アニメ風キャラクターに、中の人の動きや表情をリアルタイムに反映させ、おしゃべりやゲーム実況、歌などをライブ配信又は録画した動画で表現するバーチャルYoutuberは、現在16000人とも言われ、一つの社会現象となっています。
日本のアニメ文化、パソコンのスペック向上、インターネットを利用した個人や企業の発信の一般化、リアルタイムにアバターを操作できる技術の発達などをベースとしてバーチャルYouTuberも出てきたと思います。
バーチャルYoutuberが広まった理由には、そもそもバーチャルYoutuberを成立させる技術的側面のほか、演者(タレント)側の理由と視聴者側の理由両方があると思いますので、以下考察したいと思います。
以前はアニメ風キャラクターやCGキャラクターを映像化したい場合は、それなりに、あるいはとても手間がかかりました。
ストーリーを作り、アニメ風キャラクターの場合はひとコマひとコマ絵を描いてアニメを作るかイラストなどの素材を使って映像制作ソフトで動きをつけたり、CGキャラクターの場合はキャラクターの形状をCGソフトでモデリングし、マテリアル/テクスチャーを貼り(色や質感を設定し)、アニメーションをつけ、レンダリングして映像化し、いずれの場合も声をアフレコする必要がありました。
レンダリングとは、映像制作ソフトやCGソフトで、必要な内容が完成したシーンを動画にするために1秒あたり24フレーム(枚)とか30フレーム(枚)、各フレームごとに計算し描画させることです。
その後モーションキャプチャやリアルタイム描画技術の発達によって、バーチャルYoutuberのようなリアルタイムの表現が可能になりました。
モーションキャプチャは、最初は業務用の非常に高価なシステムが必要でしたが、安価なマイクロソフトのKinectが出てゲーム・エンターテイメント分野に加え医療分野でも利用され一般化していき、その後より簡易なシステムも出てきました。
レンダリングして映像化するCGキャラクターやアニメキャラクターと違うのは、リアルタイムかつダイレクトにアバターを操作するため動きをつけるのが簡単で、比較的中の人の個性が表現される点です。
バーチャルYoutuberは、表情のバリエーションを含めイラストレーターの描いたキャラクターデザインとバーチャルYoutuberツール(ソフト)で設定された動きの範囲でしか表現できないはずですが、それをほとんど感じさせないのは、声の表現と、制限されている表情であっても声と合わせてリアルタイムに表現しているためだと思います。
おしゃべりをしたり、ゲームプレイ実況で素のリアクションをしたり、コメントをしたり、歌を歌ったり、また、顔出ししない安心感のためもあると思いますが、YouTubeのレギュレーションの範囲で下ネタを言ったり他のバーチャルYoutuberとのコラボで女子トークを展開したり、表現は無限です。
また、バーチャルYoutuberが3Dのモデルを使う場合は特に、姿勢や動きに、中の人の個性が現れやすいです。
視聴する側は「中の人」がいることを知った上で、アニメ調のかわいいキャラクターと「中の人」の素の表現の掛け合わせ、あるいは差分を楽しむコンテンツになっていると思います。
テレビを中心としたメディアが寡占する時代には、歌手やタレントとしてライブをしたりメディア(テレビなど)に出るのは簡単ではなかったと思いますが、インターネット、そしてその中の映像プラットフォームであるYouTubeなどによって、誰でも簡単に発信できるようになりました。
個人でやっているバーチャルYoutuberであれ、企業に所属するバーチャルYoutuberであれ、以下のようなメリットがバーチャルYoutuberの増加を後押ししてきたと思います。
・顔出しをせずに(自己)表現ができること
・必要な技術があれば一部の選ばれた人でなくても発信できること
・メディア費用がかからないこと
・発信者が内容を自分で決められること
・視聴者との双方向のやり取りができること
・世界に開かれていること
・アーカイブできること
・表現者自身で収益化し得ること
以下詳しく見ていきます。
タレントやアイドルとして活動したくても容姿に自身がなかったり、容姿にかかわらず、自分の個性で表現・自己主張はしたいけれど顔出しはしたくないと感じる人は多いのではないかと思います。
人によって異なりますが、多くの日本人は自分の意見を面と向かっては主張しない傾向があり、自分が矢面に立つのも好まない国民性を持っていると思います。日本人はシャイであるとも言われますが、実のところ、内に秘めた自己主張やわがままさを、周りの目を気にして出さないだけのようにも見えます。
