2014年のカンヌ国際映画祭で上映され、2015年に公開されたホラー映画『イット・フォローズ』の解説・考察を書こうと思います。
人の姿をした自分にしか見えない魔物が追いかけてきて襲われる呪いを移された若い女が、友人たちの協力でそれから逃げる。
“魔物”と書きましたが、ストーリー中では、”This Thing”(日本語字幕では”あるもの”)とか”It”(日本語字幕では”それ”や”あれ”)などと表現されています。毎回出るたびに女だったり男だったり老婆だったりしますので、幽霊ではなく何かの化け物、魔物、呪いということだと思います。
“それ”がそこにいても周囲の人には見えず、また、性行為をすると移り、移された人が襲われて死ぬとまた前の人に戻るというのも、それまでになかった設定だと思います。
このストーリー中では、昼間でも人が歩いてくるだけでゾクッとします。遠くから歩いてくると、それがただの通りすがりの人か、化け物かがわからないのが怖いポイントです。
一般に、悪魔・悪霊に憑かれる話の場合、憑かれた影響の範囲は比較的限定されている場合が多いです。
例えば映画『エクソシスト』では憑かれているのは少女だけで、彼女は家のベッドにくくりつけられており、部屋のものが吹き飛んだりはしますが、例外的にストーリー中の映画監督がその家の外で命を落とした以外は、忌まわしいことが起きる場所は少女の部屋だけに限定されています。少女の部屋の外で悪魔祓いの休憩をするシーンもあります。部屋から出れば基本的には安全だという表現です。
また、家に憑いているタイプの映画の場合は、基本的に影響の範囲は家に限定されています。過去に地下室で何か忌まわしいことがあり、そこに霊や悪霊がいて、地下や、それ以外もその家の中で何かが起きることが多いと思います。
しかしこの映画では、どこでも突然姿を表すので怖いです。追いかけてくるスピードは常に歩きのためゆっくりですが、学校であろうが家の中であろうが入ってきて、捕まって襲われると命を奪われます。ドアを蹴破ったり、窓ガラスを割ったりします。車で移動してもいずれやってきます。
他の人には見えないのは追われる人にとって不安な部分です。他の人にも見えれば、例えば学校であれば不審な人物が歩いていれば騒ぎになり警備員や警察がとんでくると思いますが、このストーリーでは自分にしか見えないためそれが期待できず、怖いです。
ただ、映画の印象も緩急があり、登場人物は比較的おだやかな若者たちのため横たわったりまったりしているシーンも多く、息抜きになります。
ジェイの元恋人は「それは時には知人に、時には他人に姿を変える」と説明したので、「親しい知人だと思って安心して気が緩んでいる時に突然!」といった場面があるかと思って見ていましたが、主人公に対してはそれはなかったと思います。
主人公の友達の一人グレッグが、部屋をうるさくノックするのが本物の母だと思い怒りながら部屋のドアを開けたら、飛びかかってくる、というシーンはありました。
主人公のジェイがキッチンを見にいくと、不気味な女が立っているシーンがあります。片方の胸を出し、おしっこを漏らしています。これは、演出の単なる偶然の一致かもしれませんが、『エクソシスト』にも憑かれた少女が大人のパーティー中に現れ、変なことを口走り、おしっこを漏らすシーンがありますので、おそらくオマージュなのではないかと思います。
本作は基本的には魔物に追いかけられるだけのストーリーですが、友人達の一人、若い男ポールは、主人公のことを好きで守りたいと思っていますが強く出られず、友人たちの一人として主人公ジェイに寄り添い、後半少し活躍し、主人公と手をつないで歩く関係になり、微笑ましいです。
しかし映画の最後は、手をつなぐ二人のうしろを誰かが歩いてきており、二人はそれに気づいておらず、観客からもそれが単なる通りすがりの人か化け物かわからない…という終わり方をします。まだ化け物の呪いは終わっていないかもしれません。
カメラのフレーミングが工夫されており、照明がきれいに使われており、丁寧に撮影されています。
家の巨大なビニールプール、海、屋内プール施設など、水がしばしば出てきます。ある程度無防備になっている状況を作り出しているとともに、さほど顕著ではありませんがいわゆるサービスカット的にもなっていると思います。
音楽や音楽効果は変に主張しない範囲で特徴的で、場面に合わせて盛り上げています。
ホラー映画『イット・フォローズ』は、設定が(公開当時は)目新しく、基本的には魔物に追いかけられるだけの内容ですがちょっとしたサブストーリーもあり、照明やカメラフレーミングなど撮影がていねいに行われていて、楽しんで観ることができました。
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