誰しも、「もしあの時違う選択をしていたら今頃どうなっていただろう」ということを考えたことがあると思います。あるいは、いま自分がいる世界とは違う世界に思いを馳せたこともあるかもしれません。
ここではパラレルワールドを扱った映画をまとめました。
ここで言う「パラレルワールドを扱った」は様々な意味合いを含みます。パラレルワールド・並行世界で目覚めたり迷い込んだり行けるようになるもの、別の可能性世界に行くために(現実を変えるために)タイムトラベル又はそれに類することをして過去に干渉するもの、仮想世界がパラレルワールド化するもの、映画の構造自体がパラレルワールドになっているもの、などです。
後述の「マルチバース」に近いと思われるものも含め、ここでは「パラレルワールドを扱った」映画を基本としつつもやや広めにピックアップします。
逆に、「パラレルワールドを扱っている」に含めなかった映画も最後に紹介しています。
記載した公開年月日は日本ではなく国際です。
観察者がいる世界から、過去のある時点で分岐して併存するとされる世界。平行世界。平行宇宙。(小学館 デジタル大辞泉より)
選択をするから分岐するのか、そもそもいくつもの(無限の?)選択肢・可能性の中から毎瞬毎瞬選択をしているということなのか、パラレルワールド・平行世界という概念は興味深いですね。
「パラレルワールド」に類する概念・表現として「マルチバース」があります。「パラレルワールド」が「過去のある時点で分岐して併存するとされる平行世界」なのに対し、「マルチバース」は複数の独立した宇宙や現実が同時に存在する概念を指すようです。
以下に紹介している映画の中には、タイトルは『マルチバース』でも内容はパレラルワールドを扱っていると思われるものもあります。
ストーリー(あらすじ)
学生の頃、引き止める恋人を残し銀行のインターンシップのため外国へ行き、そのまま恋人と別れその後ビジネス的に成功している仕事優先の男が、ある日突然、別れた恋人と結婚し小さい子供もいる世界の自分として目覚める。
タイプ
「もしあの時、違う道を選んでいたら」の世界(パラレルワールド)に突然送り込まれる
解説・感想
映画『天使のくれた時間』は、主人公が選択可能だった別の人生をパラレルワールドとして描いています。
学生時代の恋人と別れ、仕事への野心優先でビジネス的には成功して社長となり、高級車に乗り高級マンションの最上階に住み独り身を謳歌している男が、突然かつての恋人と結婚し小さい子供もいて慎ましく生きている世界の自分として目覚めます。
「夢を追うか恋愛か」とか「仕事か家庭か」という誰しも身に覚えがあるであろう身近なテーマを、別の選択をした場合の現実に突然送り込まれてパパになってしまった主人公の驚きと葛藤と悪戦苦闘のドラマとして描いています。
子供とのシーンもとても面白いです。子供の演技もなかなかで、セリフでなく演技で見せる場所や、編集はしていると思いますが1つのシーンの中で感情の流れをしっかり表現している場面もあります。(ただし家族向けの映画ではなく大人向けの表現もあります)
基本的にSF感はなく、共感しやすい上質なヒューマンドラマになっていると思います。
エンドクレジットを見るとVFXも使われてはいるようですがスタッフの人数は少なく、マットペイントなどが中心ではないかと想像します。
一方、SFではないパラレルワールドのストーリーを作るために、物語上曖昧にしてある部分もあると思いますし、さほど気にはならないものの多少の違和感がなくもないです。
学生の頃恋人を残し飛行機に搭乗したあと次のシーンで13年後に彼が仕事で成功している様子を描いているため、明確に別れたとは描いていません。
主人公が元の世界で偶然関わったある男がこの転生に関係しているような描きかたになっていますが、種明かしはありません。
仕事で成功している元の世界では、元恋人は主人公が車で行ける場所に住んでおり「もしも」の世界から戻った後会いに行きますが、これまで全く会わなかったことにやや違和感があります。(この場面や最後の方での会話などで、ずっと会っていなかったことがうかがえます)
学生の時別れ際に主人公は「別れは言わない。僕らに別れはない」「たとえ100年離れ離れになっても僕らは変わらないよ」と言っており、その後何かあった設定だとしても、映画としては13年間の経緯が描かれていないため違和感があります。
