アメリカに滞在していたと話すと、多くの日本人が「じゃあ、英語ペラペラでしょう」と言います。
日本人が「英語ペラペラ」と言う時はかなり高い習熟度をイメージしていると思いますが、私はアメリカに5年いてもそれほど高い英語力ではありません。相手の表現の分からない部分を聞いたりしながら日常会話ができる程度です。しかし自主制作の短編映画であれば英語でコミュニケーションして作ることができます。
一口に英語力といっても様々な能力があります。文法や単語や表現の知識、聞き取る力、話す力(発音、つまり話す時の口や舌の動きの慣れを含みます)、読む力、書く力、仮に知識や話したり書いたりする力が初歩的であったとしても自分の伝えたいことを単純な表現に置き換える力、英語力の不足をカバーするコミュニケーション能力など様々です。そして人それぞれ各能力の度合いはまちまちだろうと思いますので、「英語圏で生活していたから英語ペラペラ」というほど事は単純ではありません。
英語力、語学の習熟には様々な段階があります。
まず最初は基本的な単語や文法や挨拶などを学ぶ段階。これは日本では中学や高校の英語の授業が担っており、高校生や大学生以上の大抵の留学生は留学する段階ですでに基本は習熟できているのではないかと思います。
日本人は中学高校で6年間、大学で2年間勉強するなら計8年間も英語を勉強しているのに話せるようにならず、英語教育が良くないという意見をよく見聞きします。たしかに、会話の訓練は圧倒的に足りていないと思いますが、学校では限られた時間の中ですべての科目をまんべんなく勉強する必用があり、通常の学校教育の中で英語の会話までスムーズにできるようになるのはかなり難しいのではないかと思います。
最近は小学校での英語教育も始まったようですが、今までの中学高校の総英語授業時間は、参照する資料によって数字の幅がありますが概ね800時間前後、大学まで含めるとだいたい1000時間のようです。一見かなり勉強しているように見えますが、これを英語を集中的に学習できる環境にいる場合と比較すると、かなり少ないことが分かります。1000時間というのはたとえば留学などで1日に6時間(金曜は午前中のみ4時間)勉強した場合(週に28時間)のおよそ9か月分で、英語の授業に加え日常の会話まで含めて1日8時間英語に接すると仮定した場合(金曜午後と土日も含め週に56時間)の4.5か月分に過ぎません。また、状況は違うもののネイティブが自国語に接している時間は圧倒的に多いはずです。仮に10代の頃は覚えが早いとしても、また、本人のモチベーションなどによって個人差はあるとしても、日本の学校教育において全くのビギナーがいわゆる英語ペラペラになるには、教育方法の良し悪し以前に学習時間が全く足りないだろうと思います。
中学などで習う英語はごく基本的かつ実際の生活でも使う可能性が極めて高いものです。かなり丸め込みがおこなわれているため英語を適切に使うにはもっといろいろ覚えることがあり、会話の訓練ももっと必用だと思いますが、限られた時間の中で、英語を使う上で必要な基礎はうまくまとまっていると思います。
留学を初めて、人によってはまずぶち当たるのがメンタルブロックです。特に日本人は内向的な傾向があることに加え、「英語ペラペラ」という表現が表していると思いますが、完璧主義のためきちんと話せないと恥ずかしい、話したくない、話せない、という 心理的ブロックが働きやすいかもしれません。これは英語の知識の向上だけでなく、英語を使うことに対する慣れによって解消されていきます。
たまに他の国の学生で、文法も発音もムチャクチャなのに弾丸のようにしゃべる人がいます。それはそれでどうかとも思いますが、基礎を繰り返し勉強しつつそのくらい話せば上達が早いだろうと思います。
英語で質問ができるようになることも一つのブレイクスルーになると思います。わからないことがあっても聞いて会話を続けることができるからです。
発音も重要で、たとえば使用頻度の極めて高いI think〜(私は〜と思う)の発音を「アイ シンク」と発音してしまうとI sink(私は沈む)となってしまうのは有名です。インド人も英語の発音が苦手あるいはなまりがあり、I thinkを「アイ ティンク」と発音する傾向があるようですが、これはI thinkの発音として一般的又は許容されているようです。
発音はその知識と共に、日本語の発音では使わない口や舌を使う慣れも必要です。
ある程度基礎を理解し書いたり話したりできるようになってくると、「その表現は硬い」とか「文法的には正しいけれども、そういういい方はしない」という指摘を受ける場合も出てきます。通常はどう表現するのか、どういえば自然かは、ネイティブに聞いて覚えていく必要があるだろうと思います。
余談ですがカジュアルな表現(ことば)の流行り廃りの激しい日本において、「英語ペラペラ」という表現はずっと使われ続けていますね。言いやすくイメージしやすい表現だからだと思います。