『スターゲイト』(1994年)、『インデペンデンス・デイ』(1996)、「パトリオット」(2000)、『2012』(2009)、『ホワイトハウス・ダウン』(2013年)などを手がけてきたハリウッドの破壊王ことローランド・エメリッヒ監督の超大作映画『ムーンフォール』が、2022年7月29日(金)よりPrime Videoで独占配信開始とのことです。
現実にはありえない、又はあってほしくない現象や状況を擬似体験するのも映画の楽しみの一つだと思いますが、ローランド・エメリッヒ監督は、世界各地の大都市上空に巨大な円盤型の宇宙船が現れ攻撃を始める『インデペンデンス・デイ』や、巨大地震で各地の都市が崩壊し始める『2012』など大規模な破壊・災害シーンを特徴としており、人間の感情の機微よりもスペクタクルの表現を得意とする監督ですが、個人的には好きな監督の一人です。
大規模な破壊・災害シーンを特徴とすることから日本語では「ハリウッドの破壊王」と表現されますが、英語圏では“master of disaster”と言われているようです。日本語訳するなら、「災害(映画)の達人」「災害(映画)の巨匠」といったところでしょうか。
1955年ドイツ生まれ。10代のころから絵画と彫刻を学び、シュトゥットガルト芸術大学を卒業。1977年にミュンヘン映画テレビ・アカデミーに進学し、プロダクション・デザインを学ぶ。しかし、後に映画監督コースに転籍。1981年に卒業作品として『スペースノア』を製作し、同作は1984年に第34回ベルリン国際映画祭のオープニング作品として上映された。(Wikipediaより)
デザインの分野から入って映画監督になった例は他にも、リドリー・スコット、ジョセフ・コシンスキーなどがいますが、デザインの分野から入った監督は、ビジュアルに対する思い入れが強いと思います。
以下、ローランド・エメリッヒの手がけてきた映画です。私が見たもののうちいくつかを解説します。
■ストーリー(あらすじ)
異端の言語学者の男が、エジプトの遺跡から発見され保管されていた巨大な金属の輪の研究チームに要請されて参加し、その輪の石蓋の図形が宇宙のある地点を示していることを突き止め、もう一つの輪と空間を超えて繋ぐ物体であることがわかる。アメリカ軍と共にゲートの向こうに旅立ち、はるか昔に地球から連れ去られた人々の末裔に出会い、ラーを名乗る存在の支配からの解放を求める彼らの戦いに加わる。
■SFXについて
CGが発達する前の映画で、特殊効果は実写素材を合成して制作しています。撮影では特殊効果以外にも様々な苦労があったようです。異星のシーンは砂漠で撮影しており、灼熱の環境かつ砂で覆われた中で移動や機材のセッティング、そして撮影が行われています。ショットごとに足跡を消す必要があり、様々な方法を試したものの役に立たず、結局毎回人力で消していたそうです。そのほか、現在ならCGで作るような背景の建築物の外観や内観なども巨大なセットを作り、異星の戦闘機も模型が使われています。(参照:メイキング映像より)
■感想
エジプトの古代文明と異星人文明とのつながりを主題としたSFファンタジーアクションで、主人公達と一緒に未知の世界への旅をするように映画を楽しむことができ、好きな映画の一つです。エジプト古代文明、異星文明、SFなど観客が好む要素を含んでいるためだと思いますが、その後もテレビドラマが製作されヒットし、スピンオフも作られているようです。
■ストーリー(あらすじ)
世界各地の大都市上空に巨大な円盤型の宇宙船が現れ攻撃を始め、迎え撃つアメリカ軍が宇宙船のバリアーに苦戦する中、ケーブルテレビの技術者と一人の軍人が、宇宙船の母船をコンピュータウイルスに感染させるため、回収されていた小型UFOを使って母船に入り込む。
■SFX、VFXについて
CGが今ほど発達する前の映画で、実際に模型を爆破して撮影した素材を合成したり、小型のUFOは模型で作りモーションコントロールカメラで撮影され、CGの背景と合成しています。また、エイリアンは模型と被り物が使われています。
モーションコントロールカメラとは、コンピューターでカメラの動きを制御し、同じ動きを何度でも繰り返すことのできるカメラあるいはそのシステムのことです。『インデペンデンス・デイ』では、模型のUFOを撮影したカメラの動きのデータをCGソフトに送り、できた背景のCG映像と模型の映像を合成したとのことです。