また、学生の頃空港で別れたきり本当に会っていなかったのだとしたら、突然主人公が会いに行って13年ぶりに会った時のお互いの様子はもっと複雑なものになるのではないかと思います。
冒頭のシーンとその後のシーンは13年立っていますが、メインの二人は同じ役者が演じており、女性の方は学生時代はロングヘア、13年後はショートにしていますが、主人公の方は全く変わらないです。
ストーリー(あらすじ)
重大な出来事の記憶が欠落してしまう少年が青年になった時、過去にさかのぼって失われた記憶を体験しそれを変えることができることに気づき、悪い結果をもたらした事件が起こらないように関与するが別の悪い結果になってしまい、何度も過去に戻るがうまくいかない。
タイプ
別の可能性世界に行くために(現実を変えるために)タイムトラベルをして過去に干渉する
バタフライエフェクトとは
ある小さな力が長期的にみて、大きな系に大規模な影響を及ぼすこと;例えば、ある所でのチョウのはばたきが他の場所であらしを起こすという考え方(リーダーズ英和辞典 butterfly effectより)
解説・感想
ドラマチックな展開で、面白いストーリーだと思いますが、これを低く評価している批評もあります。そもそもここで描かれているのはバタフライエフェクトとは違う、という点と、悪い結果となったエピソードがどれもバイオレントで悪趣味であることが理由のようです。
ストーリー(あらすじ)
夢遊病で「サイレントヒル」という謎のことばを発する養女を持つ母が、サイレントヒルという街が実在することを知り夫の反対を無視して娘と共にそこへ行くが、事故で気を失っている間にいなくなった娘を探すうち、カルトの犠牲になった少女の呪いが作り上げた不気味でグロテスクな世界に迷い込む。
タイプ
現実と同時に存在する呪われたパラレルワールドに迷い込む
解説・感想
明確にパラレルワールドとは説明されていませんが、サイレントヒルの街で娘を探す母親は不気味でグロテスクな呪われた世界に迷い込み、その夫も全く同じ場所で妻と娘を探しますがお互いに見えず、違う空間に存在してしまっている表現となっています。
▶︎『サイレントヒル』についてはこちらの投稿もご覧ください。
ストーリー(あらすじ)
空に地球とそっくりな星が現れた世界で、天体に関心のある若い女が運転中その星を見上げて交通死亡事故を起こし、合格していたMIT入学を4年間の服役で無駄にする。出所後、その事故で生き残ったが家族を失った男の家へ行くが、素性を明かす勇気がなく清掃サービスと偽り通い始め、その後親密な関係になってしまう。第2の地球へ行くチャンスを得た時、彼に真実を打ち明ける。
タイプ
第2の地球というパラレルワールドの出現が、間接的や心理的に主人公の人生に影響する
解説・感想
空に地球とそっくりな星が現れたというSF的世界観ですが、映像的なSF映画っぽさはほとんどなく、VFXもわかる範囲では空に地球を合成している程度で、ストーリーは事故を起こして人生につまずいた若い女を主体に描いています。
パラレルワールドそのものを描いている訳ではなく、第2の地球が現れたことが、主人公の人生のつまずきに間接的に影響し、その後隠れるように人生をやり直そうとしている時にも、自分の人生に対する主人公の気持ちにさまざまな面で影響しています。
どういうことか分かりづらいと思いますので、内容を少し詳しく紹介します。
天体に関心があり、運転中、空に現れた地球に関してラジオで聞いて空を見上げ、交通死亡事故を起こし、合格していたMIT入学を4年間の服役で無駄にします。
出所後、人と話したくないために高校の清掃の仕事に就きます。
しばらく気になっていた第2の地球へ行けるコンテストに、「重犯罪の私には何のチャンスもない」「でもこの旅には私が最適かもしれない」として応募します。
自分の起こした事故で生き残ったが家族を失った男の情報を調べ家へ行きますが、素性を明かす勇気がなく清掃サービスと偽り、来週から頼むと言われ通い始め、その後親密な関係になってしまいます。
その間、専門機関による2つ目の地球とのコンタクトの様子がテレビ中継され、向こうに、コンタクトを担当した博士と同じ人物がいることが描かれます。
主人公も男も、第2の地球にいるもう一人の自分に思いを馳せます。
その後、第2の地球へ行くコンテストに主人公は選ばれます。
