ここではコミック【推しの子】のあらすじを紹介しつつ、感想・考察を書こうと思います。
アニメ化などもされ人気があることは知っていましたが、目の中に星があるキャラクターデザインとピンク色を基調とするコミックの表紙で、よくあるアイドルストーリーだろうと思ってスルーというか後回しにしていました。違いました。
多ジャンル横断で多層的な(いくつかのレイヤーを持った)ストーリーでした。
以下4回に分けて投稿予定です。4回それぞれの内容は以下の予定です。
投稿後、内容の修正・更新や構成の変更をする場合があります。
●コミック①-④巻のあらすじ、印象的なセリフ、ストーリー全体の感想・考察①(今回)
●コミック⑤-⑧巻のあらすじ、印象的なセリフ、ストーリー全体の感想・考察②
●コミック⑨-⑫巻のあらすじ、印象的なセリフ、ストーリー全体の感想・考察③
●コミック⑬-⑯巻のあらすじ、印象的なセリフ、ストーリー全体の感想・考察④
各回の「ストーリー全体の感想・考察」は、必ずしもその回で紹介するあらすじとはリンクせず、文字通り「ストーリー全体の感想・考察」をテーマごとに分けて書いたものです。
まずストーリーを3パターン書きます。特に3つめはストーリー全体のネタバレを含みます。
→読んだことのない人は、え?そういう話なの?と感じ、既に読んだ人は、いやもっと色々あったでしよ、とツッコミながらも、確かにな、と感じると思います。
地方都市で産婦人科医をしていた青年が、妊娠した自分の「推し」アイドルを偶然担当することになるが出産予定日に殺害され、研修医だった頃に自分が担当しそのアイドルを推していた亡き少女と共にその「推し」の双子の子供として転生する。二人とも前世の記憶を持っているがお互いの関係を知らないまま「推しの子供」ポジションを満喫するが、その後母親がストーカーに殺害され、ストーカーは自殺する。
兄は、転生前の自分を殺した人物と母親を殺したストーカーが同一人物で、明かされていない自分達の父親がその男への情報提供者だと考え、成長した時、見つけ出して殺して復讐するために芸能界に関わり、役者としての活動もする中で様々な問題に手を差し伸べる一方、双子の妹は本格的にアイドルを目指す。
兄は徐々に真実に近づいていく。
→コミック1巻+αの概要かつネタバレで、ストーリー全体の大枠です。
地方都市で産婦人科医をしていた青年が、妊娠した自分の「推し」アイドルのアイを偶然担当することになるが出産予定日に彼女のストーカーに殺害され、研修医だった頃に自分が担当しアイを推していた亡き少女と共に、その「推し」の双子の子供として転生する。二人とも前世の記憶を持っているがお互いの関係を知らないまま「推しの子供」ポジションを満喫するが、その後アイがストーカーに殺害され、ストーカーは自殺する。
兄である元産婦人科医の男は、転生前の自分を殺した人物と母親を殺したストーカーが同一人物で、明かされていない自分達の父親がその男への情報提供者だと考え、成長した時、見つけ出して殺して復讐するために芸能界に関わり役者としての活動もする一方、双子の妹は本格的にアイドルを目指す。
兄は活動中に起きる様々な問題に手を差し伸べ、彼を好きになる元子役女優や彼を支えようとする女優も現れるが、復讐を自分だけで完結させるため彼女たちとは距離をとりながらも利用し、時にトラウマに苛まれながらも父親に迫っていく。
妹は転生前に自分の担当で好きだった「せんせー」にいつか会えることを心のよりどころにして順調にアイドルグループとして知名度を上げていくが、「せんせー」の死体を発見してしまい、また、兄がそのアイドルグループの一人のスキャンダルをもみ消すために、自分たちが殺されたアイドルの双子であることをリークしたため半ば絶交するが、兄がその「せんせー」の生まれ変わりだと分かり、一転して幸せになる。
一方兄は幼い頃から付き合いの長い監督と一緒にアイに迫る映画を始動し、真実にたどり着き父親を見つけ出すが、彼がアイを理解せず利己的で、間接的に娘(自分にとっては妹)も殺そうとしたことを受け、妹の安全、アイドルとしての将来を守るため、元凶となっている父親共々極寒の海に身を投げ死亡する。
