SFディザスターホラーファンタジー『ムーンフォール』を見た感想(ややネタバレあり)

SFディザスターホラーファンタジー『ムーンフォール』を見た感想

ストーリー(あらすじ)
謎の力で月が軌道を外れてあと数週間で地球に激突することが判明し、大災害が起きる中、過去の事故の責任から今はNASAを離れている男が、その事故の時に一緒で、その後NASA副長官になっている女や今まで誰にも信じてもらえなかった陰謀論者の男がこれを解決するための危険な任務に挑む。

ムーンフォール Prime Video

映画『ムーンフォール』の解説・感想 概要

ありえないような荒唐無稽な状況を描くSFファンタジーとして、また、今回はややホラー風の要素も加わり、特に後半はローランド・エメリッヒ監督らしい世界観が展開します。

▶︎ローランド・エメリッヒ監督の過去の作品についてはこちらの投稿をご覧ください。

しかし登場人物が比較的多く複雑であるのに対して、特に前半での彼らの描き方や話の展開が大ざっぱに感じ、人間のドラマの側面が監督の今までの映画にもまして未消化ぎみなのが残念でした。むしろ、もっと登場人物を減らしてストーリーをシンプルにすべきだったのではないかとも思います。

登場人物が比較的多く複雑

登場人物が比較的多く複雑です。登場人物どおしの関係性が複雑というよりも、主要登場人物である男女それぞれが似たような人間関係を持っており、それが並列的に描かれるため混乱します。

以下のような関係性です。

かつて宇宙飛行士として、仲間から熟年夫婦みたいだと言われるほど気の合う同僚だった男と女。しかし実際は夫婦ではなくそれぞれ結婚していて子供もいます。

彼らが一緒の宇宙でのミッションの途中、得体のしれないものに襲われ仲間が犠牲になりますが、彼女はその時気を失っており、事故は彼のせいだということになり、NASAを離れ家も手放さなくてはならなくなります。

10年後、主人公は離婚しておりかつての妻には新しい夫がいて娘たちもいますが、主人公との息子は素行不良になっており、主人公と息子の関係も主人公と元妻の現在の夫の関係性も良くありません。

一方、かつての同僚の女の方は現在はNASAの副長官となっていますが、離婚しており、元夫は軍の要職についていて、今回の件を巡って彼女と立場がぶつかります。彼女は息子と暮らしていて、ホームステイしている留学生が世話係をしています。

その他、陰謀論者も普通に主要登場人物として出てきて主人公が出会い、一方NASAの隠してきた秘密を知る人物も登場し、女の方が出会います。

こう書くとさほど複雑ではないように思えるかもしれませんが、最初見たときは理解が追いつきませんでした。

映画『ムーンフォール』の前半、後半

登場人物たちのバックグラウンドや月が軌道を外れたことが明らかになる混乱を描く前半は、脚本のせいか編集のせいか、エピソードの描き方が荒く、断片を繋いだ印象であまりドラマとして見えてきません。

ありえないことが起きていて、ありえない方法で解決しようとしているのに、ありえないことに襲われるまでの緊迫感が描かれず、リアクションも薄い場合があり、荒唐無稽な状況を説得力を持って見せるほどは演技やシーンにあまりリアリティが感じられません。プロットを追っているような印象があります。

主人公たちが月に向かう後半は、ビジュアル的に目新しさはないものの映像はそれなりに見応えがあり、監督の過去作『インデペンデンス・デイ』や『2012』を思い起こすようなシーンもあります。しかし、月に関する(ストーリー中の)真実がほぼセリフで語られ、映像でも表現されているもののあくまでセリフのサポートになってしまっているのは、あまりにも壮大な内容のため仕方のないことかもしれませんがちょっと残念です。

息子の姿を借りてその真実を語るその存在の、主人公に問いかけるスタンスが、世界観の規模に比較してチープに感じます。

映画『ムーンフォール』のVFX

VFXによって描かれた後半の映像はそれなりに見応えがあるものの、前半から中盤の自然災害の表現は最低限に留められているように感じられます。全体を通してVFXに依存する部分があまりにも多いために、予算の都合か時間の都合かわかりませんが力をかけるところと最低限にするところができてしまったように感じます。

以下、『ムーンフォール』の製作費を、ローランド・エメリッヒの災害スペクタクル映画である『2012』と、ローランド・エメリッヒ監督作ではありませんが、世界観の壮大さという点で共通しており、しかもそれをかなりきちんと表現しきっていると感じる『スター・トレック イントゥ・ダークネス』や『マン・オブ・スティール』、『DUNE/デューン 砂の惑星』と比較してみます。


製作費の比較

『ムーンフォール』 1億5000万ドル
『2012』 2億ドル
『スター・トレック イントゥ・ダークネス』 1億9000万ドル
『マン・オブ・スティール』 2億2500万ドル
『DUNE/デューン 砂の惑星』 1億6500万ドル
(Wikipediaより)

製作費の配分は分かりませんが、この数字だけを単純に比較すると、おそらく『ムーンフォール』を描ききるには2億ドルは必要だったのではないかと感じます。

『DUNE』は『ムーンフォール』とさほど変わらない製作費ですが世界観の表現は充分だと感じます。CGで作るものが『ムーンフォール』ほどには多くなく、しかもその多くは、CG上のカメラは動いても建築物などのオブジェクトは動きがなかったり、乗り物や巨大な生物などオブジェクト自体は動いてもCG上のカメラの動きは控えめであることが影響しているのではないかと思います。あるいは、砂ぼこりの表現は実際の砂ぼこりを撮影して合成したことによって、完成した映像の見た目の良さを実現しながらVFXショットのパソコン上の計算の負荷を軽減し、VFXの費用を軽減できていたのかもしれません。

▶︎『DUNE/デューン 砂の惑星』についてはこちらの投稿をご覧ください。

▶︎VFXで都市の破壊・崩壊が描かれた映画についてはこちらの投稿をご覧ください。

映画『ムーンフォール』のキャスト

主人公役のパトリック・ウィルソンは役に合っていると感じます。

もう一人の主人公であるNASA副長官役のハル・ベリーも役に合っていると感じますが、NASAの副長官には見えず、キャスティングというより、このキャラクターがNASAの副長官であるという設定は必要だったのか疑問です。

息子のキャスティングが良くないと感じます。役者が悪いというより、キャスティングが良くないように思います。それをなんとかするのが役者かもしれませんが、息子には見えず、あまり親子のドラマを感じられなかったです。

留学生役のケリー・ユーは中国系カナダ人の女優、歌手だそうです。『ムーンフォール』には中国系制作会社が参加していることもあり、中国市場を意識したキャスティングかもしれません。