男に第2の地球へのコンテストに選ばれたことを伝え、行かないでくれと言われ、「話を聞いて。その後に行くなと言うなら行かないわ」と言い、やや遠回しに自分や事故のことを話します。
低予算の映画で、さりげない演出が特徴です。それぞれのシーンでは多くを語らずセリフも少なめで、登場人物が何かに気づいたことだけを描きリアクションを写さない場合も多く、それでも観客はそのキャラクターの心中を想像でき、物語が進んでいきます。
作られたドラマでなく普通のアメリカ人の生活を見ているようなさりげない描き方となっています。
通常の映画ではカメラの存在を感じさせないような撮り方をすると思いますが、この映画では、物陰から撮っているような撮り方や急なズームインもあります。この「盗撮」をしているような撮影方法も映画のトーンを作っていると感じます。
最後にパラレルワールドである第2の地球に関係するSFっぽい表現もありますが、ここでも極めてさりげない表現に留まり、SF的なスパイスといったところです。
ストーリー(あらすじ)
シカゴ行きの電車で自分ではない誰かとして目覚めた軍人の男が、電車の爆発と同時に今度は暗いカプセルで目覚め、その後、軍の特殊任務で爆弾テロの犯人を探しあてるために、爆破で亡くなった乗客の脳の機能と8分間の記憶を一体化したプログラムに自分の意識が送り込まれていると知る。失敗する度に何度も同じ電車内に意識が送り込まれる中、自分もすでに戦争の負傷で植物状態となっていることを知り動揺するが、ひどいことを言って別れたままになっている父親への気持ちを抱えつつ犯人に迫っていく。
タイプ
記憶を元にプログラムされた仮想世界がパラレルワールド化する
解説・感想
物語の中で、このプログラムの考案者であり作戦の責任者である博士は、「これはタイムトラベルではない」「平行世界(英語のセリフでは「パラレルリアリティ」)へのアクセスを可能にする」と言っています。つまり、爆破で亡くなった乗客の脳の機能と8分間の記憶を一体化したプログラムによって一種の仮想世界を作り、そこに意識を送り込むと、過去に起きたことの追体験だけでなく自分の意思で行動を選択してあたかもその世界で生きているように感じることができるプログラムということのようです。
博士の認識では、このプログラムが機能するには植物状態の主人公が生き続ける必要があるとされていましたが、主人公自身の体験によって、元の肉体の死後もこの世界は存在し、元の世界に影響を及ぼすパラレルワールドであることが示唆されます。
何度も失敗しつつ最後に無事犯人を割り出し電車の爆破を阻止したあと、主人公はまたそのパラレルワールドに意識を送ってもらい、もともと電車に乗っていた男として連れの女性と幸せに暮らすエンディングとなっています。
よく練られたストーリーと的確な演技で全く飽きさせないです。毎回8分間の間に犯人を探さなければいけないという緊張感がスリリングです。主人公の意識が入ってしまったあとパラレルワールドでのその男の自我はどうなったのかなど疑問点はありますが、面白い映画です。
ちなみに、現実を変えるためにタイムトラベルをして過去に干渉するストーリーの、ゲームを元にしたアニメなどのメディアミックス作品として有名な『STEINS;GATE』(シュタインズ・ゲート)(2009〜)では、主人公が主要ヒロイン牧瀬 紅莉栖(まきせくりす)をクリスティーナとも呼びますが、『ミッション8ミニッツ』(2011)の主要登場人物の女性の名前もクリスティーナです。
ストーリー(あらすじ)
エネルギーが枯渇する世界で、宇宙ステーションで新しいエネルギー装置の実験中に事故が起こり、奇妙でグロテスクなことが起き始め乗組員達が犠牲になる。
タイプ
エネルギー装置の起動実験の影響で、パラレルワールドが同じ空間を奪い合う
解説・感想
宇宙ステーションで新しいエネルギー装置を起動し、成功したかに見えるものの爆発し重力異常も起きます。壁の中から叫び声が聞こえてこじ開けてみると、ケーブル類が絡まり刺さった見知らぬ女を発見し、助けますが、彼女はこのチームの一員だといいます。
前後して様々な奇妙なことが起き、パラレルワールドが交差したことを知ったあるクルーは、「これがパラドックスだ。多元的な2つの異なる現実が、同じ空間を奪い合う」と発言します。