→ここまで書くと、ようやく全体の印象がわかってくると思います。これがストーリーの全容です。
各巻のあらすじの後に印象的なセリフも紹介します。
印象的なセリフは、主に2つの種類があります。一つは「人や社会に対しての捉え方として興味深いもの」。もう一つは「このストーリーにおいて重要な意味を持つもの」です。
産婦人科医の青年ゴロー、地方都市の病院の患者の病室でアイドルグループ「B小町」のDVDを見て、「推し」アイドル「アイ」を応援する。同僚に怒られるが、アイの活動休止のニュースに泣く。かつて研修医だった頃に自分が担当しそのアイドルを推していた亡き少女さりなのことを回想。
自分の担当となった妊娠した若い女性がそのアイだったため驚くゴロー。相手の男は事務所社長にも内緒。検査の結果双子。世間には公表せず子供は産んでアイドルも続けるというアイ。
出産予定日、外でゴローはフードを被った謎の男に殺される。
しかしそのアイの双子の赤ん坊として転生し、アクアマリン(アクア)と命名される。双子の妹はルビー。
アイは活動再開し、双子は二人とも前世の記憶を持っているがお互いの関係を知らないまま「推しの子供」ポジションを満喫する。
ルビーがさりなの生まれ変わりであることは、読者には明かされる。
ドラマの撮影のために双子も一緒に現場に行く。現場ではマネージャー(ミヤコ)の子供という設定。アクアは五反田監督と話す。
オンエアを見るとアイのシーンがほとんど使われておらず、監督に電話して文句を言うアクア。アイは可愛いすぎたので主演の女優を立てるためにカットしたと説明される。
代わりにアイに映画の仕事を振りたいと言う監督。アクアも出るのが条件。
その現場で天才子役の有馬かなに会う。アクアは「気味が悪い子供」を素で演じ、負けたと感じたかなは泣く。
かな、アクアのことを「覚えたわ。次は絶対負けない・・・」
2年が経過しアイは20歳目前。2年前の映画をきっかけに絶賛売り出し中。
アクアとルビーは幼稚園に入園。アクアはルビーに前世のことや年齢を聞くがはぐらかされる。
保護者も見に来るお遊戯を、やらない、と言うルビー。前世では病気で倒れてばかりだった。しかし母親(アイ)に励まされてダンスのセンスを発揮する。
演技もダンスもできて母親譲りのルックスのルビーに一抹の不安を感じるアクア。
アイ、別れた男に電話し、子供達も結構大きくなったので一度会ってみない?と話す。新しい住所も伝える。
仕事は順調、来週は念願のドーム。浮かれる社長と嬉しそうな社長夫人兼マネージャーのミヤコ。
アイが社長にスカウトされた時の様子の回想。片親で施設に預けられ、人を愛した記憶も愛された記憶もない、きっとファンを愛せないと言うアイに、嘘でいいと言う社長。
ドームライブの当日、アイは自宅に来たストーカーに殺害される。息を引き取る前、子供達に、愛してる、と言う。
ストーカーは自殺する。
アクアとルビーは戸籍を社長夫妻に移していたが、ミヤコのところの子供となる。
アイドルになることを考えるルビー。
アクアは、転生前の自分を殺した人物と母親を殺したストーカーが同一人物で、明かされていない自分達の父親がその男への情報提供者だと考え、復讐のため見つけ出して殺すことを心に決める。
時はすぎ、高校登校初日に二人が家を出る様子。
印象的なセリフ
「この物語はフィクションである。というか、この世の大抵はフィクションである」
(P5ゴローのモノローグ)
「アイドルは偶像だよ?嘘という魔法で輝く生き物」
(P28アイ)
「芸能界(このせかい)には、笑顔の裏に嘘と打算が隠れている」
(P58-59壱護)
「僕を殺してくれた奴に感謝しちゃってる位なんだから」
(P64アクア)
解説:母親が殺されるまでは、自分を殺した人物に感謝さえしていたことがわかります。
「転ぶのを恐れたらもっと転んじゃうものなんだよ」
(P157アイ)
「俺達の父親は芸能界に居る。略 俺はまだ死んでられない。必ず見つけ出して俺の手で殺すまでは」
(P213少年アクア)
解説:壮大な復讐劇が始まった瞬間です。
妹ルビーはオーディションを受け、いい所まで行く。
アイドルに夢を見るなと言うアクアに、「したい事をするのが人生でしょ!」「何も出来ないまま終わる人生だってあるんだよ」と、前世のことを思いながら言うルビー。
