影響力のある映画デザイナー6選(工業デザイン、クリーチャー、UI/モーションデザイン、タイトルバック)

影響力のある映画デザイナー6選(工業デザイン、クリーチャーデザイン、UI/モーションデザイン、タイトルバック)

影響力のある映画デザイナーについて書こうと思います。ほとんどが有名な人です。

ジャンルとしてはやや広めに、工業(プロダクト)デザイン、クリーチャーデザイン、UIデザイン/モニターグラフィックス、タイトルバックの分野です。

映画デザイナーとしましたが映画専門ではない人がほとんどで、映画制作上の役職である「プロダクションデザイナー」という切り口ではなく、「特徴のあるクリエーターが映画制作に参加している例」「映画のデザインで突出したクリエーター」というニュアンスです。

プロダクションデザイナー

ある程度以上の規模の映画制作ではプロダクションデザイナーがおり、セットや小道具を「デザイン」したり、実際に「デザイン」しなくても、関係する役割の人と連絡を取りながらセットや小道具などの見た目を統括します(カメラや照明はディレクターオブフォトグラフィーが統括します)。基本的には裏方ですので、スタッフロールやメイキング映像以外では表に名前が出ることは少ないと思います。

▶アメリカの映画制作の役職と仕事内容についてはこちらの投稿をご覧ください

影響力のある映画デザイナー
 

シド・ミード(アメリカ)1933〜2019

ジャンル:工業(プロダクト)デザイン

シド・ミード ウエブサイト
https://sydmead.com/

出身学校:アートセンター・スクール(アートセンターカレッジオブデザイン)(アメリカ、カリフォルニア州パサデナ)

自らを「ビジュアル・フューチャリスト」と称しています。

アメリカの自動車メーカー、フォードでのコンセプトカーのデザインからキャリアをスタートし、インダストリアルデザイナー、イラストレーターとして活躍、映画『ブレードランナー』(1982)の乗り物や都市のデザインで有名です。デザイン、映像、クリエーション分野の人で知らない人はいないのではないかと思います。

映画『トロン』(1982)のデザイナーでもあります。『トロン: レガシー』(2010)に受け継がれたライトサイクルの特徴的なデザインも、シド・ミードのデザインが元になっています。

圧倒的な画力で、作品集をいくつも出しています。『ブレードランナー』の監督のリドリー・スコットは、画集『SENTINEL』(1979年出版)を見て依頼したようです(出典:ウィキペディア)。未来的でスタイリッシュなデザインを特徴としていますが、本人が意図しているのか分かりませんが、レトロフューチャーなイメージがあります。

デザイン(見た目のスタイリング)の主流は変化していき、一般的に昔のデザインは年月が立つと古く感じる傾向がありますので、シド・ミードのデザインがレトロに感じるのは、活動時期の影響かもしれません。

それでも彼の作品はその後のクリエーターに多くの影響を与えたと思います。

その他、多数の映画に参加しています。以下はその一部です。

『2010年』(1984)
『エイリアン2』(1986)
『ストレンジ・デイズ』(1995)
『ステルス』(2005デザイン提案)
『M:I-2』(2000)
『エリジウム』(2013)

日本の作品にも起用されています。

『YAMATO2520』(OVA)(1995-1996)
『∀ガンダム』(1999-2000)

H・R・ギーガー(スイス)1940〜2014

ジャンル:クリーチャーデザイン、工業(プロダクト)デザイン

H・R・ギーガー ウエブサイト
http://hrgiger.com/

出身学校:School of Applied Arts(スイス、チューリッヒ)

「School of Applied Arts」は上記ギーガーウエブサイト中での英語表記です。ドイツ語での表記は「Kunstgewerbeschule in Zürich」のようです(出典:Wikipedia)。「Zürich」はチューリッヒですので、学校名に含まれていたかどうか不明です。また、その後改名されたようです。

ギーガーは映画『エイリアン』(1979)のエイリアンそのものやエイリアンの難破宇宙船のデザインで有名になりましたが、元々画家・美術家で、『エイリアン』以前から彼の画集は異彩を放っていました。映画『エイリアン』の企画の出発点である脚本家のダン・オバノンは、失敗した『デューン』のプロジェクトで知り合ったギーガーの作品にもインスパイアされ『エイリアン』の元となった脚本を書き始めたとのことです(出典:Wikipedia)。そして監督がリドリー・スコットに決まった後、彼に画集『Necronomicon』(1977年出版)を見せ、起用につながったようです。(メイキング映像のリドリー・スコットのインタビューより)