パラレルワールドというと、同時に存在する並行世界のためお互いに見えないとか、別の世界に「行く」と表現されることが多いかもしれませんが、ここでは「同じ空間を奪い合う」状態が描かれ、しかし、それをSF的に深堀りする訳ではなく設定として使い、その影響で起きる事柄をSFホラー的に描いています。
『クローバーフィールド』シリーズは、それぞれ続編ではなく同じ世界観を持つ舞台も登場人物も異なる別のストーリーです。しかし今作も最後に共通点が描かれます。同じ世界観を持つ展開はヒーローものや怪獣ものの映画で見られますが、クローバーフィールドシリーズがそれらと異なるのは、それぞれ直接的には接点のないストーリーがもっと大きなストーリーの一部であるかのように描かれている点です。
▶︎『クローバーフィールド』シリーズについてはこちらの投稿もご覧ください。
ストーリー(あらすじ)
ベンチャー事業を成功させようとしている4人の若者が、自分達の借りている家に隠し部屋を見つけパラレルワールドへつながる鏡を発見する。 パラレルワールドと時間の進み方が違うことに気づき、それを利用して契約キャンセルになりかかっていたアプリ開発に成功し、その後もパラレルワールドとの違いを利用してそれぞれの私利私欲で利用し始める。しかし1人がパラレルワールドで何者かに撃たれ死亡し、一方、リーダー格の男の裏での行動が暴走し、歯車が狂い始める。
タイプ
パラレルワールドへ行く方法を偶然見つけ、私利私欲で利用する
解説・感想
主人公達が調子に乗って自分達の欲望で様々なことにパラレルワールドを利用し、思わぬしっぺ返しを食らう様子が描かれ、パラレルワールドについては理屈的に曖昧にしている部分もあると思いますが、面白いストーリーです。
並行世界で30分過ごしても自分達の世界では10秒しか経たないことなどパラレルワールドと自分達の世界の違いや、パラレルワールドが文字通り複数あることを利用し、主人公達それぞれが自分の思惑と都合でパラレルワールドを利用します。裏で(他の仲間に相談せず、観客からも見えないところで)行動する者もいるため、物語がどう転がっていくかドキドキワクワクしながらテンポよく楽しく見られる映画です。(最後の方でグロテスクな表現があります)
シネマトグラフィが上質です。
おそらく熟練したステディカムオペレーターが撮影していると思われる、ダイナミックでありつつ安定したカメラの動きや非常に早いパンなど縦横無尽なカメラワークが秀逸です。微妙にカメラを回転させ、不安定な雰囲気を出すカメラワークも多様されています。
また、ただの家の中のシーンでもきちんと撮影用の照明を使っていると感じます。
SFファンタジー的な映画ですが目立ったVFXはなく、明らかな視覚効果は、手や身体を鏡に通す表現や別世界のガジェットなどの他はパラレルワールドを青っぽい色調にしている程度です。しかしカメラワークと照明で、映画の質が上がっていると思います。
ストーリー(あらすじ)
ゲームの制作チームリーダーの男の周囲が突然彼を知らない世界に変わり、謎の女の導きで、「世界」が交差する塔で検閲官として働くことになる。そこに、元の世界でフラれたが彼を知らなくなっている元恋人が連れの男と現れる。
タイプ
自分の生活している世界が突然、誰も自分を知らない世界に変わる。世界の交差する場所で生活をする。
解説・感想
パラレルワールドへ「行く」とかパラレルワールドで「目覚める」のではなく、自分の生活している世界が突然、知り合いや両親など周囲の人間たちが自分を知らず行政の記録にもない世界に変わり、その後「世界」の交差する塔に住みつつ働くことになります。
最初は「同僚や家族が自分を知らない世界に変わる」というシリアスなSFドラマの体で始まりますが、その後塔に行ってからはややファンタジー的世界観となります。サスペンスからいきなりファンタジーに変わる印象です。その後ホラー的な要素やメロドラマの要素も入ってきます。
主人公は平行世界に「慣れる必要がある」と言うものの、驚きや葛藤はほとんど描かれず何事もなかったかのように馴染んでしまいます。
そのためもあって、物語中の「世界」のあり様がわかりづらいです。
「周囲の人が自分を認識しなくなった世界」はある種の平行世界と言えると思いますが、そこは平行世界として描いているわけではなく、単に「周囲の人が自分を認識しなくなった」だけで、世界は元のままということかもしれません。