アイの死亡後、アクアはずっと暗い顔をして楽しそうではないと感じるルビー。
「B小町」の所属事務所、苺プロの社長は失踪し、妻でマネージャーだったミヤコが後を引き継ぎ、アイを失ったB小町は2年後に解散した。
兄アクアは、アイと同じ轍を踏ませないとして裏で手を回し、オーディション関係者を装いルビーに落選の電話をする。
ルビー、地下アイドルにスカウトされる。
どうにかして辞めさせないと、と言うアクアに、ルビーの気持ちは止められない、残念ながら資質がある、と言うミヤコ。
ルビーがスカウトされたグループの実情を探るため、その事務所に所属する子をスカウトし、内情を聞く。
アクアの目に黒い星。
絶対ママみたいになるんだ!と言うルビーに、本気ならウチの事務所に入りなさい。苺プロは、十数年ぶりに新規アイドルグループを立ち上げます。と言うミヤコ
ルビー、苺プロ(ミヤコが社長を務める弱小芸能事務所)に所属する。
アクアは、まだ中学生のため五反田監督の元で映画制作の手伝いをしている。兄妹共々芸能の道か、と言う監督に、今の俺は裏方志望だと答えるアクア。
アクアモノローグ: 俺にとって役者というのは単なる手段だ。略 俺の父親を見つけ出してアイの受けた苦しみを味わわせる為の手段。
俺には演技の才能が無い、というアクアに、ガキが夢見なきゃ誰が夢見んだよ、と監督は言うが、その監督は40半ばで実家にいる。
芸能科のある陽東高校の面接を受けるアクアとルビー。ルビーは芸能科、アクアは一般科。
子役の頃アクアが現場で会った有馬かなが2年にいる。かな、話しかける。アクアはそっけないが、話をしたいかなは帰りもついてきて、一緒に五反田監督の家に行って話す。
そのかなに誘われ、アクアは、マンガ『今日は甘口で』原作のドラマに出る事になる。プロデューサーの鏑木(かぶらぎ)が母親アイの知り合いと突き止めていたため。
しかしこれから売りたいイケメンモデルのヘタな役者ばかりの企画で本当は演技のうまい有馬かなは周りに合わせていた。かな、お願い、私と一緒に良い作品を作って、とアクアに言う。
予算も時間もタイトな現場。主演の鳴嶋メルト、態度が悪い。アクア、鏑木プロデューサーに挨拶。
アクア、裏でDNA鑑定のための鏑木のタバコの吸い殻を採取。
ずっと仕事がもらえなかったけれど実力が評価される時期が来て良かったと喜ぶかなだが、実は演技力は求められておらずタダ同然でネームバリューを使え、使い勝手がいいためにオファーされたとのプロデューサーの雑談を聞いてしまうアクア。
アクアは一計を講じ、有馬かなに活躍の場を作り、ドラマのその最終回だけ評判になり、有馬かなはアクアに恋をする。原作者はドラマの出来をずっと諦めていたが、ドラマ化受けて良かったと言い、かなは打ち上げパーティでお礼を言われる。
アクアは鏑木に掛け合い、亡くなったアイ(自分の母親であることは明かしていない)の情報を教えてもらう代わりに恋愛リアリティショーに出ることになる。
アクアとルビーは陽東高校に入学。かな、迎える。かな:芸能界へようこそ。
様々な芸能人がいる中、歌って踊れて演技も出来るマルチタレントの不知火フリルに、ルビーが友達になったみなみとアクアは認知されているが自分は知られていないルビーは、早く私をアイドルにしてよー!!とミヤコに泣きつく。
かなは、ルビーに誘われアクアに懇願され、新生B小町に加入することになる。
印象的なセリフ
アクアに「良かった・・・ずっとやめちゃったのかと・・・やっと会えた・・・」
(P57かな)
解説:天才子役だった有馬かなは同じく子役として出たアクアの演技に負けたと感じて泣き、「覚えたわ。次は絶対負けない・・・」と言っています。(1巻P144)それからずっと現場で出会うことを期待しながら出会えてなかったとわかります。このストーリーはアクアとルビーのストーリーが中心ですが、有馬かなの役者としての自己実現と恋愛のストーリーも大きな要素となっています。
「でも上手い演技と良い作品作りは別・・・」
(P87かな)
「長年アイドルを追ってきた私の経験上、ああいう子(かな)はコッテリしたオタの人気を滅茶苦茶稼ぐ!」
(P174ルビー)
