AI人形(少女型アンドロイド)を題材にしたSFサイコ・スリラー映画『M3GANミーガン』を見ました。AI時代に起きるであろうことをタイムリーに示唆的・比喩的に描いた恐ろしくも楽しい映画です。
映画の概要と、この映画の示唆するリアリティなどの見どころや、感想と考察、AI人形ミーガンの表現と奇妙なダンスについて書こうと思います。ストーリーの内容に触れます。
以下について書きます。
『M3GANミーガン』の概要
・プロデューサーと監督
・劇場公開日
・海外での評価
感想外観
・「暴走するAIロボット」だけでなく「自分の都合でロボットに行動させようとするわがままな人間」も、これでもかと描かれている
AI自体が脅威なのではなく、AIによって人間の不完全さや矛盾があからさまになっていく恐怖
・AI時代のアナベル × ターミネーター
・テクノロジー依存が深まり続ける
・テクノロジーが人間による制御をしのぐ
フィクションとしていい具合に脚色された映画作品
AI人形ミーガンの表現と奇妙なダンス
印象的なセリフ
英語で味わいたいセリフ
追記 続編『M3GAN 2.0』は面白いか?
おもちゃメーカーで子供向けAIぬいぐるみを開発する裏で高度なAI人形開発に意欲を持つ女が、事故で両親をなくした姪を引き取るがうまく関係を築けずAI搭載の少女型アンドロイドを作り姪に与えるが、アンドロイドが姪を守るためにする行動が次第に惨劇を引き起こしていく。
プロデューサー:ジェイソン・ブラム(『パラノーマル・アクティビティ』シリーズ、『インシディアス』シリーズなどのプロデューサー)
プロデューサー:ジェームズ・ワン(『ソウ』シリーズ、『インシディアス』シリーズ、『死霊館』シリーズ、『アナベル』シリーズのプロデューサー)
ジェームズ・ワンは脚本のアケラ・クーパーと共に原案も担当しています。ホラー映画のマスター2人が組んだ作品です。
監督:ジェラルド・ジョンストン(ニュージーランド出身)
▶︎『インシディアス』『死霊館』『アナベル』を含む「怖い映画」についてはこちらの投稿をご覧ください。
2022年12月7日(ロサンゼルス)
2023年1月6日(アメリカ広域)
2023年6月9日(日本)2023年1月27日の予定だったが延期
(ウィキペディアなどより)
映画やテレビドラマなどについて批評家と観客の評価とレビューを掲載しているウエブサイトRotten Tomatoesによると、観客の評価は高く、批評家の評価もそれを上回ります。
Rotten Tomatoes
https://www.rottentomatoes.com/
機械学習をしたチャットボット(大規模言語モデル)や画像生成プログラムが「AI」として話題に上がる昨今ですが、現状の生成AIと言われるものは大量に学習した既存のデータを混ぜるプログラムでしかないという見方もあると思うものの、AIが最近の主要な関心事の一つであることは間違いありません。
今はまだ形のあるロボットは初歩的なものが実験的に作られているだけですが、そのうち「AI」がヒト型のものにも組み込まれ、ミーガンのようなAI人形、アンドロイドは当たり前に登場してくるだろうと思います。
ミーガンほどの自立性や運動能力を持つものが登場するのはまだしばらく先だろうと思いますが、「AI」によって仕事や教育や育児など様々な物事のあり方が変わっていく中で、この映画は示唆的でタイムリーに感じます。
このストーリーは、一見すると「AIロボットが暴走するストーリー」に見えます。
しかし単なる「AIロボットが暴走するストーリー」だと思って、現実世界のAIやロボットを取り巻く状況に対して「AIロボットは暴走する懸念があるよね」と上から目線で侮らないほうがいいと感じます。
ここでは「指示されたことを実行するためには手段を選ばないAIロボット」と「自分の都合でロボットに行動させようとするわがままな人間」の関係性が描かれており、AIと人間の関係をどこまでも示唆していると思います。