一方、主人公が住むことになった塔は「世界」の交差点で、ドアごとに異なる世界につながっています。雪の降る平行世界モスクワやリゾートのビーチなどです。リゾートのビーチもモスクワの別世界ということかもしれません。主人公の元の世界へも引き続きつながっています。
ストーリー中、役割を与えられた者だけがそうなのかもしれませんが、パラレルワールドに別の自分がいるわけではなく、自分は一人で世界が複数あるような描き方となっています。
塔は検閲所になっていますが、大勢利用するわけでなく特定の人しか利用しないようです。
物語の有り様もわかりづらいです。
周囲の人が自分を知らない世界に変わったサスペンスを描くストーリーではなく、塔で生活し、元の世界で振られた女を追いかける話がメインと言えるかもしれません。
しかし最後、ストーリーが終わらないまま映画が終わります。
引きのあるシーンは比較的多いのですが、淡々とエピソードが並んでいる印象です。
ストーリー(あらすじ)
自分勝手で、事故で妻と子供達を亡くした男が、大学の宇宙物理学部長だった初老の女性博士が作り上げたという時空を超える旅の入り口を使った実験に志願し自分の思い描く別の現実へ旅をするが、良いことも悪いことも起き、それらを体験する中で自分や物事の因果関係に向き合う。
タイプ
別の可能性世界としてのパラレルワールドへ行く
解説・感想
ストーリー中、初老の女性博士は、「これは過去を変えるタイムマシンじゃない」「あなたは別の世界に行ってるの」と説明しますが、同じ時間の並行世界へ行くのではなく、時間をさかのぼります。主人公は悪い出来事が起こらないようにその世界へ干渉することもありますので、タイムトラベルとしての側面があると思います。
博士の部屋のシーンで、時計の針のチクチクという音が聞こえるのが印象的です。
個人的に非常に気になったのが、そういう演出だとは思いますが、特に最初の2話くらいまで、妻と子供を亡くす前も後も、主人公の男が自己中心的で感情移入できませんでした。第1話第2話だけでも、第1話54分、第2話57分ありますので、自分勝手な主人公を映画一本分の時間(約2時間)以上見ることになります。
次のような点です。
冒頭、主人公は自分の仕事の都合で子供の送りを妻におしつけようとし、しかも、送るけれど私の車は調子が悪いからあなたの車をかしてと言われても、君の車を使えといい、夫婦げんかが続きます。
結果、妻が子どもたちを送るために調子の悪い車を使ったために、事故を起こし、死んでしまいます。
妻と子供を亡くした男を心配した兄弟が、自分の家に滞在するように誘いますが、断ります。
最初の時空を超える旅から戻ったあと、博士に、中で話しましょうと言われても立ち去ります。
しかし結局妻や子供に会いたいと思い夜中に博士のところへ行き、降りているシャッターをドンドンとたたき、その前に陣取っているホームレスにお金を渡してどかせます。
博士がようやくシャッターを開けると、第一声「なぜ開けなかった?」といいます。
別の世界(時間もさかのぼっている)へもう一度行き、いぶかしがる妻に、君を愛してる、一人では生きていけない、といい、一方的にキスします。
これを、そういうキャラクターとして受け入れられる観客であれば問題ないと思いますが、個人的には特に冒頭は全く楽しめませんでした。
ストーリー(あらすじ)
幼い頃に半ば自分のせいで母親を無くしメンタルヘルスの問題を抱える青年が、分岐型ゲーム開発のチャンスを得て自宅で作業を進めるが、自分が誰かにコントロールされているように感じ始める。
タイプ
映画の観客が選択肢を選んでいく分岐型パラレルストーリー
解説・感想
『バンダースナッチ』には大きな特徴があり、要所要所で観客が選択肢を選ぶ形式のインタラクティブ映画となっています。選択する内容によって映画の長さは変化すると思いますが、比較的長く1時間30分と記載されています。これを実現したのはかなり画期的ではないかと思います。一部のビデオゲームほどのストーリーの作り込みや深みはなく、実験的な作品といえるかもしれませんが、分岐は多岐にわたり、内容も十分に楽しめるものになっています。
分岐ポイントに戻って別の選択肢を選ぶこともでき、結果として、観客がパラレルワールドを体験することができます。
『バンダースナッチ』の選択肢の選び方