「この子(ルビー)からは天才アイドル「アイ」を彷彿させる何かを感じる。略 芸能人としての嗅覚が、この子に「可能性」を感じている」
(P183かな)
解説:アイドルグループ結成時に、ルビーとかなはお互いに相手をシンプルに評価していることがわかります。時にけなすこともあるのはコメディの範疇かもしれません。2人の関係性はストーリーを追うにつれ、複雑な状況になっていきます。
アクア、鏑木プロデューサーからアイの情報を教えてもらう交換条件で恋愛リアリティショー『今からガチ恋始めます』に出る。
いつもと違うメディア用の雰囲気のアクアにモヤモヤするかな。
リアリティショーに台本はない。しかし演出はある。共演者がカメラを意識した立ち回りをする様子を見て、恋愛リアリティショーを理解していくアクア。
一方、やることがないルビーと有馬かな、実績を作るため、ミヤコ(社長)の手はずで売れっ子Youtuberぴえヨンの番組でぴえヨンと同じ丸い頭をつけてブートダンスをする。やりきったので顔を出して自己紹介する。ユニット名はルビーの希望で『B小町』にする。
リアリティショー。立ち回りの上手い人がいる反面、劇団所属の天才役者の黒川あかねは前に出られず思い悩む。目立とうとして大きな身振りをした時共演者のモデルゆきの顔を傷つけてしまい、ネットで袋叩きになり、歩道橋から飛び降りようとするがアクアが助ける。
お前、これからどうしたい?と問うアクアに、すごく怖いけど続ける、と言うあかね。
煽った番組サイドも好き勝手言うネットの奴らにも腹が立ってしょうがない、と言うアクア。目に黒い星。
アクアは一計を講じ、自殺未遂の件を記者にリークする一方、バズらせのプロを自認するMEMちょの協力で、リアリティショーに出演しているメンバーたちのオフショットを集めて作った仲の良さそうな動画を公開し大反響となり、あかねのイメージを変え、『今ガチ』の人気を決定づけ、炎上は沈静化。
あかね、アクアへの恩返しと自分を守る手段としてのキャラ付けとして、アイに近づこうとし、異常なほどのリサーチをする。リアリティショーに復帰し、洞察力と演技力でアイにそっくりな雰囲気を演じる。
照れるアクアと、付き合うルートもあり、と言うあかねを面白がる出演者達と、面白くないかな。
アイを演じているあかねを番組で見たルビー、「ママ」と独り言。
アクア、かなを誘い、学校をサボってキャッチボールをする。
アクア、あかねに、アイの演技・・・いや役作りか。まるで夢を、本物を見てるみたいだった、と言う。
あかね、アイには実は隠し子が居ることも設定している。
あかね: どういう生き方をして来てどういう男が好きか・・・まで、多分だいたい分かると思うケド?(P183)
アクアモノローグ: 黒川あかねは使える。ここで手放す訳にはいかない。
アクア(番組中で)あかねにキスする。
カップリング成立。
かな:独り言: あーあ・・・マジさいあく。死んじゃえばーか・・・
印象的なセリフ
「でも私達の初めての仕事だよ。嘘はいやだ」
(P35ルビー)
解説:ルビーは、ストーリーを通して、「嘘」との向き合い方が変化していきます。
「嘘は身を守る最大の手段でもあるからさ」
(P51アクア)
「世は大エゴサ時代!! 略 コンテンツとファンは既に相互監視状態にある」
(P62かな)
「人は謝ってる人に群がるんだよ」
(P81MEMちょ)
「人は簡単に死ぬ。誰かが悲鳴を上げたら直ぐ動かなきゃ手遅れになる」
(P107アクア)
「大人がガキ守らなくてどうすんだよ」
(P126アクア)
解説:通常はあまり描かれず忘れてしまいがちですが、アクアには前世で30歳周辺であったゴローの意識が残っています。そのため、何かのトラブルに手を差し伸べる時やちょっとしたセリフに大人ならではの視点が表れることがあり、キャラクターに深みが出ています。
リアリティショーの打ち上げ。最後のキスの件、本当につきあうかメンバーに詰問されるあかね。
あかね: 分かんない。
鏑木プロデューサーと話すアクア。
鏑木: 来週あたり寿司でも食いに行かないか?アイについてとっておきの話をしてあげよう。
あかね、アクアに: 私達の交際って、仕事?それとも本気のやつ?