そういった日本人表現者にとって、顔出しをせずに(自己)表現ができるバーチャルYouTuberは、うってつけの手法だったのだと思います。
可愛いアニメ調の姿などを自分の分身・アバターとしてまとって、なりたいキャラクターを演じることと自己表現の間を行ったり来たりしながら表現できるのは理想的だろうと思います。
しばしばアニメ作品のキャラクターに見られる極端な性格・行動様式は、生身のタレントなど現実世界では常識はずれと感じられるようなものであっても架空のキャラクターとして許容される傾向があり、むしろエンターテイメントとしてそれを望まれている面さえあります。アニメ風キャラクターのアバターが使われることの多いバーチャルYouTuberというメディアも、様々な面で度を超えたことができ、それをタレントの表現としてできるのはこれまでにはなかった魅力ではないかと思います。
また、歌が上手いとか絵が上手いというのが売りになっているバーチャルYouTuberもいますが、バーチャルYouTuberは完璧である必要はなく、いわゆるポンコツであることも芸風になるのはリアルな芸人の芸風にもつながります。
擬似的も含め、バーチャルYouTuberがカバーしている、またはカバーしうる分野は広大です。整理をせずにキーワードを上げると例えば以下の分野があげられると思います。
・タレント
・(バーチャル)キャラクター
・アイドル
・配信者
・ゲーム実況
・歌手、ライブ
・コンテンツクリエーター
・芸人
・大喜利
・バラエティ
・ニュース
・アニメ、ドラマ、映画
・ラジオパーソナリティ
・ホステス、ホスト
・教育
・悩み相談
インターネットに動画をアップロードすることができるようになる前は、例えば歌手やタレントとして発信したい場合、競争をくぐり抜けて歌手としてデビューしてレコードやCDを出したりアイドルや芸人などのタレントになってテレビ番組に呼ばれる必要がありましたが、インターネットに動画をアップロードするのは、必要な技術があれば誰でもできます。
インターネット接続や映像制作のコストはかかっても、メディア費用がかからないのは大きいです。
インターネット以前は、歌手やタレントとして発信したい場合、上記のように競争をくぐり抜けてレコード会社やメディアを通して活動できるのでなければ、自分で会場を借りてライブを開くとか、もっと多くの視聴者に届けたい場合は自分でスタジオを借りてレコーディングしてCDをプレスしてCD店に置かせてもらうように売り込むとか、個人では現実的ではありませんが巨額の資金で番組のスポンサーとなり自分の会社の番組を作るなどの方法もありましたが、いずれにしてもハードルは高かったと思います。
インターネットを使う場合はプロバイダ料金と電気代程度しかかからず、YouTubeなどのプラットフォームも無料で利用することができます。
仮にタレントとしてテレビに出られたとしても、番組の内容は番組側が作るため、自分の思い通りにはできません。YouTubeなどであればプラットフォームのレギュレーションの影響は受けたり、事務所所属であれば一定の約束事はあると思いますが、発信者が内容を自分で決められます。
紙媒体のメディアで読者の声を紹介する場合、古くはハガキなど郵便が使われて受け取るまで一定の時間がかかり、印刷して届けるのにも時間がかかり、読者とのやりとりをリアルタイムにコンテンツにすることはできませんでした。雑誌はもちろん、速報性のある新聞でも同様です。
電波で瞬時に届けることができるテレビでも、視聴者からの声を紹介する場合は、古くはハガキなどが使われ、その後番組内容によってはFAXが使われ、やはり視聴者とのやりとりをリアルタイムにコンテンツにすることはできませんでした。
インターネットの時代になってからはようやくスタジオにパソコンを置いてメールなどを確認しつつ紹介するような方法ができるようになってきました。
YouTubeなどのライブ配信においてはチャット欄でリアルタイムに視聴者とやりとりできることも、バーチャルYouTuber側にも視聴者側にも楽しいポイントだと思います。
インターネットが基本的には全世界に開かれていることも重要なポイントで、キズナアイのデビュー当時にすでに、動画の言語が日本語であるにも関わらずコメント欄に英語のコメントの方が多い印象でしたが、バーチャルYouTuberを解説する海外のユーチューバーの動画を見ると、海外でも日本のそれぞれのバーチャルYouTuberのキャラクターの違いやポンコツぶりも楽しまれているようです。
英語を主体としたホロライブEN(イングリッシュ)などの影響もあると思いますが、ますます世界に対して開かれたコンテンツになっていると思います。