要所要所で画面下に黒帯が現れ、選択肢がテロップで示されます。パソコンで視聴する場合でもスマホで視聴する場合でも出ます。通常の選択肢は2つです。例えば、オファーを受ける、断る、といった選択肢です。観客はその選択肢が表示されているうちにどちらかをクリック又はタップする必要があります。選択肢が表示されている間は映像をストップできず、選択するための残り時間を示すバーが短くなっていきます。
選択しないと自動的に一つが選ばれます。
すぐに決めなければいけないこのしくみは登場人物になったかのような気持ちになります。
▶︎『バンダースナッチ』についてはこちらの投稿もご覧ください。
ストーリー(あらすじ)
マネージャーをしてくれている幼なじみの女からは認められているが、全く売れず活動をやめようとしているシンガーソングライターの男が、世界規模の停電の時事故にあい、目覚めるとビートルズが存在しなかった世界になっていることに気づく。ビートルズの曲を歌うと評判がよく徐々に注目され人気が大きくなっていく一方、幼なじみはもう彼とはいられないと感じ始める。
タイプ
ビートルズが存在しなかった世界で目覚める
楽しいコメディドラマ映画です。
主人公が平行世界へ移動したのか、周囲の世界が変わってしまったのか、停電と事故をきっかけにビートルズがいなかった世界になってしまいます。ストーリーを通して元の世界に戻ることなく、その世界で完結します。
ビートルズだけでなく、コカ・コーラ、シガレット(タバコ)、ロード・オブ・ザ・リングなどもなくなっています。
その世界では、元の世界でビートルズとなった人は存在するものの、ビートルズは存在していないようです。
主人公は事故後、周囲の人達がビートルズを知らないことに驚き、「ビートルズ」で検索しても「ジョン、ポール、ジョージ、リンゴ」で検索しても出ず、あるはずのビートルズのレコードもなくなっています。
今まで全く売れなかった主人公ですが、その世界でビートルズの曲を歌うと評判がよく徐々に注目され、彼自身というより曲の人気が大きくなって有名になっていく一方、マネージャーをしてくれていた幼なじみの女性はもう彼とはいられないと感じ始めます。主人公は状況に流される中でも彼女を大事に思っているのに愛を伝えられず、かなり女々しく冴えない男のままなのですが、そういう女々しさに観客としてはイライラしつつもどこか共感できる部分だと思います。
彼は、いつか盗作だと知れるのではないかと気が気ではありませんが、とうとうビートルズの曲だと知っているらしい人たちが現れ、しかしむしろビートルズの存在しなくなった世界で彼らの歌を残したことに感謝され、彼らからもらったメモを頼りにジョン・レノンに会いに行きます。
この世界でのジョンは船乗りをしてきた男で、78歳の今は海岸の家でのんびり余生を送っています。(実際のジョン・レノンは40歳で殺害された)
彼の存在と、幸せな人生だったという言葉に感銘を受けた主人公は、重大な決断をし、一歩を踏み出します。
ストーリー(あらすじ)
平行世界と接触する実験をしている学生グループのリーダー格の女子学生が自分達の起こした車接触事故の相手の車を確認しようとして巻き込まれ死亡するが、5ヶ月後のある日今まで通り学校に現れ、事故の後も彼らと毎日会っていたと言う。その後別世界の他のメンバー達も現れ、お互いに混乱しつつも1つの世界に2人同時には生きられないことに気づき、それぞれの方法で解決しようとする。
タイプ
平行世界と接触する実験に平行世界側が成功して「もう一人の自分」達がこちらの世界に来るが戻る方法がなく、1つの世界に2人同時には生きられないことに気づく。
SFスリラー調のストーリーです。
タイトルは『マルチバース』ですが内容はパレラルワールドを扱っていると思います。『Entangled』をタイトルとすることもあるようで、そのあたりが理由かもしれません。
平行世界と接触する実験をしている学生グループが湖のそばで車を走らせながら実験中車接触事故を起こし、リーダー格の女子学生が相手の車を確認しようとして巻き込まれ死亡しますが、5ヶ月後のある日今まで通り学校に現れ、事故の後も彼らと毎日会っていたと言います。
このストーリーでは、世界を移動した側も、周囲の状況はほぼ同じのため移動したことに最初は気づかず混乱を生みます(観客側も混乱しますがストーリーとしては面白くなります)。
