一つの場所に閉じ込められた緊張感のある物語が展開する密室劇や、ほとんど場面が変わらないにもかかわらず魅力的なストーリーが繰り広げられる映画が数多く存在します。脚本、演出、演技力が特に問われるジャンルです。
網羅はできていないと思いますが、密室劇や場面がほとんど変わらない映画をリストアップしました。
ほぼ一つの場所で会話が主体のもの、ある程度のアクションが含まれるもの、密室ではあるが基本的な会話の相手は電話越しのもの、場面はほとんど変わらないが屋内と屋外が含まれ登場人物も多いものなど、やや広めにピックアップしてあります。リストの全てを見たわけではなく、認識が間違っているものもあるかもしれません。
密室劇というとミステリやサスペンスのイメージがありますが、そうではないものも含まれます。
ストーリー(あらすじ)
足のケガでずっと家から出られないカメラマンの男が、金持ちで美人のガールフレンドはそっちのけで窓から隣家の様子を観察しているうち、向かいのケンカがちだった夫婦の病気の妻がある日いなくなり、夫の行動も不審に感じ、殺人だと思って周りの人を巻き込み真相をあばこうとする。
日本ではあまり見かけないようにも思いますが、アメリカでは複数のアパートが中庭を囲んで建てられていることがあります。ニューヨークのマンハッタンを舞台にしたこのストーリーでも、主人公は3階くらいに住んでおり、中庭を取り囲むアパートの開いた窓から見えるそれぞれの住人達の様子を中庭越しに観察します。
主人公はケガをしており家から出られず、ストーリーは基本的に彼の部屋だけで進行します。映像から間取りは分かりづらいですが日本でいうところの広めのワンルームではないかと思います。彼は近隣のアパートの様子を窓から眺めるだけでなく双眼鏡やカメラの望遠レンズを使って覗き、後半ガールフレンドや通いの看護師が中庭や相手のアパートに調べに行く様子も同様に観察し、映画の観客も家から出られない彼の視点でそれらを見守ります。
話の展開に合わせ最後だけ中庭のシーンがあります。
▶︎映画『裏窓』の感想と、ラストの考察から見える事件の真相についてはこちらの投稿をご覧ください。
ストーリー(あらすじ)
父親殺しで起訴された少年の事件を12人の陪審員が審議し、最初11人の意見が有罪で一致するが1人は根拠が確かではないと主張して議論することになり、有罪とする根拠の曖昧さや先入観が徐々に明らかになっていく。
最初に裁判所の外観と内部のホールや廊下が映されたあと法廷の短いシーンがあり、最後も建物から出るシーンがある他は、隣接されるトイレ以外はすべて陪審員室での議論という特殊なシチュエーションの映画ですが、全く飽きさせません。
顔のアップを多様しているのが特徴となっているほか、カメラワークも工夫され、一人ひとり立ち上がったり窓から外を見たりといった変化が効果的に使われています。舞台の芝居に通じるものがあると思います。実際、舞台劇としても人気のある演目のようです。
「有罪11対無罪1だった意見が、最後は全員が無罪の意見になる」までの過程を描き、その脚本や芝居が評価されているフィクションですので、ストーリー世界で事件の真実がどうだったのかを想像するのは意味がないと思いますし想像させるような演出はされていませんが、最初ほとんどの陪審員があまり深く考えずに有罪と考えていたことが危険であった反面、11対1だった意見が最後全員無罪の意見になる様子は怖くもあります。
メインの舞台となっている屋敷のさまざまな部屋のシーンがあるほか庭のシーンもあるため、狭い意味では「密室劇・場面がほとんど変わらない映画」とは言えないかもしれませんが、ストーリーのほとんどは屋敷内という閉ざされた空間での心理的な駆け引きとなっています。
『十二人の怒れる男』(1957)へのオマージュ作品。
『救命艇』(1944)の舞台を宇宙に置き換えたリメイク作品。
オリジナルと同じ脚本でリメイクされたテレビ映画。原題はオリジナルと同じ。
ストーリー(あらすじ)
一辺4.2mの狭い部屋で目覚めた素性も年齢もバラバラな数人の男女が、前後左右上下に続く同様の部屋から死のトラップが仕掛けられている部屋を見極め避けながら移動し脱出しようとするが、極限状態の中で徐々に険悪になっていく。
各部屋は壁に施された淡く発光するグラフィカルなパターンの色が異なるのみです。部屋を移動していきますが、外壁も一辺が130mという設定ですので全体が一種の密室となっています。
英語版ウィキペディアによると、『トワイライト・ゾーン』テレビシリーズのエピソード”Five Characters in Search of an Exit”(1961年12月22日に初放送-日本語タイトル『奇妙な奈落』)やアルフレッド・ヒッチコックの『救命艇』(1944)がストーリーのインスピレーションになったとのことです。
映画制作上、セットとして実際に作られた部屋は基本的に1つだけで、撮影時に色を変えることであたかもたくさんの部屋があるかのように、そして実際に部屋を移動しているように見せています。映像マジックですね。
引きのショットでは広角レンズを使っていると思われ、やや広めに見えますが、ストーリー中では一辺4.2mと表現されており狭い部屋です。部屋のグラフィカルなパターンやスライド式のハッチの構造、トラップのVFXなどによって映像的にリッチに見えます。
『キューブ』(1997)の続編です。
『探偵<スルース>』(1972)の再映画化作品です。『探偵<スルース>』では、著名なミステリー作家の屋敷に呼びつけられた作家の妻の不倫相手役を演じたマイケル・ケインが、『スルース』(2007)ではミステリー作家側を演じています。