大きな爆発に関してはすべて本物を撮影し後で合成したようです。
巨大宇宙船の攻撃で都市が破壊され爆発の炎が走るシーンは、幅が2.5メートル長さ6メートルの、街の24分の1の模型を作って垂直(実際には街がやや下側になるように10度の傾きをつけて)立て、上にカメラ、下に火薬をセットして爆発させて撮影したとのことです。
爆発するホワイトハウスは石膏で精巧に作られた12分の1の巨大な模型が使われています。1秒間に300コマという通常の約12倍のスピードで撮影を行い、ワシントンの風景と合成したそうです。
(参照:メイキング映像より)
■感想
エンターテイメント性に優れたSFアクション映画だと思います。公開当時見た時は、ニューヨークの上空に飛来したUFOの巨大さや、煙と火炎をまといながら現れてくる表現が印象的でした。
コンピュータを使ったVFXが一般化する以前の映画ですが、ミニチュアを使って爆発シーンを撮影しており、リアルな迫力があります。
■ストーリー(あらすじ)
ニューヨークに未知の巨大生物が上陸し、生物学者の男がその退治に力を貸し撃退する。
■感想
これはゴジラじゃない、という意見を見聞きしましたが、ゴジラに対する先入観のない私にとっては、モンスターパニック映画として十分楽しめる映画でした。老人が桟橋で釣りを始めたら何かがかかり竿を持っていかれてしまい。海面が大きく盛り上がってこちらに向かいその桟橋を破壊して突進してくるシーン、NYの街中の地面が振動するシーン、NYのビルを薙ぎ倒しながら歩くゴジラの巨大感など、予告編でも使われたシーンはどれも印象的でした。
■ストーリー(あらすじ)
気候の大変動を予測した気象学者の男が、政府には話をまともに聞いてもらえず、北半球各地で異常気象が起こる中、理解者である海流研究の博士と場所を超えて協力して予測を進めて7〜10日後に地球は氷河期になると予測し、ワシントンDCから、津波が襲い超低温が迫るニューヨークにいる息子の元へ向かう。
■VFXについて
ローランドエメリッヒ監督お得意の大災害がVFXを駆使して描かれます。地球温暖化で極地の氷が溶けたことが海流に影響し、地球各地で異常気象となり、日本では大粒のひょうが降り、ロサンゼルスでは巨大竜巻が起き、ニューヨークは津波に襲われ、その後北半球のいくつかの場所が超低温の巨大な嵐に襲われます。
実際にはそんなことにはならないのではないかと思いますが、超低温のためヘリコプターがみるみる凍り墜落するシーンや、ニューヨークのビルが凍っていくシーンもあり、ファンタジーとして誇張して描かれていると思います。
■感想
地球の北半球が氷河期になるというありえないような状況を描いていますが、極端な異常気象が起きる中での人々の混乱の様子がリアルに描かれ、南へ避難するか留まるかで意見が分かれるなど、極限状況の中で登場人物のそれぞれが一瞬一瞬どういう選択をするかも丁寧に描かれ、ドラマが見えてきます。
ただ、超寒波が向かう中、父親である主人公がわざわざワシントンD.C.からニューヨークにいる息子のところへ行く様子がメインプロットの一つになっていますが、超低温の危険性を一番知っている本人が危険をおかしてニューヨークまで行くことは冷静に考えると単なる無謀な行動です。不可抗力とはいえ、途中で仲間を失っています。
そんへんはフィクションとして描かれていると思いますが、最初の南極のシーンで地割れが起きた時に主人公が危険を顧みずに破れ目を飛び越える様子が描かれており、雪の環境に慣れていることや主人公の性格を描いておくことで説得力につなげています。
アメリカからの避難民が川を渡って違法にメキシコへ渡るシーン、ホームレスが長い路上生活で学んだ知恵として、暖を取るために本当は新聞紙が一番だけどと言って本のページを破いて丸めて服の下に入れるシーンなど、ところどころに皮肉、ウイットが含まれています。
■ストーリー(あらすじ)
太陽で史上最大のフレアが発生した影響で地球内部が加熱され地殻が崩壊しはじめ、地質学者の男が調査し先進国で秘密裏に準備が進められる中、いよいよ巨大地震で各地の都市が崩壊し始め、売れない作家の男が元妻や子ども達や元妻の恋人と一緒に逃げ、一部の人々だけが乗れる極秘の脱出用大型船の存在を知り、密航しようとする。
■VFXについて
