海外の映画が日本で公開されるとき、しばしばタイトルが変えられます。
日本では日常的に英単語をカタカナで表現して使うことも多いため、英語のタイトルが馴染みのある表現であれば基本的にはそのままカタカナで表現すればいいと思いますが、日本であまり馴染みのない英語の場合や、馴染みがあるかどうかに関わらず、よりわかりやすくするためとかマーケティング上の都合で、日本語に訳したり表現を変えているのだと思います。
映画の原題の良し悪しもあると思いますが、その変更・アレンジが適切だと感じる邦題もある反面、必ずしもいいタイトルとは思えないものも見られます。私見ですが、それぞれ書こうと思います。
ストーリー
女王への戴冠式の日に物を凍らせる魔法を発動させてしまい雪深い山奥に閉じこもった姉を追った妹が、追い返される時に雪の魔力で凍りついてしまうが、姉の真実の愛によって元に戻り、国を覆っていた氷も溶ける。
原題のFrozen(フローズン)は「凍結された」「極寒の」という意味です。日本でもフローズンヨーグルトなどの表現は使われますので何か冷凍されたもの、凍える状態というのは理解できると思いますが、そこからこの映画の内容を想像するのは困難ですので、この邦題はわかりやすいと思います。
ストーリー
心霊現象の専門家夫婦が、田舎の古い家に引っ越したあと心霊現象に襲われ始めた家族から相談を受け泊まり込みの調査を始めるが、依頼家族の母親が悪魔に憑依され子供を殺そうとする一方、専門家夫婦の娘も狙われはじめる。
Conjuringは形容詞の場合、「手品の」「魅惑的」という意味ですが、Conjureの動名詞でもあります。Conjureは「呪文を唱えて悪霊を呼び出す」「魔法を使う」「手品をする」などの意味で、Conjuring houseは霊館という意味になるようです。
いずれにしても日本では馴染みのない英単語ですので、『死霊館』としたのはわかりやすいと思います。
ストーリー
冒険家に憧れる少年だった男が、亡くなった妻との夢であった伝説の滝に行くために、家にたくさんの風船を取り付けて旅に出る。
原題のUp(アップ)は「上へ」「昇って」という意味です。おじいさんの家が飛ぶことや前向きな人生を表していると思いますが、映画のタイトルが『アップ』や『上へ』ではこの映画の内容を想像するのは困難ですので、この邦題はわかりやすいと思います。
ストーリー
優れた味覚を持ちシェフになることを夢見るネズミが、今は亡き憧れの天才シェフが創業したレストランにたどり着き、見習いの青年と協力して作った料理が評判になるが、様々な騒動を引き起こしてしまう。
原題のRatatouille(ラタトゥイユ)はフランス南部の野菜煮込み料理で、主人公のレミーがネズミ(Rat)であることとかけているようですが、これも映画の内容を想像するのは困難ですので、この邦題は映画の内容を想像できてわかりやすいと思います。
ストーリー
アイスピックを使った惨殺殺人事件を担当する刑事が、容疑者であるミステリ作家の女を捜査する中で、過去にも彼女の周りで不可思議な死が何度も起きておりそれらと類似した場面が小説に書かれていたことを知るが、彼女の妖艶な魅力に翻弄されていく。
原題のBasic Instinctは直訳すると「基本的な本能」「本能」といった意味になります。日本語で「本能」というタイトルにするとミステリ調の内容と合わないように感じますので、彼女のミステリアスな微笑みとストーリー中に出てくる氷のイメージを組み合わせたタイトルは映画に合っていると思います。
ストーリー
遠い未来、高価な香料を産出する過酷で危険な砂漠の惑星を統治する命を皇帝から受けたアトレイデス家が、公爵の息子で予知夢を見る青年とその母も同行して現地に移住し、青年は救世主かもしれないと迎えられるが、香料を支配してきた宿敵ハルコンネン家の奇襲を受ける中、青年と母はその星の砂漠の民に導かれる。
原作小説のタイトルかつ映画の原題「dune」は砂丘という意味です。duneの読みを日本語で書くと「デューン」ですが、個人的に、この単語は語感がよく何かミステリアスな響きもあり、砂の惑星を舞台にした壮大なストーリーに合った良いタイトルだと思います。
しかし日本の日常生活では馴染みのない英単語で、小説及び映画の邦題ではわかりやすく『砂の惑星』と表現していますが、単に『砂の惑星』とはせず、元の英単語と日本語読みも足し、『DUNE/デューン 砂の惑星』としています。原題と日本語読みと意味を併記しシンプルではありませんが、ぎりぎり短くまとまってバランスが取れている邦題だと思います。