ロシアに舞台を置き換えた『十二人の怒れる男』(1957)のリメイク作品。
ストーリー(あらすじ)
イラクで仕事中襲われ木の棺に入れられて地中に埋められたアメリカ人の男が、ライターの明かりと携帯電話を頼りにアメリカの知人や会社や公的機関に助けを求めるが状況は悪く焦る中、犯人から電話で身代金を要求される。
全編地中に埋められた狭い棺の中が舞台で、電話の相手の声以外は登場人物が一人という究極の密室劇です。主人公の動揺、焦り、苛立ち、諦め、希望、絶望がストーリーを牽引しています。
日本では『エグザム』(2009)の続編又はパロディのようなタイトルとポスターデザインにしていますが、関係ないようです。『エグザム』(2009)の原題は”Exam”なのに対し『エグザム:ファイナルアンサー』(2013)の原題は”The Employer”です。
ストーリー(あらすじ)
中央以外真っ暗な部屋で、円形に配置された直径40cmくらいの赤い円に立ったまま目覚めた50人の人々が、円から出ると電撃で殺され、また、2分おきに電撃が走り誰かが殺されていくが誰にするかは自分達の手の動きで投票をしていることが分かり、次に誰が死ぬべきか誰が生き残るべきかどうすべきか、否応なく判断と行動を迫られる。
緊張感があり目が離せません。実際にそういう状況になったらこの映画のように混乱したり、自己中心的になったりすると思われます。映画感は希薄で、こういうことが起きた状況を見ている感じです。
ストーリー(あらすじ)
運転していた車が交通事故を起こし見知らぬ地下シェルターで繋がれた状態で目覚めた女が、そこの住人の初老の男に、外は何者かに攻撃され有毒物質で汚染されているから出ては駄目だと言われるが疑問を抱き、なんとか逃げようとする。
映画『クローバーフィールド/HAKAISHA』の通常の続編ではなく共通の世界観を持つ作品とのことです。前作ではマンハッタンの比較的広い範囲が舞台でしたが、今回は最初と最後に屋外のシーンがあるものの、ほぼ地下シェルター内での緊迫したやりとりが主体となっています。
SFサスペンスの世界観の中できっちり「密室劇」になっているのが見どころです。前作とストーリー上の直接のつながりはないようですが、日常の生活に前触れなく突然非日常の世界が持ち込まれ、パニックになる様子は共通していると思います。前作は動的なパニック、今作は静的なパニックです。
▶︎『クローバーフィールド』シリーズについてはこちらの投稿をご覧ください。
ストーリー(あらすじ)
エネルギー問題で緊張する世界で、無限のエネルギーを生みだす機械を開発した男がそのパートナーの女と寝ている時、覆面の3人組に襲われ殺されるたびに同じ場面を繰り返し体験しその機械がタイムループを引き起こしているとわかるが、機械を停止しタイムループを止めると殺されたら終わってしまうため、少しずつ行動を変えながらその状況を脱しようとする。
感想 解説
何度も死んで同じ場面を繰り返す中で、少しずつ明らかになる事柄で行動や判断を変えつつ、その状況から脱しようとするストーリーです。
限られたロケーションですが、緊張感のある展開で、逆に言うと、限られたロケーションでほぼ同じ場面を繰り返し、大きな場面展開がない中で緊張感が続くので、途中は飽きてきます。それでも銃を持つ3人組との対峙、相手に気づかれないように物陰に隠れながらの行動、タイムループを引き起こしている機械をどうするかの意見の対立、アクションなど、面白く見ることができました。
▶︎『ARQ: 時の牢獄』はループもの映画リストにも入れてあります。こちらの投稿をご覧ください。
ストーリー(あらすじ)
警察の緊急ダイヤルのオペレーター業務をしている男が、車の中で夫に脅されている女からの電話を受け、司令室に警察車両を依頼する一方女の家に電話して幼い娘と話したり夫の電話を調べ電話をするなど職務を超えて深入りし、逆に状況が悪化しかけてしまう。
場面は基本的に緊急ダイヤルの電話室及びその隣の部屋だけです。状況が徐々に明らかになっていく中で電話だけで事件を解決しようとする様子を描く野心的な内容で緊迫感のあるストーリーですが、緊急ダイヤルのオペレーターとして事件に深入りしすぎており、そこが話の根幹(キモ)ではありますが、個人的にはリアリティがなく感じてしまいます。
主人公は正義感からこの不可能と思えることに取り組みますが、自分の読みが間違っているかもしれないとは全く考えておらず、電話をかけてきた女やその娘や警察官などに対してかなり強引に指示を出しており、むしろサイコパスな印象さえします。
最後以外に音楽がなく、場面として出てくるのは緊急ダイヤルの電話室及びその隣の部屋や廊下だけでそれぞれ静かなため、聞こえるのは主人公の話す声と電話をかけてきた相手の声やその周囲の音、主人公が時折まわりのオペレーターと話す声だけです。
間(ま)が多いのも特徴で、撮影時に役者がキャラクターになりきっていないと、セリフが終わったあとカットがかかる前に役者が勝手に芝居を終わらせてしまいそうな間の長さです。
ストーリー(あらすじ)
天井と床の中央に四角い穴の開いた牢獄のような部屋が上下に200層以上連なる48層で目覚めた男が、食べ物の乗った台が降りてきて上の人たちの食べ残ししか食べられない中で、生き延び、秩序を作ろうとするが、争いも起き様々な状況に向き合う。
映画冒頭などに、料理を作っている厨房の様子が描かれたりこの施設に入る時の面談の様子が回想として描かれますが、基本的に牢獄のような各部屋が舞台です。
2018年のデンマークのスリラー映画『THE GUILTY/ギルティ』のハリウッド・リメイクです。
『キューブ』(1997)のリメイク作品です。