映画「アバター ウェイ・オブ・ウォーター」(Avatar: The Way of Water)を、TOHOシネマズ新宿のスクリーン10、IMAX レーザー3D、HFRの上映で見ました。
シンプルなストーリーと、高度な映像表現が特徴だと思います。ここでは映像について大きく以下の2点を書こうと思います。映画の内容には基本的には触れません。
●IMAX レーザー3D、HFRによる、旧来の「映画っぽさ」の呪縛から解き放たれた映像表現
●澄んだ海の中も水上も縦横無尽に舞台とする、CGによる高度な水の表現
旧来の「映画っぽさ」の呪縛から解き放たれた映像表現
映画撮影の主流がフィルムからデジタルになってだいぶ経ちますが、未だにフィルムによる映像のルックに似せることで「映画っぽさ」を出そうとする映画制作者は多いと思います。
フィルムにならって24FPS(24フレーム/秒)で撮影編集するのがスタンダードになっているほか、旧来の映画の画面のアスペクト比(縦横比)を踏襲するとか、カラーコレクションや粒子を加えたりしてフィルムっぽさを出そうとすることは一般的です。
今回の「アバター ウェイ・オブ・ウォーター」は3D立体視であるだけでなくそこからさらに進み、そういった旧来の「映画っぽさ」の呪縛から解き放たれた映画と言えるかもしれません。
いくつかのポイントがあります。
3DCGで作られた世界は、それが独創的で精緻に作られていればいるほど立体視で見るのが楽しいものです。作りものであるはずの世界に自分がいるかのように感じられ、その世界を堪能することができます。
「アバター ウェイ・オブ・ウォーター」もまさにそういった映画だと思います。惑星パンドラの森や海と、そこに棲息する風変わりな植物や生き物達、異星の原住民であるナヴィがCGで描かれ、自然と共生する彼らの生活や、ごつい近代兵器を使う人間との戦いの様子を自分がその空間にいるかのように体験できます。
IMAXの大画面にプラスしてIMAXレーザーならではのシャープで明るい映像は、CGで作られた3D立体視による表現に役立っていると感じます。高精細でクリアな印象となっています。
TOHOシネマズのIMAXレーザーほかIMAXを紹介するページ
https://www.tohotheater.jp/service/imax/#laserAbout
ただ、近年のVRによる180度〜360度の立体視映像に慣れてしまうと、IMAX3Dの立体感や没入感はやや抑え気味に感じられます。IMAX3Dの立体視にはいくつかの制約があると思います。
一つは、IMAXは大画面であっても特に3D(立体視)で見るとあまり大きく感じなくなることです。大きな画面で視界を覆うことで映像表現としてはもちろん役立っていると思いますが、大きなスクリーンそのものを見る場合に比べて3Dの場合はそこに描かれているもののサイズ感で見ることとなり、画面の大きさは意識しなくなるように感じます。
3D立体視ではない普通の上映でも、たとえば数メートル×数メートルのスクリーンいっぱいに登場人物の顔が映し出されても、観客は数メートルの顔が登場したとは認識せず、普通のサイズの顔を単にアップで見ていると認識します。立体視の場合は普段自分が見ている感覚により近いため、画面の大きさは意識しなくなるのではないかと思います。
また、IMAX3Dは立体的には見えているものの基本的には四角い画面の中が立体的になっているだけのため、VRに比較すると没入感が抑えめに感じることに今回少し驚きました。慣れとは怖いものです。
通常の映画が24FPSなのに対し、この映画は48FPSを基本とし、一部24FPSにしているようです。
FPSはFrames per secondの略で、1秒あたりのフレーム数(フレームレート)を表します。映画は24FPS(1秒間に24フレーム/24コマ)がスタンダード、テレビは30FPSがスタンダード、ビデオゲームではさらに高いフレームレートにすることが多いようですね。
映画の24FPSの実際のフレームレートは23.976FPS、テレビの30FPSの実際のフレームレートは29.97FPSですが、ここでは説明を省きます。
CGを使ったゲームが、パソコンのスペックの追求も含めた高フレームレートを追求する面があるのと対象的に、映画は24FPSにこだわってきました。微妙にカクカクしたフィルムの映像の印象に近づけるためです。しかし24FPSより48FPSのほうが動きがなめらかに感じられます。「アバター ウェイ・オブ・ウォーター」のHFR(ハイフレームレート)の上映は、高精細な映像と相まって、非常にクリアでなめらかな映像となっています。