アクア、異性としては見ておらず、女優として強い興味を持っている、と話す。
恋愛リアリティショーのあとビジネス彼氏彼女をすることにするアクアとあかね。
同じく恋愛リアリティショーに出演していた人気ユーチューバーMEMちょは元々アイドル志望だったという。『B小町』に誘うアクア。彼女はアイドル志望だったが家庭の事情を優先し、その後年齢サバ読みし、Youtuberとして人気が出た。気にしないルビーと共感するかなに歓迎されて新生B小町に加入。
人気Youtuberの彼女の加入でB小町のチャンネルは登録者数も増えた。旧『B小町』の曲をやることにしてダンスのレッスン。
あかねとの一件依頼アクアを避けているかなに話しかけるアクア。
アクアは鏑木からアイのことを聞く。劇団ララライのワークショップを紹介しそこへ行くようになってからアイが大人の顔になったことを聞く。
その鏑木のコネもあり、ルビー、有馬かな、MEMチョ、ジャパンアイドルフェスに出ることにする。センターを誰にする? ルビーもMEMちょも歌が下手。嫌がるかなを説得し、かながセンターになる。ぴえヨンのサポートで準備としてのハードなトレーニング。
アクアを拒絶しているかなは、ぴえヨンには心を開き話す。しかしアクアがぴえヨンのマスクを取って座っているところを偶然見かけ一睡もできなかったかな。フェスでは、自分がどうにかしなきゃいけないんだ、と気負うかな。楽しく挑もうよ!というルビー。
旧『B小町』を知っている客、期待していなかったがルビーの様子を見てサイリウムを振り出す。ルビーを見て、ああこの子は眩しいな、とかなのモノローグ。誰か私を見て。アクアが3人のそれぞれの色のサイリウムを降って踊っているのを見つけ「アンタの推しの子になってやる」(モノローグ)。
前出の客:人気出るかもなぁ。
番外編的エピソード
フェスに出ていたそこそこ成功していたアイドルの娘、新しく出てきたアイドル(ルビーを見ている)を見て、2週間後芸能界を完全引退を発表、引退後は大手医療メーカー営業に転職。
帰りのアクアたち。初めてにしてはよくやったんじゃないか?、とアクア。
MEMちょ、かながアクアを好きだと気づき、あかねとどちらを応援するか悩む。
アクアと一緒の仕事が決まるあかね。
レッスンの時のぴえヨンの中身がアクアだったことをアクアと話し、「だって、お前俺と話してくれなかったじゃん」と言われ、アクアをウキウキでからかうかな。
人気マンガ原作の舞台化『東京ブレイド』が始動する。あかねの所属する劇団ララライが中心となり、アクアにもかなにもオファーが来ている。
現実でもアクアを巡るライバル同士のあかねとかな、劇中でもライバル。
イベント運営会社代表雷田澄彰(らいだすみあき):かつて天才と呼ばれた子役と今まさに天才と呼ばれている役者、ここをぶつける鏑木ちゃんも上手くてエグいねぇ。
印象的なセリフ
かな、アクアに対するステージ中のモノローグ。「アンタの推しの子になってやる」
(P148かな)
「役者ってどいつもこいつも負けず嫌いが多いな」
(P188アクア)
アイドルストーリーの側面もありますが、「ストーリー」で書いた通りぶっ飛んだ設定の「転生ファンタジーアイドル芸能恋愛ドラマ復讐サスペンスミステリー」とでもいうような内容でした。
複雑な構造になっているためもあると思いますが、ストーリー全体や演技についての描写は『ガラスの仮面』などのように物事の流れを丁寧(詳細)に追ってはおらず、それぞれのエピソードに至る経緯の描写を時々はしょりながら、エピソードをテンポ良くつないでいます。