▶︎『DUNE/デューン 砂の惑星』の感想についてはこちらの投稿をご覧ください。
ストーリー
戦地には行かずに軍の基地でドローンを遠隔操作する男が、命令を無視して爆撃し再教育のため駐屯地に送られるが、そこの上官はAIを搭載したアンドロイドで、テロリストが核爆弾を狙う紛争地域に同行させられる中、その上官が司令を無視した行動をしていることを知り反発する。
ストーリー(詳細版)
戦地には行かずに軍の基地でドローンを遠隔操作する男が、戦闘中の自軍の38人を救うために命令を無視した爆撃をして2人が犠牲になり、再教育のため駐屯地に送られる。そこの上官はAIを搭載したアンドロイドで、テロリストが核爆弾を狙う紛争地域に同行させられる中、その上官が司令を無視してより多くの人を犠牲にしてでも1億人を救うためにその核爆弾を使おうとしていることを知り阻止しようとする。
原題のOutside the Wireは直訳すると「ワイヤーの外側」ですが、軍事施設などの安全な柵・境界線の外、安全な場所の外側という意味です。基地の周りに設置される有刺鉄線に由来します。刑務所などの閉じ込められた場所の外を指す場合もあるようです。
意味が分かれば、この映画の内容に対するタイトルとして「Outside the Wire」はしっくりきますが、カタカナで「アウトサイド ザ ワイヤー」と表現してもおそらくわかりづらいため、「デンジャー・ゾーン」にしたのだろうと思います。「Danger Zone」は「危険地帯」という意味です。やや安易なネーミングにも思えますが、無難な邦題かもしれません。
ストーリー
言語学者の女性が軍に招聘され、地球に飛来したUFOのエイリアンとのコミュニケーションを試みる。
ストーリー(詳細・ネタバレ版)
言語学者の女性が軍に招聘され、地球に飛来したUFOのエイリアンとのコミュニケーションを試みるが、その影響で未来の自分の様子が頭に浮かぶようになる。そして、それまでUFO対策で協力していた各国が分断する中、未来のイメージから得た情報を使いUFOへの宣戦布告をしていた国の武装を解除させ、また、未来の自分に起きる悲しい出来事を知りつつ、その未来へとつながるそれぞれの時間を大切にしていく決心をする。
原題のArrival(アライバル)は「到着」「出現」という意味です。空港で「到着」を表す表現として馴染みがある以外は日本ではあまり使われない言葉だと思いますが、『到着』と和訳してタイトルにしてしまうと映画のイメージが変化してしまうため、他のカタカナ言葉を探して『メッセージ』にしたのではないかと思います。
メッセージに関する内容ではあるので、無難な邦題かもしれません。
ストーリー
火星に一人取り残された宇宙飛行士が生き残るために奮闘する。
原題のThe Martian(マーティアン)は「火星人」「火星の人」という意味です。日本では『マーティアン』というタイトルだと伝わらないでしょうし、原作の邦題「火星の人」はいい邦題だと思いますが、主人公の長いサバイバルの苦労を表現するために『オデッセイ』にしたのではないかと思います。
「オデッセイ」は長期の放浪、長い冒険の旅の意味があります。こちらの単語も日本ではあまり馴染みがないと思いますが、映画のタイトルの一部として見聞きすることはあり、無難な邦題かもしれません。
ストーリー
「ヨロコビ」「カナシミ」「イカリ」「ムカムカ」「ビビリ」の感情をそれぞれ擬人化したキャラクター達が、田舎から都会へ引っ越し孤独や怒りの気持ちでいっぱいになった少女を幸せにするために奮闘する。
ストーリー(詳細版)
「ヨロコビ」「カナシミ」「イカリ」「ムカムカ」「ビビリ」の感情を擬人化したキャラクター達のリーダー格である「ヨロコビ」が、田舎から都会へ引っ越し孤独や怒りの気持ちでいっぱいになった少女を喜びだけで満たそうと奮闘するがうまくいかず、大切な記憶には「カナシミ」など他の感情も表裏一体だと理解する。
原題のInside Outは「裏返し」という意味ですが、主人公の心の中の出来事を扱っているため、原題に近く日本人に馴染みのある表現で『インサイド・ヘッド』としたのではないかと思います。
“Inside Head”と表現すると物理的な「頭の中」をイメージしますが、冒頭のナレーションに”Inside your head”という表現があり、映像としても頭部を感情のキャラクター達がいる場所として表現していますので、邦題としては無難なのかもしれません。
ストーリー