もっとも、私は純粋にこのなめらかな映像をポジティブに楽しめたのですが、なめらかな映像に違和感を感じる人はいるかもしれません。なめらかさが生々しく感じられ、特に実写でのハイフレームレートの映像は「映画ではなく撮影の現場を見ているようだ」と表現されることもあります。
前作「アバター」では異星のキャラクターであるナヴィのリアルな表現や惑星パンドラの草木の表現もチャレンジングだったと思いますが、今回はさらに多くのシーンで水が出てくることで、一層高度な技術が必要になっていると思います。
CGにとって水の表現はチャレンジングですが、昨今の映画でしばしば見られるような水の表現からさらに推し進め、かなり野心的な取り組みをして成果を上げていると思います。
海の表面がうねる表現は昔から一種CGの定番ですが、今作では岩に波が打ちつけられる時の水しぶきや、岩の表面を流れる水、海から出た時に肌を流れる水、海の上から見る透明できれいな海底、水上、水中から見上げる光の差し込む水面、水中に飛び込む時の細かい泡、海中の生物たちが水中に差し込む光の揺らぎに照らされる様子など、様々な水の表現があり、どれも非常にリアルで美しいです。
縦横無尽に場面が変わる中、CGによるキャラクターだけでなく人間のキャラクターも水とのインタラクションがあり、これを撮影し合成するのは非常に困難だったのではないかと思います。人間のキャラクターの表現はショットによって俳優の実写とCGを使い分けているのだろうと思います。
ジェームズ・キャメロンはこれまで、水や海を一つのテーマとして取り組んできています。
映画「アビス」(1998)ではCGの黎明期にCGよる水の表現に取り組んでいます。また、沈みゆく豪華客船でのドラマを扱った映画「タイタニック」(1997)では、海上を航行するタイタニックの様子はミニチュアやCGの合成で表現され、沈む船も巨大なミニチュアを水槽に沈め、船内に浸水してくる水は実際の水が使われています。
ジェームズ・キャメロンはスキューバダイバーでもあり、「タイタニック」の撮影の準備のために潜水艇による海底の探索もしたほか、各地で海洋探索をしています。
それらの経験や技術がアバターの世界観にふんだんに詰め込まれ、これまでの取り組みの集大成、CG表現の極地とも言うべき映像になっていると思います。
前作「アバター」の映像も多くの部分がCGですが、モーショントラッカーをつけた俳優を手持ちのカメラで撮影しており、リアルなカメラワークとなっています。そのカメラの動きを反映させた簡易CGをリアルタイムに被せ確認しながら撮影することもでき、SIMUL CAMと名付けられています。今作もおそらく同様の手法で制作していると思います。
CGなのだから後で補正はできると思うのですが、ところどころ、必要以上のカメラのブレまでそのまま残しています。あえてエラーを残すことで、CGの映像にリアルさを入れているのではないかと思います。
人によって、映画館の座席は画面に近いほうがいい人とやや遠いほうがいい人がいると思いますが、私は普通に中央付近の座席を好みます。
今回の座席はスクリーン10のG列22番で、中央やや後ろ、やや右側でしたが、さほど気にすることなく見ることができました。
●「アバター ウェイ・オブ・ウォーター」IMAX レーザー3D、HFR鑑賞料金
3000円=【鑑賞料金一般 1900円】+【IMAXレーザー料金 600円】+【3D料金 400円】+【ハイ・フレーム・レート料金 100円】
※【3D料金 400円】の内訳は、3D鑑賞料金300円+IMAXレーザー専用3Dメガネ料金100円
※IMAXレーザー専用3Dメガネを持参の場合は、3Dメガネ料金100円は不要
▶︎映画「テネット」をIMAXレーザーGTで見た感想や座席の様子は、こちらの投稿をご覧ください。
今回「アバター ウェイ・オブ・ウォーター」を見たIMAX レーザー3D、HFRの技術で、他の監督の映画も見たいものです。
あるいは、ジェームズ・キャメロン監督はVRも意識しているようですので、いずれ彼のVR映画を見てみたいものです。
▶︎VRデバイスについては姉妹サイトのこちらの投稿もご覧ください。
以下の書籍は、前作「アバター」のメイキング本です。洋書の分厚い大型本です。ナヴィや惑星パンドラの生物や人間側の乗り物のスケッチやクレイモデルの写真も掲載されていますが、基本的には撮影技術の解説本です。メイキング写真や完成イメージ(本編より)が2/3、文章(英語)が1/3くらいの印象です。