芸能界についての冷めた目線がベースに感じられる描き方のそれぞれの登場人物のエピソードと、根底にある「父親は誰か?」というミステリーが大きな要素となっています。
特定のジャンルを楽しみたい読者は不満かもしれませんが、キャラクターデザインの魅力に加えてコメディとシリアスと心揺さぶるドラマのバランスも相まって、多層的で面白いストーリーになっていると思います。
シリアス、サスペンスの側面もあるためか背景の描き込みもセリフも比較的多めで、読み応えのあるマンガです。
以下、いくつかの側面を解説、考察していきます。様々な側面がある上にそれなりに複雑なレイヤーになっているため、同じことを何度か言及する場合があります。ここで「レイヤー」と表現しているのは私なりの理解による表現です。後述します。
主要登場人物
雨宮吾郎(ゴロー:産婦人科医の青年。さりなの影響でアイドルのアイが「推し」。転生後はアクア)
さりな(ゴローが研修医だった頃の入院患者。アイが「推し」。病院で若くして死亡。転生後はルビー)
星野アイ(伝説的アイドル)
星野 愛久愛海(アクアマリン=アクア)(アイの双子の子供:兄)
星野 瑠美衣(ルビー)(アイの双子の子供:妹)
苺プロダクション社長、壱護
社長夫人ミヤコ(兼マネージャー。社長失踪後は社長)
五反田泰志(たいし)監督(アクアが幼い頃から関わりが強い)
鏑木(かぶらぎ)プロデューサー
有馬かな(元天才子役 実力がある役者だが自意識の高さから年齢が上がるにつれ仕事がなくなり、自分を抑えることで役者として生き延びてきた)
黒川あかね(天才役者 子役時代の有馬かなに憧れて演劇を始めたが、かなと最悪の出会いをし、人並みならぬ努力をしてきた)
MEMちょ(アイドル志望だったが家庭の事情を優先し、その後年齢サバ読みし、Youtuberとして人気が出た)
アビ子(アクアがあかねやかなと共に出演する舞台劇の原作マンガ家- 本筋では5巻P58登場だが、2巻P135、137が同一人物の可能性あり)
姫川大輝(劇団ララライの看板役者)5巻P22初出
カミキヒカル(アクアとルビーの父)8巻P37初出
闇のゴローの幻影
謎の少女(8巻で初出P95)(芸名ツクヨミ)
他にも様々な登場人物が登場します。
「コミカルな演出を入れながらもアイドル・芸能活動の実情や闇と恋愛模様を描きそれらを乗り越えていく心揺さぶられるドラマ」の裏にあるミステリーとサスペンス、さらにその前提となっている転生ファンタジー、という構造を持っています。コミカルで感動的な楽しいアイドル成長ストーリーだけを期待して読むと闇に持っていかれます。
ストーリー中ルビーがモノローグで「私には友達にも言えない秘密が二つある」「母親が熱狂的信者のストーカーに殺された伝説的アイドル「アイ」である事」「そしてもう一つ、私には前世の記憶がある事」と語っており、読者はその二つのことを改めて認識できます。
一つ目の秘密はストーリー半ばで世間に明らかになります。
「アイドルや役者としての試練と挑戦」「芸能界」「ライバル」「三角関係」などのそれぞれをかなりガッツリ描いていますが、アクア達兄妹の父親は誰か?というミステリーと、アクアは父を見つけ出して復讐しようとしている、というサスペンスがストーリー全体の大きな枠です。
さらに、アクアとルビーが転生してきているというファンタジーが前提になっています。これはアイドル・芸能ストーリーのレイヤーや復讐サスペンスのレイヤーと関わりながらも二人の間だけのドラマとして描かれ、基本的にはその他の人に明かされることはありません。
「アイドル」「芸能界」「ライバル」「三角関係」だけに感情移入していたら復讐サスペンスや転生ファンタジーの大枠を忘れそうなほどです。