「AIロボットの真っ直ぐさの脅威」以上に「人間のわがままさ・争い」が冒頭からこれでもかと描かれています。
冒頭で少女ケイディの両親は、妻の妹(ケイディの叔母=主人公ジェマ)が娘に与えたペットロボットの扱いについて口論します。母親は30分ルールを夫に求め、夫は俺は与えてないと言います。吹雪で視界が悪い路上で車を止め、対向車に追突され、両親は死亡します。
ジェマはオモチャメーカーでAIペットロボット(AIぬいぐるみ)の開発をする裏で、というか上司の指示を無視し、上司に隠れ、高機能AIロボットの開発をしています。人とのコミュニケーションが苦手で、隣家の犬が柵の穴から入ってくることや水が流れてくることで、隣家の女とトラブルにもなっています。
引き取ることになった姪ケイディが棚にあるおもちゃの箱をとって見ていると、それはダメ、収集品だからこれでは遊ばないのよ、と言います。
高機能AIロボットの開発を上司に見つかり説明しようとしますが、トラブルでロボットの頭が爆発し、もともと上司が半年前に指示していた試作品を金曜に提出するよう言われます。
しかし彼女の学生時代の試作ロボットをケイディが気に入ったため高機能AIロボットの制作を続け完成させミーガンと名付け、幸運にも上司が気に入ったため、会長へプレゼンする準備をしますが、ケイディの相手をミーガンにさせ、自分はプレゼンで頭がいっぱいで、心配する同僚の意見に耳を傾けず、「(ケイディは)私の子じゃない」とも発言します。
ミーガンと心の結びつきが強くなったケイディは、ジェマの言うことを聞かなくなりますが、ジェマは保護者ヅラをしてケイディに自分の考えを押し付けようとします。理論的な解説を挟んでくるミーガンをジェマが停止させ、ケイディがまた始動させる、というやりとりが何度か描かれます。
「ケイディの相手をすることやケイディの安全を優先しているミーガン」対「ロボットには自分の想定する範囲で都合よく動いてもらいたいジェマ」、言い換えると「指示されたことを実行するためには手段を選ばないAIロボット」と「自分の都合でロボットに行動させようとするわがままな人間」の関係性が描かれていますが、人間どおしが対立する中でAIロボットはどう行動するのか、という側面も描かれており、現代的であり、今後のAIロボットと人間の関係を強烈に示唆していると思います。
・AI時代のアナベル × ターミネーター
パンフレットによると、本作は「アナベルとターミネーターを融合させた殺人人形の話」というのがアイディアの原点とのことです。「アナベル」はホラー映画シリーズに出てくる呪いの人形、「ターミネーター」は映画『ターミネーター』シリーズに出てくる人類の殲滅を目的とする機械軍の兵士ですが、本作ではAI人形が人間の生活の中に入ることで生まれる脅威を描いており、現代的です。
「テクノロジー依存が深まり続ける現代社会や、テクノロジーが人間による制御をしのぐという潜在的脅威についても描いている」とパンフレットにあるように、『M3GANミーガン』が投げかけている問題は現在リアリティを持って感じられます。
・テクノロジー依存が深まり続ける
様々なテクノロジー依存の一つとして、子供にスマホなどを与えることの是非が話題になることがあります。単にスマホばかりいじっていると勉強する時間が少なくなるということ以前に、育児に対するテクノロジー依存もあります。「スマホ育児」という表現があるように、親があまり子供の相手をしている暇がないために特に小さい子供にスマホを渡した場合、親との関係の欠如による発達への影響の懸念もあるようです。スマホがミーガンに置き換わり、それはこの映画でも描かれています。
一方、学校に行くよりもミーガンに教わる方が早く覚えられるという表現も出てきますが、それは現実世界でも起こり得ます。
今後家事ロボット、育児ロボットは当たり前に出てくると思います。忙しい親が家事だけでなく子育てをロボットにまかせようとする可能性は高く、どのような影響があるのか、何をテクノロジーに任せるのかということも考えさせられます。