ロサンゼルス消防局の腕利きレスキュー隊員の男が、カリフォルニア州を巨大地震が襲い崩れつつある高層ビルに閉じ込められた離婚協議中の妻や、別の離れた場所で危機的状況にある娘を助けに向かうが、様々な困難が立ちはだかる。
原題のSan Andreas(サン・アンドレアス)は、カリフォルニアにある巨大な断層の名前で、周辺は地震の多発地帯となっており、1906年に起きたサンフランシスコ地震ではサンフランシスコが壊滅状態となったとのことです。
カリフォルニアに住んでいる人であればおそらくサン・アンドレアスという名前から断層→地震とイメージがつながるのでしょうが、日本人には馴染みがないため、『カリフォルニア・ダウン』というタイトルにしたのだろうと思います。
余談ですが、この映画の崩れるビルなどの表現は誇張されていると思いますが、後半には巨大津波もあり、CG/VFXによる都市の崩壊の表現はここまで来たかと感じた映画です。
ストーリー
カリスママジシャンなどの4人が伝説の魔術結社からカードを受け取り集められ、そこで投影された図面に基づいてイリュージョニストグループとして大金を盗み出すマジックショーを行なっていく中で、FBI捜査官達を何度も欺きながら一連のマジックの黒幕にたどり着く。
ストーリー(ネタバレ版)
伝説の魔術結社メンバーの男が、自分は姿を見せず4人のマジシャンをスカウトしてマジックショーをさせる中で、マジシャンだった自分の父を死に追いやった人物や組織に復讐をする。
原題のNow You See Meは、マジシャンが言う決まり文句の”Now You See ○○”「今あなたは○○が見えますね?」、”now you don’t.”「さあ、見えなくなった」という表現と、ストーリー中で黒幕が最後に現れる状況を表す”Now You See Me”「今あなたは私が見えます」が掛かっているようです。”now you don’t.”という表現は映画中で4人が集められたアパートに落ちていた紙にも書かれています。
“Now You See Me”は面白いタイトルだと思いますが邦題としてはわかりづらく、一方、日本でも大掛かりな仕掛けを用いたマジックを「イリュージョン」と呼ぶのは一般化していると思いますので、『グランド・イリュージョン』はこの映画の邦題として無難だと思います。「壮大なイリュージョン」という意味です。
ストーリー
時間=余命が通貨として使われ、遺伝子操作で25歳から歳を取らないがそれ以降の時間=余命を稼がなくてはならず、しかし物価は理不尽に上げられていく世界で、人生に疲れた富裕層の男から100年以上の時間を与えられた貧困層の男が、貧困層から搾取している富裕層に復讐をしようとする。
原題のIn Timeは「時間内に」という意味で緊迫感がありますが、日本語で『時間内』だとSF映画のタイトルとしてはふさわしくないため日本でも一般的に使われるTime(タイム)に変更したのかもしれません。一般的な単語で意味が広くなってしまいますが、時間を扱ったストーリーのため無難だと思います。しかしカタカナで『タイム』とすると、スポーツの試合中に試合の一旦停止を求める「タイム」もイメージされてしまうため、英語とカタカナを併記したのかもしれません。
ストーリー
シカゴ行きの電車で自分ではない誰かとして目覚めた軍人の男が、電車の爆発と同時に今度は暗いカプセルで目覚め、その後、軍の特殊任務で爆弾テロの犯人を探しあてるために、爆破で亡くなった乗客の脳の機能と8分間の記憶を一体化したプログラムに自分の意識が送り込まれていると知る。失敗する度に何度も同じ電車内に意識が送り込まれる中、自分もすでに戦争の負傷で植物状態となっていることを知り動揺するが、ひどいことを言って別れたままになっている父親への気持ちを抱えつつ犯人に迫っていく。
原題のSource CodeはIT用語ですが、このストーリーでは作戦に使われるプログラムの名称です。Source CodeがITの分野でよく使われる表現であるにも関わらず定義が定まっていないか又は不明瞭なため、邦題ではわかりやすく表現したのだと思います。主人公は毎回8分間のうちに犯人の特定や爆発の阻止をする必要があり「ミッション:8分間」といった意味です。
ストーリー
イラクで仕事中に襲われ木の棺(ひつぎ)に入れられて地中に埋められたアメリカ人の男が、状況がひっ迫する中ライターの明かりと携帯電話を頼りにアメリカの知人や会社や公的機関に助けを求めるが、犯人から電話で身代金を要求される。