特定のジャンル、部分だけを楽しんでいたい読者にとっては、それ以外の枠・レイヤーに比重が移ると、混乱したり違和感を感じるかもしれません。
しかしストーリー半ばから謎の少女がアクアやルビーの前に現れるようになり、全てを俯瞰し見透かすかのような発言をしてアクアの精神に揺さぶりをかけてきます。このストーリーにおけるファンタジーを体現しサスペンスも見えているキャラクターですが、表層の芸能のレイヤーにも普通に関わってくる特殊な立ち位置となっています。
このストーリーのジャンルを表現するなら「転生ファンタジーアイドル芸能恋愛ドラマ復讐サスペンスミステリー」とも言える多ジャンルさです。
それぞれのジャンルの占める割合を、長さと重要度を両方考慮して独断で感覚的に数値化すると、以下のような印象です。
転生ファンタジー:10%
アイドル:20%
芸能・芸能界:20%
恋愛:20%
サスペンス・スリラー:20%
ミステリー:10%
サスペンス、ミステリーの上にアイドル、芸能、恋愛要素も乗っかり、様々な要素がこれでもかというくらいに盛り込まれています。以下ざっと思いつくものをあげます。実際には複数巻にまたがっているものもあります。
アイドル(1巻〜)
入院したまま病気で死亡したアイドルファンの少女(1巻)
アイドルの妊娠、お忍び出産。(1巻)
ストーカー(1巻)
前世の記憶を持った赤ん坊としての転生(1巻)
キラキラネーム(1巻)
ヲタ芸をする赤ん坊(1巻)
芸能界の実情(全般)
母親であるアイドルがストーカーに殺害される(1巻)
父親は誰か?(1巻)
復讐劇(1巻)
落胆した社長の失踪(2巻)
シスコン(2巻)
弱小タレント事務所(2巻)
芸能科のある学校(2巻)
プロデューサーの立ち回り(2巻)
企画優先で演技の下手なイケメンがキャスティングされる(2巻)
天才子役のその後(2巻)
リアリティショー(3巻)
SNS、炎上(3巻)
自殺未遂(3巻)
Youtuber(4巻)
年齢サバ読み(4巻)
アイドルグループ結成(4巻)
ネットマーケティング(4巻)
演劇(5巻)
360度ステージ(5巻)
三角関係(5巻)
原作者と脚本家の対立(5巻)
パニック障害(6巻)
因縁のライバル(6巻)
ヘタだった役者の起死回生(6巻)
異母兄弟(7巻)
Youtube運営(7巻)
MV撮影(8巻)
謎の少女(8巻〜)
「せんせー」の死体発見(8巻)
闇堕ち(8巻)
ADの仕事(9巻)
ディレクターとAD(9巻)
VTuber(9巻)
コスプレイベント(9巻)
コンプライアンス(9巻)
SNS、承認欲求(10巻)
グループ内での人気差(10巻)
アイドル業界の「恋愛禁止ルール」(10巻)
スキャンダル(11巻)
芸能週刊誌(11巻)
週刊誌に撮られないコツ(11巻)
バーター(11巻)
アイの真実を伝える映画が始動(11巻)
映像制作者が映画をスクリーンに流すためのステップ(12巻)
母親の愛(12巻)
前世の関係が明らかになる(13巻)
アイドルグループ内の人気格差と確執(14巻)
兄妹のキス(前世は別人)(15巻)(自宅と芝居でキスしている)
サイコパス(15巻、16巻)
父親殺し(16巻)
こうして見ると、全般的にはダークドラマが主体であることがわかります。
様々なジャンルにまたがる多様なドラマの枠組みごとのレイヤーを、章を分けつつまとめています。異なるレイヤーどおしが後半リンクしたり、逆に異なるレイヤーどおしではリンクさせず関係者の中のドラマに留めることで全体を成立させています。
一方、ジャンルや要素、ストーリーのレイヤーが多すぎるきらいはあり、同じキャラクターが章によって別のドラマを演じているように感じることもあります。
