での上映:1982、フランス公開:1984

監督:パトリック・ボカノウスキー
上映時間:64分(Wikipediaより)

これもジャンルとしてはアートフィルムと言えるかもしれません。

『ブルー』Blue 1993イギリス

監督:デレク・ジャーマン
上映時間:74分(Wikipediaより)

画面一面青一色が続き、朗読と音楽が添えられた作品です。

映像作品

映画としては発表されておらず、主にミュージックビデオや映像コンテンツとして発表・販売されたものの中にもストーリーのない映像作品があります。多くのミュージックビデオは音楽家の演奏シーンや、歌詞の世界観やストーリーを映像で表現したものですが、ストーリーを持たず映像と音楽で構成された作品もありますのでいくつか紹介します。

『Gantz Graf』オウテカ(Autechre) 2002

音楽:オウテカ(Autechre)
ビデオ:アレックス・ラッターフォード(Alex Rutterford)

オウテカは一般的な意味でのコード進行やメロディーのない抽象的な音響による楽曲が魅力のテクノユニットです。楽曲『Gantz Graf』のミュージックビデオは、その抽象的な楽曲を映像で表現したと思われるもので、暗い空間でモーターか何かの機械の部品のようなものが、回転しながら音に合わせて変形したり分裂したり放電したりする極めてグラフィカルな映像です。音と映像が驚異的にシンクロします。

映像を制作したアレックス・ラッターフォードは、主にミュージックビデオに取り組んでいるイギリスのディレクター兼グラフィックデザイナーです。『Gantz Graf』は2002年の作品で、当時のパソコンの性能や映像制作を取り巻く環境ではかなりの力技と集中力を必要としたのではないかと思いますが、非常にかっこいい映像です。

この映像のデザイン要素だけを見ると、概ね2010年代以降の映画やゲーム内のデザインやエフェクトに同様の要素は見られると思いますが、ミュージックビデオとして見ると2021年現在でも先鋭的に感じます。必見です。

『Gantz Graf』についてのアレックス・ラッターフォードのインタビューがあります。
https://web.archive.org/web/20070311234741/http://www.warprecords.com/news/?ti_id=512

virtual drugシリーズ 1992あたり〜

テクノ音楽の流行と1994年に開店したベルファーレ(2006年末に閉店)などのディスコ/クラブ文化を背景に、当時まだ黎明期であったコンピュータによるCGや映像と音楽を合わせたコンテンツも色々と発表、販売されました。庄野晴彦さんや石茂雄さん、タナカカツキさんなどが映像を制作、万華鏡のような映像やCG映像と音楽を合わせたものが多かったですが、その他にも様々なタイプのものが発表、販売されました。

以下のようなものがありました。

『virtual drug ECSTASY』
発売:1992(レーザーディスク/VHS)、2001(DVD)(Amazonより)
映像:石茂雄

『virtual drug -NATURE’S ECSTASY- FLOWER』
発売:1992(VHS)(Amazonより)

『virtual drug -NATURE’S ECSTASY-  WAVE』
発売:1992(VHS)(Amazonより)

『virtual drug ZONE』
発売:1992(VHS)(Amazonより)
映像:庄野晴彦
テクニカルディレクション:石茂雄
音楽:I.R.M.、DANA VLCEK
サイケデリックな色調のメタリックなCG要素とビデオエフェクトによって作られた万華鏡的映像で、途中単純なCG風景のフライスルーをはさみます。

『virtual drug 2000』 THE 5.1ch サラウンドDVD
発売:2000(VHS/DVD)(Amazonより)
映像:石茂雄
音楽プロデュース:shiba
球体や雲海などの単純なCG要素とビデオエフェクトによって作られた映像と音楽を合わせた作品です。

『virtual drug vrd.2001』
発売:2001(DVD)(Amazonより)
映像:庄野晴彦
音楽:mch

『virtual drug -NATURE’S ECSTASY- FLOWER + WAVE』
発売:2001(DVD)(Amazonより)
タヒチの自然をテーマとした二作品の映像を”FLOWER”パートと”WAVE”パートとして一枚のDVDに収録したもののようです。

その他、virtual tripと題した別シリーズもありました。こちらは自然の映像と音楽を合わせたもので、ジャンルとしては「環境ビデオ」になるのかもしれません。

まとめ

特に『コヤニスカッツィ』『Gantz Graf』は「ストーリー」に飽きた人におすすめです。公式なものかわかりませんが、『Gantz Graf』はYouTubeで見ることができます。