映画・アニメ 絵コンテ(ストーリーボード)本、絵コンテの掲載された本

アニメ『未来少年コナン 第一話』絵コンテ本
映画・アニメ 絵コンテ(ストーリーボード)本、絵コンテの掲載された本

人気のある映画やアニメの絵コンテ(ストーリーボード)が本として出版されているものや雑誌の付録になっていたものがあり、いくつか紹介します。

絵コンテ・ストーリーボード(story board)

「絵コンテ」は、映画やアニメなどの制作にあたって、各カットがどのようなものか表現した絵を並べたものです。英語ではstory boardといい、日本でもストーリーボードと言われることもあると思います。

脚本だけでは伝わらない、伝わりづらい内容を可視化し、制作の拠り所とすることができます。

実写映画の場合は絵コンテよりもオーバーヘッド(各シーンの役者やカメラの位置を表した上面図)をもとに自分でフレーミングを考えることを好むDP、カメラマンもいるかもしれませんが、ビジュアルとして複雑なシーンの場合は絵コンテがあると関係者の中でイメージの共有をすることができます。

アニメの場合はもともと「絵」が動いたものですので、絵コンテでフレーミングまで指定することで、その後の分業の拠り所にすることができます。

CMの場合は尺(映像の長さ)が短いため、絵コンテの表現は様々です。

日本の映画やアニメでは、表のように線で分割されており、左側にコマ、右にセリフや説明が入っています。

それぞれ特徴があり、面白いです。

『マトリックス』角川書店

映画『マトリックス』絵コンテ本 表紙

『マトリックス』は1999年の映画です。社会現象になったとも言えるこの映画も、もう26年前の映画ですね。

『マトリックス』の絵コンテにはカラーで表現されたページとモノクロで表現されたページがあります。また、絵コンテというよりも「イメージボード」に近い表現のページも多いです。

■↓割れた鏡が復元し、ネオがそれに触れると鏡が液体になったかのように指が潜り込み、引き抜くとその鏡の液体が指にくっついて伸びるシーン。

映画『マトリックス』絵コンテ本

どちらかというと「イメージボード」に近い表現だと思います。

■↓白い空間でモーフィアスがネオと話しつつ赤い椅子に座り、「君は空想世界にいた」「これが現実の世界だ」と言うと、テレビに映された現代(と主人公や我々が思っている)の都市の映像が荒廃した世界に変わり、そこへ入っていくと荒廃した世界の地下の岩の峡谷の底に自分達がいることに気づくシーン。

映画『マトリックス』絵コンテ本 表紙

後半は絵コンテ兼「イメージボード」といった印象の表現になっています。

この絵コンテでもまだ荒廃した世界から峡谷までの具体的なイメージは掴みきれませんが、「イメージ」「雰囲気」は実際の映像に反映されていると思います。

■↓ネオが電話で、「銃をくれ、大量の」と言うと、言葉そのまま大量の武器が架かった多数の棚が一斉にこちらに現れるシーン。

映画『マトリックス』絵コンテ本 表紙

これを文章だけで表現しようとすれば、「金属のフレームとパイプで作られた、高さ2m、奥行き100mはあろうかという両面棚に、ぎっしりとマシンガンなどの武器が架かり、その棚が約2m間隔で40個以上並んで白い空間の奥から高速でこちらに移動し、ネオとトリニティがその間に収まる状態で棚が止まる」などと記述することになり、それだけを読んだ人は頭の中でなんとかイメージ化しようと努力すると思いますが、絵として表現すれば一目瞭然でわかりやすいですね。

このシーンの絵コンテではネオはゴツめのオヤジとして描かれており、実際の映画とだいぶ印象が異なります。ネオ役にキアヌ・リーブスを起用したのは、キアヌ・リーブスにとっても映画にとっても幸運だったと思います。

以下の記事によると、ネオ役にはブラッド・ピット、レオナルド・ディカプリオ、ウィル・スミスの他、役柄を女性にしてサンドラ・ブロックも検討されたそうです。

‘The Matrix’ Wanted Sandra Bullock as Neo Before Keanu Reeves Took the Role
https://www.thewrap.com/the-matrix-filmmakers-wanted-sandra-bullock-as-neo-before-keanu-reeves-took-the-role/?utm_source=chatgpt.com

■↓『マトリックス』といえばこのシーン、と言っても過言ではない、のけぞりながら弾丸を避ける様子をカメラが回り込みながら見せるシーン。

映画『マトリックス』絵コンテ本 表紙

今や何の驚きもありませんが、当時のCG・映像関連のメディアでは散々この撮影方法が紹介されました。

『今敏 絵コンテ集 パプリカ』復刊ドットコム

アニメ『パプリカ』絵コンテ本 表紙

『パプリカ』は2006年のアニメ映画です。この作品ももう19年前ですね。

アニメーションの表現力を極限まで使ったと思えるアニメですが、絵コンテもまた驚異的な密度です。一コマ一コマがイラスト作品とも言える、ほとんど「原画」のような、美術設定にもなっている描きこみで、これを映画1本分描いたのはもう狂気ですね。

帯には「神がかった精緻さ」と表現されています。

■↓時田がライトをつけ、人形たちで溢れた作業机を見回すシーン。雑然とした室内が詳細に描きこまれており、カメラのパンも指定する絵コンテになっています。こんな描き込みで描いていたら、いったいどれだけ時間がかかるんだろうと思います。