・テクノロジーが人間による制御をしのぐ
テクノロジーが暴走して人間の敵になるという単純な仮定だけでなく、この映画では、テクノロジー依存ともつながりますが、人が普段やりそうなことをそれぞれの登場人物が普通にやっているだけで、人間には不完全さや矛盾がある中で最適解を求めたロボットが驚異になっていく様子が面白いです。
人間主体に考えると脅威なのですが、逆に、状況を広く正確に分析して最適解を求め行動したAIに、人間の意識は対応しきれるのか、という問題でもあります。つまり、「人間はAIを正しく使いこなせるのか?」という問い、もっと言うと「人間はAIを正しく使いこなせるほど立派な存在か?」という問いです。
人間社会で争い、ひいては戦争がなくならないのは、人間の持つ「種の保存の本能」がベースにあると思いますが、その点AIは異なります。人間のような種の保存の本能がないAIは、人間がプログラムしない限りあるいは指示しない限り、他と争うことはないのではないかと思います。
AIが驚異になるとすれば、それは人間が悪用する場合と、悪用の意図はなくても人間の争いの道具になる場合です。
前述のように、冒頭は、車の中での少女の両親の口論からストーリーが始まります。また、おもちゃメーカーで子供向けAIぬいぐるみを開発する主人公は、上司に隠れて裏で(会社で)高度なAI人形開発をしています。脅威なのはAIではなく人間ですね。
AI人形ミーガンは、なんとしてでもケイディ(姪である少女)を守るよう指示され、そのとおりに実行することで結果的に惨劇が起きます。
ジェマの提案でケイディが参加し、ミーガンもそばの人形台に置いておいた森の中でのオルタナティブスクール(後述)で、ケイディをいじめた問題児ブランドンがその後死亡し、隣家の犬がケイディを襲ったあと犬が失踪し、トラブル関係だった隣家の女もその後死亡する。
本作で主人公ジェマの姪ケイディは、亡くなった両親の判断で学校へは行っていませんでした。ケイディ自身も「(学校は)私には合わない」と言っています。
これまでも指示を無視することがあったためにミーガンを怪しんだジェマが、ノートパソコンでミーガンのバックアップデータから視覚記録を見るが、森でブランドンの精神状態を測定したあと、映像が再生されない。さらには破損してアクセスできないファイルが多数。
ミーガンに、人を傷つけたか聞くがはぐらかされる。ジェマ、ミーガンを物理的にオフにし、ぐるぐる巻きにして会社のラボに持っていくが、ミーガンのお披露目独占ライブ配信まで4時間を切った。
ジェマ、ケイディに何があってもあなたを守ると言って、上司に黙ってお披露目会をボイコットしケイディを連れて家に帰る。
職場のラボではジェマの同僚が自分のスマホの通話を、電源が切れているはずのミーガンが傍受していたことに気づきケーブルを抜いていくが、突然ミーガンが起動しラボから出ていく。ミーガンは途中で会ったジェマの上司などを殺す。
ミーガンは夜ジェマとケイディのいる家に現れ、争いの末、ジェマが学生の頃に作った試作ロボットをケイディが操作し、ミーガンを引きちぎり、トドメも刺す。
タイミングよく同僚と共に救急車が到着し、一件落着と思われるが、ジェマ達の後ろでは、小型卓上AIアシスタントのエルシーが勝手に起動する。
エンドクレジット。
本作はAI時代に起きるであろうことを描いていますが、映画として、いい具合に脚色・演出されています。
現実世界でもいずれ人形にAIが組み込まれていくとしても、ミーガンほどの自立性や運動能力を持つものが登場するのはまだしばらく先だろうと思いますので、そこはフィクションの範疇です。
ミーガンはケイディを守るよう指示されてケイディにとって脅威となることを排除していこうとしますが、その方法は狂気とバイオレンスを感じます。