性的で有機的な要素と、機械や建築を連想させる要素が融合した唯一無二のスタイルを持つ画家、アーティストだと思います。

映画『エイリアン』をエポックメイキングな映画たらしめているのは、監督のリドリー・スコットの手腕だけでなく、ギーガーの功績が非常に大きいと思います。

昔、日本で展覧会が開かれた時に見に行きました。ただ展示するだけでなく販売もしていましたが、版画だったかもしれません。本人も会場にいたと記憶しています。

ギーガー以降、意図的にせよ偶然にせよ似た絵柄を描く作家がいる中、ギーガーの作風は際立っています。「影響力」としましたが、映画『エイリアン』シリーズはギーガーのデザインありきであり、似た(影響を受けた)絵を描いてもギーガーの真似、亜流とみなされてしまうため、やはりギーガーは唯一無二だと思います。

『エイリアン』の世界観のイメージが特徴的で強烈であるためか、他の映画にはあまり参加していませんが、『スピーシーズ 種の起源』1995でも起用されています。

カイル・クーパー(アメリカ)1962〜

ジャンル:タイトルバック

プロローグ ウエブサイト
https://prologue.com/

出身学校:イェール大学

タイトルバックとは、映画やテレビドラマなどの映像作品において、オープニングタイトル映像など、タイトルの題字や役者やスタッフのクレジットが入っている部分のことです。

カイル・クーパーは映画のタイトルバック映像などを制作するモーション・グラフィック・デザイナーです。主に1990年代以降一斉を風靡しました。非常に多くの映画に関わっています。Imaginary Forcesという会社を共同設立して会社名も有名でしたが、その後、経営よりもクリエイティブな仕事に集中するためImaginary Forcesから退き、Prologue Filmsを設立して少人数のチームで活躍しています。(出典:Wikipedia

雑誌design plex1998年07月号でも紹介され、表紙にもなっていました。design plex1998年07月号表紙

「モーショングラフィックス」という表現は様々なものを表しますが、大きく2つあると思います。

1つはダイアグラムや解説図に動きをつけたものを表し、もう1つは文字通り動きのあるグラフィック(グラフィック全般)を表します。カイル・クーパーの手掛ける「モーショングラフィック」は後者です。

カイル・クーパーのタイトルバックは、映像素材、写真素材、文字素材を動きもつけながらセンスよく配置して合成し、観客のイマジネーションとこれから見る映画への期待をかきたて、特に1990年代には目新しく非常にスタイリッシュに感じられました。

個人的に、映画『D.N.A./ドクター・モローの島』を見に行った時、普通に映画が始まるんだろうと思って見始めると、いきなりオープニングのタイトルバックで遺伝子や細胞をイメージさせる映像のコラージュの上に一部が極端に尖って変形した文字がうごめき、そのイマジネーションとかっこよさに驚いたことをよく覚えています。

(YouTubeでこの映像を上げている人がいますが、音楽は別の音楽に変えているようです。また、後ろが切れています。)

参加作品のごく一部

『セブン』 Se7en(1995年)
『ミッション:インポッシブル』 Mission: Impossible(1996年)
『D.N.A./ドクター・モローの島』 The Island of Dr. Moreau(1996年)
『ミミック』 Mimic(1997年)
『交渉人』 The Negotiator(1998年)
『ハムナプトラ/失われた砂漠の都』 The Mummy(1999年)
『スパイダーマン』 Spider-Man(2002年)
『スパイダーマン2』 Spider-Man 2(2004年)
『スパイダーマン3』 Spider-Man 3(2007年)
『アイアンマン』 Iron Man (2008年)
『シャーロック・ホームズ』 Sherlock Holmes (2009年)
『アイアンマン2 Iron Man 2』 (2010年)
『トロン: レガシー Tron: Legacy』 (2010年)
『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』 X-Men: First Class (2011年)
『トータル・リコール』 Total Recall (2012年)
『アイアンマン3』 Iron Man 3 (2013年)
『GODZILLA ゴジラ』 Godzilla (2014年)
『スター・トレック BEYOND』 Star Trek Beyond (2016年)
『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』 Rogue One: A Star Wars Story (2016年)

ネヴィル・ペイジ(イギリス系アメリカ人)1964 or 1965〜

ジャンル:クリーチャーデザイン

ネヴィル・ペイジ ウエブサイト
https://www.nevillepage.me/

出身学校:アートセンターカレッジオブデザイン(アメリカ、カリフォルニア州パサデナ)

映画『クローバーフィールド』(2008)のクリーチャー(怪獣)のデザイナーです。

映画やゲームなどの映像作品のためにクリーチャーデザインを志向する人も多いと思います。「コンセプトデザイン」というとき、シド・ミードの時代には主に背景の都市や乗り物や工業製品をイメージしましたが、クリーチャーのデザインも含まれるようになってきたのはおそらくゲームが普及してからで、その後発展してきた分野ではないかと思います。