アニメ『パプリカ』絵コンテ本

■↓妖精となったパプリカがうろこ状の巨大な抜け殻を眺めるシーン。絵にしないければ伝えづらい内容ですね。ここでもPAN.UP.+T.B.といったカメラワークの指示が文字で書かれていますが、絵で描くことで、どのような見た目になるのかがわかります。

アニメ『パプリカ』絵コンテ本

■↓小山内の手がパプリカの皮を裂き、パプリカの頭部の皮の中から敦子の顔が現れ抱き上げるシーン。ここはシンプルな線で表現されています。

アニメ『パプリカ』絵コンテ本

『サマーウォーズ 絵コンテ 細田守』飛鳥新社

アニメ『サマーウォーズ』絵コンテ本 表紙

『サマーウォーズ』は2009年のアニメ映画です。

『サマーウォーズ』の絵コンテは手描きの味のある線で描かれており、個人的には「絵コンテ」というとこのような絵コンテをイメージするので、少しホッとします。それでもそれぞれのキャラクターの特徴が描き分けられ、効果音も手書き文字で書かれており、全体に「熱量」を感じる絵コンテです。それが全編続きます。

アニメ『サマーウォーズ』絵コンテ本

アニメ『サマーウォーズ』絵コンテ本

■↓ズバァァァァァァァァァァン、という手書き文字が印象的です。

アニメ『サマーウォーズ』絵コンテ本

『未来少年コナン 第1話のこされ島 絵コンテ』Animage付録 徳間書店

アニメ『未来少年コナン 第一話』絵コンテ本 表紙

『未来少年コナン』は1978年の全26話のテレビアニメです。宮崎駿さんのアニメで個人的に一番好きなアニメです。47年前の作品ですね。

この絵コンテ本はアニメ雑誌の付録としてついていたものです。

『未来少年コナン』の絵コンテも手描きの味のある線で描かれています。

また、テレビがデジタル化し横長の画面(FHDサイズ)になる前のSDサイズの頃の作品であったことを考えても、絵コンテはかなり正方形に近い枠内に描かれているのが特徴です。

ここで紹介した1話部分以外にも、オープニングの地球崩壊シーンの絵コンテも収録されています。

■↓のこされ島に流れ着いたラナをコナンが発見し、恐る恐る足で突っついてみるシーン。

アニメ『未来少年コナン 第一話』絵コンテ本

■↓モンスリーがラナを探してのこされ島に降り立ち、おじいと会話するシーン。キャラクター名が「モンスキー」であったことがわかります。

『未来少年コナン』において、物語を通じて最も「変化」したのは、モンスリーかもしれません。このシーンでのモンスリーは、気が強く無愛想なインダストリアの女ボスです。

アニメ『未来少年コナン 第一話』絵コンテ本

■↓ラナを連れ去ろうとする飛行艇の翼にコナンがしがみつくシーン。完成版本編では飛行艇の名称は「ファルコ」ですが、絵コンテ中では「飛行艇」と書かれています。

アニメ『未来少年コナン 第一話』絵コンテ本

■↓アングルなどが変更されたシーンの絵コンテも収録されており、例えば飛行艇の飛んでいく方向が上手(かみて=観客から見て右側)向きから下手(しもて=観客から見て左側)向きに変更されたことがわかります。

下手向きの移動(左向きの移動)は「前進、旅立ち」を意味し、逆に上手向きの移動(右向きの移動)は「後退、帰還」を意味)しますので、変更後(実際の本編)では自然な流れになっています。

アニメ『未来少年コナン 第一話』絵コンテ本アニメ『未来少年コナン 第一話』絵コンテ本

『メイキング・オブ・TENET テネット』玄光社

書籍「メイキング・オブ・TENET テネット」 表紙

『TENET テネット』は2020年の映画です。

これは絵コンテだけを収録した本ではなく、映画『TENET』のメイキング全般の大型解説本です。

ロケハンの様子、打ち合わせの様子、模型、セットや小道具、撮影の様子など豊富なビハインド・ザ・シーン(メイキング)写真が掲載されています。

絵コンテ、衣装や大道具のスケッチやコンセプトアート、CG画像、図面など、ネット上のメイキング映像では見られないような資料も多数収録されています。

『テネット』の絵コンテを見ると、外枠だけでなく、各コマの画面上部と下部に線が引かれています。『テネット』の撮影にはIMAXフィルムカメラと65mmシネカメラが使われており、IMAXの画面サイズのフレーミングと標準的な画面サイズのフレーミングの両方に対応できる絵コンテのフォーマットになっているのではないかと推測します。おそらくは、通常より縦長のIMAXフィルムカメラのフレーミングと、それを通常の映画スクリーンで見た場合のフレーミングも意識できるようになっているのではないかと思います。

■↓冒頭のオペラハウスでのシーン。おそらくペンが使われていると思います。ペンを使うと物の輪郭線ばかり描きがちで奥行き感の不明瞭な平面的な表現になりやすいのですが、陰の部分を濃く描いて画面の奥行き感を表現しています。

書籍「メイキング・オブ・TENET テネット」絵コンテ

■↓主人公がはしご付き消防車のはしごから走るトラックに乗り込みケースを奪うシーン。この絵コンテだけでは車の位置関係や流れはわかりづらいですが、このシーンは模型なども使いながら細部に渡って段取りが組まれたようです。

書籍「メイキング・オブ・TENET テネット」絵コンテ

■↓ヨットのアクションシーン。

書籍「メイキング・オブ・TENET テネット」絵コンテ

■↓飛行機の後部を爆破し金塊を落とし、乗組員が脱出用シュートで放り出されるシーン。かなり克明に描かれています。

書籍「メイキング・オブ・TENET テネット」絵コンテ