最後の方でミーガンが「新ユーザーがいるの 私よ」と言うのが面白いです。おそらくこれが実現する時が単なるプログラムではない真のAIとなるのだろうと思いますが、少なくとも今のところフィクションの範疇ではないかと思います。
パンフレットによると、AI人形ミーガンは、俳優、VFX、アニマトロニクス、パペットなど、異なる手法で表現されているようです。
ミーガン役俳優はエイミー・ドナルドですが、メイキングの映像を見るとミーガンのマスクをつけて撮影しています。ダンスもできるエイミーの身体能力とマスクの無表情さの組み合わせがミーガンの表現にうまくつながっていると思います。
ミーガンが踊りながら人を襲う奇妙で特徴的なシーンがメディアで取り上げられているようですが、ミーガンが踊るのは脚本には書かれておらず、監督ジェラルド・ジョンストンのアイディアで、ムーブメント指導やダンス指導のスタッフと共にシーンを作ったとのことです。エイミーの身体能力がうまく生かされ、ミーガンの奇妙な怖さが表現されていると思います。
既定路線のセリフとも言えますが、ミーガンのセリフはAIと人間の関係が示唆されていて印象的です。
ミーガン「友達だと思ってたのに、安い部品のように私を捨てるわけ?」
ジェマ「人を殺すからよ」
ミーガン「大げさね。人類は日々殺すわ。自分の存在を守るためにね」「何が悪いの?ケイディのためよ」
ミーガン「雑な学習装置をつけて、あとは私に丸投げ。
言葉には、同じ発音(音)を持つ別の単語を利用した「かけことば」や、相手の発言に含まれる単語や要素を繰り返しつつ別の側面を言う会話の手法がありますが、これらは別の言語への翻訳が難しいことが多く、本作でも字幕より元の英語で聞くと味わいのある表現があります。
前述のミーガンの「大げさね。人類は日々殺すわ。自分の存在を守るためにね」「何が悪いの?ケイディのためよ」に続く会話です。
ジェマ「設定を間違えた。私のミスね」
This is all my fault. I didn’t give you the proper protocol…
ミーガン「無能なのよ」
You didn’t give me anything.
この後「雑な学習装置をつけて、あとは私に丸投げ。
日本語字幕では普通のやりとりになっていますが、元の英語では、ジェマの発言に含まれる「give」を繰り返しつつミーガンが言い返しており、辛辣なウイットとなっています。
続編『M3GAN 2.0』はアメリカでは2025年6月27日、日本では2025年10月10日公開とのことです。
YouTubeには予告編映像が公開されていますが、前作の「ホラー」から「アクション/コメディ」へのジャンル変化の印象から、つまらない、駄作だとする意見もあるようです。
一方、過去には極めて稀ではありますが、『エイリアン』シリーズや『ターミネーター』シリーズなど、「1作目が優れていて完結しているが、2作目も面白い」と評価されている映画もあります。
『エイリアン』では、1作目の不気味な孤立感ホラーから、2のアクション満載の集団戦へとジャンルが変化しました。
『ターミネーター』では、1作目の「冷酷な殺人マシン」から、2の「強力な味方」へシフトしました。
『M3GAN 2.0』では『ターミネーター2』を意識しているようです。
参考
M3GAN 2.0 Is Apparently Inspired By Terminator 2, And The Director’s Explanation For That Makes So Much Sense
https://www.cinemablend.com/movies/m3gan-2-0-apparently-inspired-by-terminator-2-director-explanation-makes-so-much-sense?utm_source=chatgpt.com
『M3GAN 2.0』ではキャスト・スタッフが続投していますので、予告編映像の印象とは異なり、脚本・演出次第ではかなり面白くなるのではないかと思います。