映画におけるクリーチャー、大型の怪獣などは、『エイリアン』を除けば、ゴジラなどの古いキャラクターや原作のゲームに出てくるクリーチャーを映像化したものが多い中で(ゴジラも元はオリジナルですが)、クローバーフィールドの怪獣はプロデューサーの J. J. エイブラムスから依頼を受けたネヴィル・ペイジがデザインしています。(出典:Wikipedia

こちらのサイトでハズブロから出ているフィギュアが紹介されています。
https://muuseo.com/tetulegozin/items/38

他の参加作品
『スター・トレック』(2009)
『アバター』(2009)
『トロン・レガシー』(2010)

▶︎映画『クローバーフィールド』シリーズについてはこちらの投稿もご覧ください。

ダニエル・サイモン(ドイツ)1975〜

ジャンル:工業(プロダクト)デザイン

COSMIC MOTORS 公式ブログ
https://cosmic-motors.blogspot.com/

ダニエル・サイモン プライベートサイト
https://danielsimon.com/

出身学校:プフォルツハイム大学(ドイツ、バーデン=ヴュルテンベルク州プフォルツハイム)

『トロン: レガシー』(2010)のライトサイクルのリ・デザインを手掛けています。初代『トロン』(1982)のライトサイクルのデザインはシド・ミードで、それをアレンジしたものです。

映画『オブリビオン』(2013)のバブルシップ(球体の操縦席を持つ飛行する乗り物)もデザインしています。

『トロン: レガシー』や『オブリビオン』以前から、彼の作品集『COSMIC MOTORS』(2007)は目を引いていました。

映画中でバブルシップは、CGだけでなく実物大のものが作られています。
『オブリビオン』のメイキング映像には、主演のトムクルーズが、完成間近のバブルシップを見に来て感銘を受けている様子が映されています。

当投稿のテーマから離れますが、『オブリビオン』はバーチャルプロダクション(環境プロジェクション)の先駆けの一つと言えると思います。

一般的に、実写素材(人物など)を別録りの背景映像やCGによる背景映像に合成する場合は、ブルースクリーン(ブルーバック)やグリーンスクリーン(グリーンバック)を使うことが多いと思いますが、実写素材(人物など)の撮影時の背後あるいは周囲に大きなスクリーンを設置し、そこに背景となる映像やCGを投影させた状態で撮影する手法が「バーチャルプロダクション」です。

さかのぼると、背景に投影して撮影する手法は昔使われていた手法ですので、そこからスクリーンが大型高精細化し、投影する内容の自由度も増し、高度化したものと言えるかもしれません。

ブルースクリーンやグリーンスクリーンを使う方法の場合、背景に合成するものとアングルやカメラ焦点距離などを(見た目であれ)合わせる必要があり、被写体にその青や緑の色が反射するため合成時にその部分の色を補正したり、合成する背景の光などになじませる作業が必要になります。

バーチャルプロダクションの場合は撮影時に背景があるため、役者がシーンの状況を理解し演技に反映させやすく、背景の光が被写体(人物など)に反射し自然な映像となり合成の必要がないため、近年増えてきている手法だと思います。

『オブリビオン』は建築のバックグラウンドを持つ監督の美意識が投影され、次のGMUNKのインターフェースデザインも含め、ビジュアル的に特筆すべき映画だと思いますが、もう10年以上も前(2013年公開)なんですね。時間の立つのは早いです。

GMUNK(アメリカ)

ジャンル:UI/モーションデザイン、デジタルアート

GMUNK ウエブサイト
https://gmunk.com/

GMUNKは『トロン: レガシー』(2010)のバーチャル空間のデザインや映画『オブリビオン』(2013)のインターフェース(モニターグラフィックス)をデザインしています。

『オブリビオン』は、ダニエルサイモンのバブルシップだけでなく、インターフェースデザインも際立っていました。

いくつかのパターンで使われています。
・テーブル状のコンソールに様々なアイコンやグラフが表示されるインターフェース
・バブルシップの前面ウインドウに表示されるメーター類

SF映画では空中に投影される映像やインターフェースが表現されることが多いですが、「オブリビオン」のテーブル状コンソールでは、CGのはめ込み合成ではなく実際にモニターに映して撮影したようです。それにより、極めて現実感のある映像となっています。

2000年代〜2010年代は、映画におけるインターフェースデザインがどんどん洗練されましたが、GMUNKはその代表格の一つだと思います。

ウインドウズ10のスクリーンのデザインも手掛けています。