現題のBuriedは「埋葬された」「監禁された」という意味ですが、カタカナ表記で『ベリド』『ベリード』ではわからず、『埋葬された』『監禁された』ではタイトルとしてピンと来ませんね。酸欠になりそうな棺の中で、いつガス切れになるかわからないライター、いつバッテリーがなくなるかわからない携帯電話だけを頼りに、自分は棺に閉じ込められているのに夜9時までに身代金を用意しろと犯人から連絡があり、様々なリミット(制限)の中で状況に立ち向かう話ですので、『リミット』というタイトルにしたのは無難だと思います。
ストーリー
スペースシャトルで船外作業中に事故に遭い宇宙空間へ放り出された女性技師が、生き残るために様々な困難を克服していく。
ストーリー(ネタバレ版)
スペースシャトルで船外作業中に事故に遭い無重力の宇宙空間へ放り出された女性技師が、様々な困難を克服して地球に戻り、地球の重力を噛みしめる。
原題のGravity(グラビティ)は「重力」という意味です。「グラビティ」という単語は日本の日常では使われず意味がわからない人もいると思うのですが、訳さずにカタカナ表記にしています。タイトルを『重力』とすると何か物理学的になってしまいイメージが変化してしまうためと、日本語より英語のほうがかっこよく聞こえるからかもしれません。
しかしあえて英語のカタカナ表記にしているのに、ゼロを加え『ゼロ・グラビティ』(無重力)とすることで、タイトルの意味を変えてしまっています。無重力下での緊迫したシーンもあるものの、映画の内容としてはタイトルは『グラビティ』であるべきだと思いますが、『ゼロ・グラビティ』のほうがわかりやすくキャッチーに聞こえるからそうしたのでしょうか。
ストーリー
18年間にわたって全く子供が生まれず人類が希望を失い混乱した世界で、子供を身ごもった女をめぐる争いに巻き込まれた男が、彼女を連れて命懸けで彼女の引き取り先へ向かう。
原題及び原作小説のタイトルは『Children of Men』で、小説の方はそのまま『人類の子供たち』と訳されています。内容に即していて小説のタイトルとしては相応しいと思います。
映画のタイトルとしては難しいところです。内容について何の情報も持たない人が『人類の子供たち』という映画のタイトルを見た場合、どれくらいの人が見にいこうと思うか未知数です。むしろ、見に行こうと思わないかもしれません。あるいは、内容について実際とは異なる想像をして見に行ってしまう可能性があります。そのため邦題を決めるにあたって変更しようとしたのは理解できます。
英語圏の人が前情報なく『Children of Men』という映画のタイトルを見た場合にどう感じるかは分かりませんが、映画のタイトルを『Children of Men』のままにしたのは、トレーラーで映画の映像を見て、ディストピアSF映画であるという前提であれば『Children of Men』というタイトルでも見に行こうとする人は増えるだろうという判断だったのかもしれません。
邦題を決めるにあたって変更しようとしたのは理解できますが、『トゥモロー・ワールド』が適切だったかは微妙です。個人的には2006年のこの『トゥモロー・ワールド』と2015年のSF映画『トゥモローランド』を間違えやすいです。今作の内容は時代設定が未来のSF映画のためトゥモロー・ワールド(明日の世界)には違いないのですが、内容についてはほのめかしてさえいないです。
残念ながらこの映画は、製作費7千600万ドルに対し、興行収入は約7千万ドルです。
ストーリー
アルカトラズ島の刑務所へFBI捜査官が潜入捜査に入るが、謎の武装集団が空から上陸し死刑囚が隠した金塊のありかを聞き出そうとする。また、死刑執行の立会いに来ていた最高裁判事を人質に取り、逃走用のヘリとジェット機を要求。最高裁判事を奪還する駆け引きのすえ銃撃戦となる。
原題の『Half Past Dead』は『北斗の拳』の有名なセリフ「お前はもう死んでいる」あるいは「お前は既に死んでいる」に通じる表現だと思います。「お前はもう死んでいる」や「お前は既に死んでいる」は、相手がまだその言葉を聞く意識はあるものの、すでに死んだと同じ状態だ、もうすぐ死ぬ、ということを意味しています。『Half Past Dead』も、すでに死んだと同じ状態、極めて危険な状態、ということを意味しているようです。
いずれにしても日本語で表現しづらく、アルカトラズ島を舞台にした奪還の話のため、それをわかりやすく表現するためのタイトルにしたのだろうと思います。しかしなぜローマ字表記で「DAKKAN」を入れたのでしょうか。アルファベットも入れた方がかっこよく見えると思ったのでしょうか。不明です。