書籍「生成AI 真の勝者 5つの覇権争いの行方」紹介 刺激的な話題満載

書籍「生成AI 真の勝者 5つの覇権争いの行方」紹介 刺激的な話題満載

書籍「生成AI 真の勝者 5つの覇権争いの行方」が刺激的な話題満載で面白いので、紹介します。

著者は、日経BPシリコンバレー支局の記者の島津翔さんという方です。

生成AIで何ができてどう使っていくかという話ではなく、生成AIを取り巻く勢力図をひもとく内容が主体です。 

例えば第1章では、オープンAIをはじめとするAIモデル開発企業の趨勢や、日本企業の動向について紹介しています。

第2章では、生成AI開発に必要なGPUの高いシェアを持つエヌビディアの一人勝ちの様子と、そのきっかけやGPUを最重点ビジネスとする決断をしたこと、そして現在の一人勝ちにつながる企業努力を紹介しています。

世界的な大企業を含む多くの企業の動向を見ると、生成AIは、パソコンの普及、インターネットの普及、スマホの普及に次ぐ大きな波であることが伺えます。

ちなみに個人的には、生成AIと言われるものは「AI」ではなく、大量に学習した既存のデータを混ぜるプログラムだと思っていますが、そのまま「生成AI」と表現します。

▶︎関連記事もご覧ください。
生成AIと言われるものはAIではない。仮に生成AIが発達しても週休4日にはならないし、AIが自ら人間を滅ぼすこともない

書籍「生成AI 真の勝者 5つの覇権争いの行方」の章や項目をピックアップ

章や項目のタイトルが刺激的で面白そうだと感じさせます。以下、一部内容も含め独断でピックアップします。太字が抜粋した部分、細字が私の補足や感想です。

第1章 AIモデル 「超知能」は誰の手に、AI乱世の帰結

ここではオープンAIをはじめとするAIモデル開発企業の趨勢や、日本企業の動向について紹介しています。オープンAIのアルトマン解任劇というお家騒動は個人的には本1冊分くらいの深い問題を内包していると感じていますが、ここでは深掘りはされておらず、起きたことの表面的なおさらいとマイクロソフトとの関係性について書いています。「オープン」対「クローズド」という論点も面白いです。

オープンAI誕生秘話

グーグルの焦燥と大失態

「トランスフォーマー」という革命

GPT-4、「マルチモーダル」の衝撃

アルトマン解任劇でマイクロソフトが得たもの

アンソロピック、オープンAI最大のライバル

「オープン」対「クローズド」、もう1つの戦い

AIモデル開発スタートアップの明暗

「日の丸LLM」の生きる道

AIモデル、日本企業の勝ち筋 

第2章 AI半導体 一人勝ちエヌビディア解剖、GPUの死角

ここでは生成AI開発に必要なGPUの高いシェアを持つエヌビディアの一人勝ちの様子と、そのきっかけやGPUを最重点ビジネスとする決断をしたこと、そして現在の一人勝ちにつながる企業努力を紹介しています。エヌビディアは、CG制作やPCゲームをする人にとってはかなり以前から馴染みのあるメーカーですが、本書の筆者は2017年時点でエヌビディアを、「謎のAI半導体メーカー」と呼んでいたと書いています。

CPU1000台 vs. GPU3台

エヌビディアが「灯台」と呼ぶ顧客

 加えてエヌビディアは研究者支援も同時に進めた。「AIラボ」と呼ぶプログラムを設け、世界中のAI研究者を支援することを決定。米国のスタンフォード大学やカリフォルニア大学、ハーバード大学、英国のオックスフォード大学、東京大学など世界中の大学を支援していった。この支援プログラムの中で研究者たちはAI研究のためにCUDAを学び、GPUを利用した。卒業生は企業に入った後もCUDAでプログラムコードを作成する。このサイクルがCUDAとGPUを強固なものにしていったわけだ。(P92)

自分達は変わろうとせずただ人件費を削減することで生き残ろうとして結果的に社会全体のエコシステムを壊していく企業が多い中、後のページでグーグルのエンジニアの言葉が紹介されているように、エコシステムを作りあげることに長い間投資を続けてきたエヌビディアの戦略は見事です。

もっとも、エヌビディアが作り上げてきたエコシステムはあくまでエヌビディアを中心とするエコシステムですが。

(エヌビディアが)AIのために犠牲にしたもの

当時のファンCEOが明かしている。

 企業として投資できる総額には限界がありますから、AIへの投資を増やせば既存事業が手薄になる。また、別の新規事業としてフォーカスしていたものを緩める必要も出てきます。
 他のチャンスは諦めたということです。 例えば、我々はスマートフォン向けのビジネスをもっと追求できた。あるいは、ゲーム機とタブレットを自社で開発するチャンスもあった。でも、それらからは一歩引きました。多くのビジネスチャンスを失いました。けれど、その犠牲によってAIにフォーカスできた。(P93)