次のようなレイヤー構造になっていると思います。
表層の複数レイヤー
アイドル成長・演劇・業界ドラマ+恋愛ドラマではそれぞれ試練、葛藤、業界の闇の部分も描かれ、試練・葛藤を乗り越えることによる達成感と成長、闇があるからこそ光る「ハレ」を感じることができます。
アクアが活動中に起きる様々な問題・トラブルに手を差し伸べるドラマもあります。転生前の大人としての経験と記憶を活かしていると感じます。
下層レイヤー1
さらに、それらの表層ドラマの裏にある、しかしそれらのドラマに出てくるほとんどの人たちとは関係しない部分での「父親は誰か?」というミステリーと、様々な手を使って母親の死の真相や、復讐のため父親に迫っていくサスペンスというレイヤー構造を持ち、複雑になっています。
これは後半の巻で、それまで出てきた登場人物達がアイを題材にした映画に参加することで、その「ほとんどの人たち」とサスペンスがリンクします。
また、アクアによって彼ら兄妹がアイの双子の子供であることが世間に明かされます。(後述)
下層レイヤー2
さらに、それらの裏にひっそりとしかし大前提として存在する「転生してきている」というファンタジーもストーリーの構造として持っています。
しかも、転生してきたアイの双子の子供それぞれは前世で重要な関わりを持っているものの前世のことはお互いに詮索せず、知らない状態が続きます。
1巻で幼稚園の頃、アクアはルビーに「そういやお前って生まれ変わる前何してたの?ていうか何歳?」と聞きますが、年齢マウントを取られたくないルビーは「私オトナの女性なんだけど!?」「余計な詮索しないで!」と返し、アクアは「まあそれもそうだな」と言っています。
読者からすると、頭の片すみで「いつか二人がそれを知ることになるのだろうか」という問いをもちながら表層レイヤーのドラマを楽しむことになります。
兄妹はそこそこ近い関係で過ごしてきているため、もっと早い段階で話題になって明らかになりそうなものですが、このストーリー上では、ストーリー半ばでルビーが心の拠り所にしてきたゴローの死体を発見するという、彼女(=さりな)にとっては最悪と思える展開となり半ば「闇落ち」し、さらに兄が母との関係をリークし絶交状態になった後、ふとしたきっかけで兄がその生まれ変わりだったと分かり、感動の「再会」をします。もちろん、転生後の双子としては赤ん坊の頃からずっと一緒にいたのですが。一気に気持ちが反転してウキウキ・ベタベタになる演出となっています。転生のことなど知る由もない有馬かなが、それを見て「何があった?」と突っ込むリアクションが面白いです。
このストーリー中、タイトルである「推しの子」は、基本となるダブルミーニング以外にも、複数の意味というか複数の事柄について使われています。単に「推し」と表現される場合もあります。
基本となるダブルミーニング(二重の意味)
●アイドルのアイは、さりな(ルビー)やゴロー(アクア)に、とって「推し(の子)」である。
●アクアとルビーは「推し」の子供である。
その他
●かな、アクアに対するステージ中のモノローグ。「アンタの推しの子になってやる」(4巻P148)
●モデルのみなみ「フリルはすっかりお兄さん推しやなぁ」(9巻P62)
●監督「アイ役に星野ルビーを推したいと思っている」(12巻P40)
海に行く役者連中。
MEMちょ「なんで私もここに居るんだろ?」
●フリル「 私の推しだから♥︎」(14巻P132)
●ルビー「せんせーは、私の推し」(15巻P31)
●かな、アクアに「今の夢はアンタの推しになる事」(15巻P181)
おそらく他にも使われていると思います。