映画ばえする誇張された極端な都市崩壊シーンが印象的です。大地にヒビが入って崩れ、あるいは持ち上がり、家やビルが崩れ、ビルの駐車場から車が降ってきます。フリーウェイが崩れ、タンクローリーが落ちてきて爆発します。
崩壊する高層ビル群の中を車で逃げ、亀裂の迫る滑走路を助走して小型飛行機で脱出し、崩れるビルやフリーウェイの間をくぐって飛行するシーンは迫力があります。
上空から見る、割れた地殻ごと斜めに海に沈むロサンゼルスは印象的で、映画のメインビジュアルにもなっています。
山々を超えるような巨大な津波も表現されています。
■感想
VFXによるスペクタクルを見る映画と言ってもいいのではないかと思います。CGによって精緻に表現された、誇張された極端な都市崩壊や山を飲み込む巨大津波の表現が特徴的です。
インターネット上の情報によると、エメリッヒ監督は「もう世界崩壊の映画は作らない」と言っていたのをプロデューサーのハロルド・クローサーから説得されてこの『2012』を作ったようです。結果としてその時点の映画での世界崩壊の表現の一つの頂点となり、その後の同種の映画にインスピレーションを与えたと思います。
実際エメリッヒ監督はこの映画のあとしばらく「世界崩壊の映画」から距離をおきます。
■ストーリー(あらすじ)
娘からは尊敬されず大統領警護の仕事も不採用になった男が、娘のために参加したホワイトハウス見学ツアーで武装集団による立てこもり事件に遭遇し、奇しくも大統領を護りながら離れ離れになった娘を探すが、犯人による核爆弾発射を阻止するためにホワイトハウス爆破が命令され、危機が迫る。
■VFXについて
旅客機の墜落シーン、特殊部隊のヘリ(ブラックホーク)がビルの間をぬって低空飛行するシーンやホワイトハウスに墜落するシーン、夜の街の上空を飛びホワイトハウスの建物上空を旋回するヘリコプター、戦闘機(F-22 ラプター)、戦車、爆発、などがCGで表現されています。
■感想
主人公の男、大統領警護の職につく知り合いの女、大統領がヒーローで父を尊敬できないホワイトハウスマニアの娘、大統領、引退日を迎え、秘めた計画を持つ大統領警護の男、武装集団の男、それぞれのキャラクターや関係性がきっちり描かれており、VFXも、それ自体のスペクタクルを楽しむ方向性でなく、このサスペンスアクションを描くために適切に使われている印象です。
ややご都合主義もあるものの、武装集団による立てこもり事件をめぐるメインプロットと、主人公の男と娘のサブプロットが有機的に絡み、スピード感と派手な爆発もあり、いい意味で、ローランド・エメリッヒらしからぬよくできたサスペンスアクションだと思います。
(2016年)監督・原案・脚本・製作・キャラクター創造
■ストーリー(あらすじ)
真珠湾を日本に奇襲攻撃されたアメリカが、その後日本海軍の攻撃目標がミッドウェー島だと突き止め、様々な犠牲をはらいながらも日本軍を撃退する。
■VFXについて
全編に渡って様々な戦艦や空母や戦闘機が登場し、多くの戦闘シーン、爆発シーンがありますが、基本的にCGで制作されたと思います。戦艦大和も出てきます。
■感想
日本による真珠湾攻撃からミッドウェイ海戦に至る、太平洋戦争を題材にした「戦争映画」です。アメリカ側の視点で描かれていますが単なるアメリカ万歳ではなく、かといって戦争反対を謳う映画でもなく、日本側の様子や人間ドラマを盛り込みながらも、日本とアメリカの探り合いや戦闘の様子を描き、ローランド・エメリッヒ監督らしくVFXをふんだんに使ってスペクタクルエンターテイメントとしてバランスよくまとめた映画だと思います。
プロット主導でドラマに深みはなく、かといって宇宙が舞台の話に比べるとVFXにスペクタクル感はないですが。
日本の役者も出演しており、豊川悦司が山本五十六役をしています。いい大人になりました。その他、國村隼が南雲忠一役、浅野忠信が山口多聞役で出演しています。
■ストーリー(あらすじ)
謎の力で月が軌道を外れてあと数週間で地球に激突することが判明し、大災害が起きる中、過去の事故の責任から今はNASAを離れている男が、その事故の時に一緒で、その後NASA副長官になっている女や陰謀論者の男がこれを解決するための危険な任務に挑む。
■期待
やはりローランド・エメリッヒ監督は、このようなSF(SFの定義はさておき)災害超大作で力を発揮する監督だと思います。彼の今までの映画を想起させるシーンもあるようです。楽しみですね。