テレビは放送したらおしまいで、要望が多くて再放送するのでない限り同じ番組を何度も見られるしくみにはなっておらず、視聴者側がビデオやレコーダーで録画しておく必要がありました。
YouTubeなどでは、ライブ配信をリアルタイムで見られなかった視聴者が後で見たり、過去の動画を遡って見られるようにアーカイブを残しておくことができます。また、そうして動画が視聴されることで収益を増やしていくことができます。
バーチャルYouTuberの収入は、個人勢か事務所所属か、また所属する事務所によってお金の流れは異なるかもしれませんが、収益源は概ね以下だと思います。
・広告収入
・スーパーチャット
・メンバーシップ
2022年1月1日現在YouTubeのライブ配信時の投げ銭機能であるスーパーチャットの、世界の累計金額上位を日本のバーチャルYouTuberが占め、1億円超えも多数という、ある種異常事態になっています。これには日本からだけでなく海外からのスーパーチャットを含みます。
YouTube Most Super Chatted Channels in Worldwide – PLAYBOARD
https://playboard.co/en/youtube-ranking/most-superchated-all-channels-in-worldwide-total
視聴者にとっては、
・好きな時に好きな動画を見られること
・数分から数十分の短い動画もあって、スキマ時間に楽しめること
・基本的に過去の動画も残っており、検索できること
・発信者との双方向のやり取りができること
など、演者(タレント)側の理由もそうですが、テレビではできない楽しみ方ができるのが大きなポイントです。
ますます効率が求められる社会になり、気分転換もちょっとした数分単位の空き時間で行う必要があるため、バーチャルYouTuberの動画に限りませんが、数分から数十分の短いものも多数あり、検索もでき、好きな時に好きな動画を見られるYouTubeの動画はうってつけです。
逆に、視聴側としては、もはやそれらができないのはあり得ないと感じます。コメント欄を通じて発信者との双方向のやり取りができることも楽しいポイントだと思います。
さらに、演者(タレント)側の理由でも書いたように、アニメ風キャラクターのアバターが使われることの多いバーチャルYouTuberも、アニメ作品におけるキャラクター同様、時に極端な性格・行動様式が架空のキャラクターとして許容され、むしろエンターテイメントとしてそれを望まれている傾向さえあり、様々な面で比較的度を超えた表現ができるのも、これまではなかった面白さではないかと思います。
マンガやアニメが日本で流行った理由は、浮世絵からつながる平面的な表現の文化と、集団主義の同調圧力も影響していると思われる日々の息苦しさをいっとき癒す機能・役割が挙げられると思いますが、マンガやアニメの延長線上にあるバーチャルYoutuberも同様です。
芸能とは一般に「演じる側と観客が双方の了解のもとで茶番を楽しむ」ものとも言えると思いますが、バーチャルYouTuberも、特に現代において閉塞感のある現実世界からの一時待避の場として機能していると思います。
技術の進化を背景に、演者側と視聴者側の双方にとって楽しさやメリットを感じられるものとなっており、テレビが成し得なかったエンターテイメント/芸能/メディアのあり方を示していると思います。また、新型コロナウイルス対応による世界的な「Stay at Home」の状況も後押ししていると思います。
逆に、未編集で素が表現されること(ライブ配信の場合)、タレント側が顔出しせず表現できる反面、視聴者側も匿名でタレントにメッセージを送れてしまうこと、大きなお金が動くこと、人数が増えること、国際的になることで様々な問題が起きる可能性も増えると思いますが、この流れは止まらないだろうと思います。
▶︎キズナアイの魅力とバーチャルYoutuber文化に果たした役割の考察
▶︎バーチャルYouTuber がうる・ぐら(Gawr Gura)の人気の理由の考察
▶︎バーチャルYoutuber宝鐘マリンのオリジナル曲”Unison”の楽曲や歌詞の考察
nizima LIVEは、アバターと自分の顔をカメラで同期して、表情をLive2Dモデルに反映できるLive2D公式アプリ。
合計10体の高品質なLive2Dモデルをサンプルモデルとして実装し、オリジナルアバターを持っていなくても、すぐにVTuberとして活動できます。
コラボ機能を使えば、アプリを持っている人同士で高解像度でコラボ配信も行えます。
無料版は(カメラ接続40分、コラボ機能5分※再起動すればリセット)の制限以外はすべて有料版と同じ機能を使用可能です。
有償版であれば商用利用も可能です。