経営判断についての話の面白さとともに、エヌビディアがAI以前にフォーカスしていた、またはフォーカスする可能性があった事業を知ることができます。

勃発する半導体争奪戦

 機械学習の大量の計算には、並列演算が得意なGPUが向く。オープンAIがChatGPTのトレーニングに1万基のGPUを使用するなど、AIプロセッサーとしてのデファクトスタンダードとなっている。生成AIブームで一気に需給バランスが崩れ、2023年春ごろからGPUの不足感が顕在化しはじめたわけだ。
 特に枯渇しているのが、AIに最適化した高性能GPU「H100Tensor コアGPU(以下、H100)」だ。H100のカタログ価格は500万〜600万円程度。一部では1.5倍の価格で取引されているとの情報もある。(P96)

つまり、オープンAIがChatGPTのトレーニングに1万基のGPUを使用しており、そこで使われているH100のカタログ価格は500万〜600万円程度という、桁外れな規模と金額であることがわかります。

 エヌビディアは目下、快進撃を続ける。2023年11月〜2024年1月期決算は、AI向け半導体特需に支えられて純利益が前年同期比で8.7倍、売上高が同3.7倍に急増。2024年1月期通期の売上高は、9兆円を超え、半導体メーカーで初めて世界首位に立った(P98)

「10年以上前から、ハードウェア以外にも投資してエコシステムをつくり上げてきた。その姿勢は尊敬に値する」。グーグルでインフラストラクチャーを担当するエンジニアはエヌビディアの戦略に舌を巻く。(P99)

前述の通りで、まさにそういう事です。

「我々はAI工場になる」 

2024年3月、エヌビディアはプロアイスホッケーチームが本拠地として利用するシリコンバレーのアリーナで年次開発者会議「GTC」を開いた。(P100)

最大の見せ場だったのは、全ての参加者が期待したであろう「次世代GPU」の発表だった。(P100)

 B200は当然、生成AIでの用途を見込んでいる。GPT-4の1.8兆パラメーターモデルの場合、ホッパーでは8000基のGPUを使って15メガワットの消費電力で90日が必要だった。ブラックウェルでは同じ時間を使う場合、2000基のGPUと4メガワットの電力で済むという。(P101)

事業が好調でも、いや事業が好調だからこそできる事だとも思いますが、開発の手を緩めていない様子が伺えます。

半導体メーカーになったGAFAM

 2015年、IT大手ではいち早く独自半導体「TPU(テンソル・プロセッシング・ユニット)」の運用を始めたグーグル。生成AI需要に合わせ、2024年には第5世代の「TPU v5p」を発表した。(P104)

 AWSは2013年にクラウド基盤用の独自半導体「Nitroチップ」を自社サーバーに搭載。(P105)

AWSとは、Amazon Web Services, Inc.及びAmazon Web Services, Inc.によって提供されるクラウドコンピューティングサービスAmazon Web Servicesのことです。

独自半導体の「意外な利点」

 -略- アマゾンが2023年9月に発表し、注目を集めた米AI開発スタートアップ、アンソロピック(Anthropic)への40億ドル(約6000億円)の巨額出資も、チップ開発の将来を見据えたものだ。
 アンソロピックがAWSの独自チップを使用してAIモデルを開発するほか、次世代チップの開発でも協業する。(P107-108)

マイクロソフトが埋めた最後のピース

 AIワークロードを高速化するアクセラレーターチップは、前述の通りクラウドの競合であるグーグルとAWSが先行して市場投入していた。マイクロソフトがマイアを投入することで、クラウド3強がそろって「半導体メーカー」になったわけだ。(P110)

古い感覚だと、グーグルやアマゾンにマイクロソフトも併せて「クラウド3強」と呼ぶのに時代の変化を感じますが、3強がそろって「半導体メーカー」になったという指摘は、理解しておくべき時代の波なのだろうと思います。

AIサーバーを「売りまくった」米国企業

GPUに3つの死角

ポストGPUの胎動

「超高速メモリー」に必要な日本企業

この後も、第3章ではその「3強」の明暗をひもとき、第4章では中国の動向、第5章では人類vs. AIとして「AI失業」「AIの学習はフェアユースか?」「世論捜査・ハッキング・AI兵器」などについても話題にしています。

感想、本書からやや離れた雑感など

生成AI(と言われるもの)は現在世界の最大関心事の一つであり、世界的に経済が低調又は不安定になっている中、その生成AIを取り巻く勢力図をひもとく内容はかなり面白いです。

この本で紹介されているように世界中の企業が覇権争いをしていますが、生成AIは様々な問題もはらんでおり、前述のようにその代表的なものは本書でも取り上げられています。

本書の内容はGPUなどハードウェアの話題が比較的多いですが、ハードウェアに関連するものの本書で取り上げていない事としては、例えばサーバー冷却のための水不足も問題となっているようです。

参考記事(やや古い記事です)
AIと水資源:ChatGPTの冷却に必要な水の量は原子炉レベル?
https://www.gizmodo.jp/2023/04/chatgpt-ai-water-185000-gallons-training-nuclear.html

生成AIの学習や推論には膨大な電力が必要で、生成AIの拡大によってさらに増加する懸念があることは、本書でも紹介されています。

エネルギーや水の問題は世界の政治と経済も絡み、地球温暖化、災害対策にも関連してきます。

本書の主な内容と直接関係はありませんが、人間は生成AI、ひいてはAIを、地球温暖化、災害対策、戦争、エネルギー問題など、現状の人間のアタマや政治では解決できてこなかった問題を解決していく手助けとして活用していくことが期待されます。