自分の彼女が死んで悲しむ元ボーイフレンドに対し、メンバーの中のもう一人の女子学生がアプローチし、彼の心もなびき始めキスしているところに別世界のリーダー格の女子学生は現れ、裏切られたと思って顔をはたきます。向こうの世界ではその女子学生は死んでおらず、ボーイフレンドと今まで通り付き合っているからです。
その後別の世界の他のメンバー達も現れ、お互いに混乱しつつも、1つの世界に2人同時には生きられないことに気づき、それぞれの方法でその状況に対峙し解決しようとします。同じ人物でもこちらの世界と向こうの世界で性格が異なりサイコパスな性格の者もおり、対峙の方法も異なります。
それぞれの役者が、性格の違う一人二役をする様子も見どころです。
最後、理屈は説明されておらず演出上曖昧にしていますが、時間もずれてループする様子が描かれ、不条理バッドエンドとなっています。
演技力のせいか全体的な演出力のせいか、「今ひとつ感」はあるものの、面白いストーリーです。
「水」が1つの要素となっている本編から発想された、水と光をモチーフにし、シンメトリーをテーマとしたタイトルバックの映像が美しいです。
ストーリー(あらすじ)
コインランドリーを営み税務申告や家族に対する気持ちに問題を抱える中国系の女が、夫や車椅子の父親と共に「国税庁」で聴取を受けた時に、夫から僕は君の夫ではなく別の宇宙から君に助けを求めに来たと言われ、パラレルワールドを行き来しながら「強大な悪」と戦う中で、自分がいるべき人生の可能性に翻弄される。
タイプ
日常の生活の中で突然パラレルワールドを行ったり来たりして戦う羽目になる
解説・感想
コインランドリーを営む中国系の女が「国税庁」で職員の聴取を受けている同じ時、一緒に来ていた夫は彼女の意識を同じフロアの反対側にある用具室へ引張り、僕は君の夫じゃない、別の宇宙で別の人生を歩んでいる、君に助けを求めに来たと言います。
別の世界から来たという「設定」だけでなく、主人公の意識が国税庁の担当職員の前と用具室とで行き来した後も実際にパラレルワールドを行き来する様子が映像として描かれます。別世界の夫が戦闘の指揮をしたりこちら側の世界と通信する様子も描かれ、国税庁の職員もキャラクターが変わり、主人公の女は状況を飲み込めない中、戦いに巻き込まれます。また、別世界の自分が殺されたことも聞かされます。父親もキャラクターが変わり、娘もキャラクターが変わり、主人公は別の世界線の自分を体験し、パラレルワールドの行き来はエスカレートしていきます。
パラレルワールドを行ったり来たりする様子を実際に映像として描き、それをSFコメディ風アクションにする演出は野心的ですが、舞台設定が荒唐無稽でプロダクションデザインや世界観のチープさも相まって、良くも悪くもキッチュです。
国税庁で聴取されているときに戦いを始める必要は感じられず、その「戦い」もカンフー風のアクションや攻撃された者が長い廊下を吹き飛ぶような演出が主体で、そもそもアジア系の中年男女の主人公達がその中二病的SFコメディ風アクションをすることにちぐはぐ感があります。さらに、「奇妙」なことをするとパワーが出るという設定や、指がソーセージのように太い世界線、主人公と娘が隣どおしの岩となっている世界線など、キッチュな映像演出が目白押しです。
個人的にはあまり好みの映画ではありませんでしたが、「キッチュな世界観を大真面目に作った映画」が好きな人にはささるかもしれません。最後は家族のドラマに着地します。
ストーリー(あらすじ)
強力な魔術師だが心に寂しさを抱える男が、並行世界を渡る能力があるために怪物に追われる少女を助け、平行世界には存在する息子たちと暮らすためにその能力を奪おうとしている黒幕の魔女と戦う。
タイプ
平行世界を行き来しながら戦う魔術ファンタジー
解説・感想
ある程度「マーベル・シネマティック・ユニバース」の世界観や前作『ドクター・ストレンジ』(2016)の内容を知っている方がより理解しやすいのだろうと思います。
主人公は以前天才外科医でしたが事故でその能力を失い、荒んだ結果恋人とも別れ、その後魔術の世界を目の当たりにし、修行の末強力な魔術師になった男です。
今作では、並行世界を渡る能力があるために怪物に追われる少女を助け、別れた後も友人同士である元恋人が結婚して心に寂しさを抱えつつ、並行世界で最強の敵を倒すために闇落ちした自分とも対峙しながら、魔女と戦います。
