「デビュー50周年記念 槇村さとる展」を見たレポートと感想

槇村さとる展入口
「デビュー50周年記念 槇村さとる展」を見たレポートと感想

東京都文京区にある弥生美術館で開催されている、「デビュー50周年記念 槇村さとる展」を見てきました。レポートと感想を書こうと思います。

弥生美術館

弥生美術館は竹久夢二美術館と併設されているこじんまりした私設美術館で、挿絵・雑誌・漫画などの企画展を行っているようです。規模は、複数フロアを持つギャラリーといったところです。

弥生美術館ウエブサイト
https://www.yayoi-yumeji-museum.jp

槇村さとるさん

マンガ家槇村さとるさんの作品は好きで一時期いろいろ読んでいました。ダンス、フィギュアスケートなど、主人公は「表現者」であることが多いと思いますが、一貫して少女、女性の自己実現と恋愛を描き、魅力的な女性を描いているのが特徴です。

▶槇村さとるさんのマンガを含む、昭和のおすすめマンガについてはこちらの投稿をご覧ください。

「デビュー50周年記念 槇村さとる展」の展示

「槇村さとる展」は弥生美術館の1階と2階を使い、1階には初期の作品から、2階には1990年頃以降の作品などが展示されています。要所要所に槇村さんのメッセージというか一言メモも掲示されています。

1階

カラー原画
別冊マーガレットの扉や単行本カバーのカラー原画と、その(当時の)雑誌の該当ページや単行本も合わせて展示してあります。

紙・インク・水彩・カラーインクが使われた原画そのものはもちろん美しいのですが、印刷上も原画の色合いが再現されており驚きました。原画と印刷を比較できるのもこういった展覧会ならではの楽しみだと思います。

モノクロ原画
マンガのモノクロ原画も展示されています。原画は印刷されたものと受ける印象が異なります。実際にそのサイズの紙に手を置いて描く事を想像し、作業の様子をイメージすることができるためです。

細やかな線や細かい点による表現など、手作業の職人芸が伝わってきます。

「ダンシング・ゼネレーション」、「N★Yバード」、「白のファルーカ」など、自分が好きで読んでいたマンガの原画を見ることができたのが良かったです。例えば、以下のような印象的なシーンの原画が展示されていました。

「ダンシング・ゼネレーション」(単行本では③巻)より
仲間がいたから、、のページ
踊ることが好きだから、、のページ
だからここまで踊ってきたの、、のページ

主人公の少女が父親に反対されながらも説得してダンスを続け、個人で最優秀賞をとれなかったらダンスをやめると両親に伝えてチームで臨んだ大会で、ものすごい覚悟でダンスをしているライバルチームのダンサーの姿にも触発され、ダンスを続けていきたい自分の気持ちを再認識するシーンです。

両親に渡してあったチケットは破られゴミ箱に捨てられているのを主人公は見てしまっていますが、父親は気になって公演に来ており、そのいきいきした娘の姿を複雑な表情で見ている様子も構成されています。(槇村さとる展の展示でシーンの説明はありません。以下同様)

「N★Yバード」(単行本では③巻)より
カードたちがかってに、、の黒バックのページ
おなじカードは2枚とないはずなのに、、のシンメトリー構図のページ

「N★Yバード」は「ダンシング・ゼネレーション」の続編です。主人公の少女がニューヨークでダンサーとして活動中、紆余曲折のあと出演することになった演出家J・B(ジェフ・ブランディ)の公演「ジャグラー」のシーンです。主人公のダンサーとしての葛藤と、恋人と先生との3角関係をあぶり出すようなキャスティングの演目となっており、その演目の1シーンであると同時に登場人物達の葛藤にリンクするシーンです。

「N★Yバード」(単行本では③巻)より
宙へとびこむ わたしのプレパラシオン、、のページ

このストーリーの最後のカットです。印刷されたマンガではわかりませんが、右脚を一度ホワイトで消して描き直したことがわかります。最初はもっと後ろへ伸ばしたポーズでした。より現実的なポーズに変更したのかもしれません。

「N★Nバード」の見覚えのない絵があると思ったら、「掲載紙不詳」となっていました。

その後も「ダイヤモンド・パラダイス」「半熟革命」「ベルベット・アーミー」と続き、それぞれ読んでいたと思いますが、すべての時代の原画を一度に展示することで見えてくることもあります。

「N★Yバード」、「白のファルーカ」あたりの画面構成の素晴らしさと力強さが印象的です。失礼ながら槇村さんの当時の年齢を計算すると概ね30歳前後の作品です。30歳前後のエネルギーが現れていると思います。もちろんそれ以後も素晴らしいのですが、より安定した印象になっていきます。

一方、投稿時代からデビューまでの原画も展示されています。

また、1985年発行の画集「槇村さとるの本」も展示されています。「ダンシング・ゼネレーション」や「N★Yバード」を単行本で読んでいた私は、そのイラスト・絵を大判で見たいと思っていたため、当時この本が出た時には喜んで買いました。

2階

2階には「おいしい関係」「イマジン」に始まる1990年代以降の作品のカラー原稿やモノクロ原稿が展示されています。

「槇村さとる先生の仕事部屋 2014年撮影」の大きなパネルも展示されています。どこかのインタビュー記事か何かで見たことがあるものかもしれません。仕事場の様子が垣間見れて興味深いです。

1992年頃より、少女漫画雑誌よりも大人の女性に向けた漫画雑誌が増えていったとのことで、大人向け漫画雑誌の表紙のカラー原画も展示されています。

Gペン、シャーペン、シャーペンの芯、消しゴム、小型定規、カッター、油性ペン、ミスノン(修正液)、筆、インク皿など、愛用の画材の一部も展示されています。

略年譜も展示され、その作品数に圧倒されます。

まとめ

デビュー50周年の槇村さとるさんの作品を俯瞰し、それぞれの時期の特徴を感じつつカラーとモノクロの原画を見ることができます。槇村さんのマンガが好きな人、昔読んでいた人、今読んでいる人も、足を運んで損はないと思います。

デジタルでしかマンガを描いたことのないマンガ家で紙にインクで描いた原稿が見たい人にとっても参考になるかもしれません。

記念画集も発売されています。

展覧会情報

会場:弥生美術館(東京都文京区弥生2-4-3)
会期:2024年1月5日(金)〜3月31日(日)
開館時間:午前10時〜午後5時(最終入館 午後4時半まで)
入館料:一般1000円/大・高生900円/中・小生500円
休館日:毎週月曜日(ただし1月8日、2月12日(月・祝)は開館)、1月9日、2月13日(火)
アクセス:東京メトロ千代田線「根津駅」1番出口/南北線「東大前駅」1番出口よりいずれも徒歩7分、JR上野駅公園口より徒歩25分

カラー原画は期間ごとの展示替えがアナウンスされています。ご注意ください。