この作品中では並行世界は「マルチバース」と表現されています。
魔女は、邪魔する者をなりふり構わず強力な魔術で倒していくほどの力がありますが、別の世界には存在する息子たちと暮らすために、並行世界を渡る能力を持つ少女からその能力を奪おうとしています。
強力な魔女にしてはパーソナルなモチベーションでちぐはぐ感がありますが、あまり細部に頭を使わず、VFXによる魔法の表現のスペクタクルを楽しむ映画だと思います。
カラフルなVFXによる数々の魔法の表現が特徴的な映画で、屋内の空間が万華鏡のように組み替えられていく様子、少女と共に多数の並行世界をくぐっていく色鮮やかな表現など、VFXならではの表現が目白押しで美しいです。
演技派のベネディクト・カンバーバッチがこのような映画に出るのは意外な印象がしますが、やや上から目線で力強く行動力もあるキャラクターにはマッチしていると思います。演技の確かな役者でないとほんとうに視覚処理だけの映画になってしまうのかもしれません。
タイムトラベル要素のあるストーリーが「パラレルワールド」を扱っていると言えるか判断が難しい場合もあります。以下に、私なりの基準で「パラレルワールドを扱っている」に含めなかった映画も紹介しておきます。
ストーリー(あらすじ)
喧嘩っ早い青年が、宇宙艦隊大佐に勧められてアカデミーに入り、その後緊急救助要請に向かう宇宙艦隊に謹慎中に潜り込むが、かつて自分の父の艦隊を攻撃し父が殉職した巨大宇宙艦が現れ、救助艦隊の副長の男と対立し時に船外に追放されながらも力を発揮していく。
解説・感想
ストーリー世界の129年後のスポックが、ある星の爆発に巻き込まれる危険からロミュラン星を救うことに失敗し、母星が助けられなかったことを根に持ち復讐しようとするロミュラン人ネロの宇宙船とともにミッションの途上ブラックホールに落ち、過去にタイムトラベルしたことが語られます。
ネロの行動で物事の流れが変わっており、129年後のスポックの世界では主人公カークの父が生きていることも語られます。
設定上の矛盾があり、その後脚本家のアレックス・カーツマンとロベルト・オーチーが、「本作はこれまでの作品の直接の過去の出来事ではなく、並行世界での出来事である」と解説したようです。(ウィキペディアより)
ストーリー中でも「alternate reality」という表現が使われていますが、タイムトラベルした者が物事に干渉して「歴史の流れが変わった」と言っているに過ぎず、映画ストーリーとしてパラレルワールドを描いているとは言えないように思います。
ストーリー(あらすじ)
核を上回る脅威を防ぐ国家を超えた任務に選ばれた男が、危険の中裏の人脈を切り開きながら、自分も殺されかけた「時間を逆行する兵器」に迫り、武器商人の男が分割されて隠されているそれを集めて世界を終わらせようとしているのを阻止しようとする。
解説・感想
このストーリーがパラレルワールド・平行世界を扱っていると言えるのか、かなり解釈と判断が難しいです。以下、私が理解している範囲での解釈となります。
主人公は時に時間を逆行しながら、ストーリー中で「アルゴリズム」と呼ばれる時間を逆行させる兵器の起動を阻止します。しかし、「アルゴリズム」が起動するためにはどういうプロセスが必要なのかはストーリー中では明確には説明されておらず、後半の時間の挟み撃ちのシーンで「アルゴリズム」がどういう状態なのかもはっきりとは描かれていないため、「起動を阻止した」というより「奪還した」と言う方が差し当たりは正確かもしれません。
物語のざっくりした構造としては過去に干渉して世界を救ったと言えますが、映画の最初(時間をさかのぼる前)で世界は消滅しておらず、ストーリーを通して時間の流れをトレースしただけとも言えます。
しかし時間軸が1本なら、武器商人セイターが未来人からのコンタクトを受けて集めたアルゴリズムを奪還されて殺されてしまったことを未来人は知っているはずで、ストーリーの前提が成り立たなくなります。パラドックスですね。
もしかしたら世界を消滅させようとしていたセイターがいる世界から殺されている世界へシフトしたということかもしれませんが、少なくともパラレルワールド・平行世界を描くことがストーリーの中心ではありませんので、「パラレルワールドを描いた作品リスト」には入れませんでした。