遅ればせながら映画『国宝』を見ました。
歌舞伎の女形として生きる青年たちという、普段の生活では馴染みの少ない題材ながら、シンプルな物語りと力強い映像表現で見応えのある映画でした。簡単に感想を書いておこうと思います。
要所要所に年の表記が出てきますが、フィクションとのことです。
歌舞伎の女形を演じる事が好きなヤクザの息子の少年がカチコミで父親を亡くしたあと、彼を見込んだ有名な女形の役者の元に弟子入りし、同じく女形として学んでいるその役者の息子との友情と確執と挫折の中で、芸の道を極めていく。
監督の李 相日さんは、新潟出身の在日朝鮮人三世とのことです。
私は歌舞伎についてはほぼ知らず、おそらく多くの日本人はそうなのではないかと想像します。
この映画では歌舞伎の女形として生きる青年たちという、普段の生活では馴染みの少ない「歌舞伎」「女形」「跡継ぎ」などの題材を扱いながらも、二人の青年の友情と確執とそれぞれの浮き沈みを中心としたシンプルな物語と、しっかり取材したと思われる歌舞伎の世界の裏側の様子が丁寧に描かれており、舞台の構成にも通じると感じるカメラフレーミングを多用した映像表現で、見応えのある内容でした。
立花喜久雄役の吉沢亮(よしざわ りょう)さん、大垣俊介役の横浜流星(よこはま りゅうせい)さんのほか、それぞれの子役の役者も演技が的確で、女形の歌舞伎役者役の渡辺謙さんや人間国宝の高齢の女形役の田中泯(たなかみん)さんの重厚な演技も見どころです。
立花喜久雄(花井東一郎):吉沢亮
少年・喜久雄:黒川想矢
大垣俊介(花井半弥):横浜流星
少年・俊介:越山敬達
花井半二郎:渡辺謙
大垣幸子:寺島しのぶ
立花権五郎:永瀬正敏
他
(ウィキペディアより)
アクションシーン(カチコミやケンカ)もあるものの、歌舞伎の踊りや舞台、人間関係のドラマが主に描かれ、動的なカメラワークよりも平面構成的なカメラワーク(カメラフレーミング)が多用されている印象です。舞台の構成にも通じると感じます。
例えば、シンメトリー(左右対称)や、3分割構図、右か左に奥行き方向を配置するカメラフレーミングなどが比較的多く見られます。
動的なカメラワークとしてはクレーンを使ったと思われるダイナミックなカメラワークや、ステディカム又はジンバルを使ったと思われる移動する人物を追うカメラワークもありますが、静止したカメラワークが多いです。
反対に、後半のビルの屋上の夜のシーンでは、ほぼ唯一、手持ち撮影と思われる手ぶれのある映像となっており、物事がうまくいかず方向性を見失い荒れている主人公の心情が表現されていると思います。
また、ストーリー中何度か歌舞伎の舞台も描かれていますが、舞台の観客として見るのと違い、顔のアップや手先・足元のクローズアップ、舞の所作なども様々なカメラアングルで見ることができる楽しみがあります。
歌舞伎は「間」の表現があると思いますが、この映画では日常のシーンにおいて、シーンの終わりに比較的長めの「間」がとられていることがあります。
歌舞伎を扱っていますが、時折、主人公の心象を表すVFXと思われる映像表現が使われています。
BGMなしで衣擦れの音だけが聞こえるような静かなシーンが多く、一方、時折的確に挿入されるBGMや効果音の使い方も現代的・映像的だと感じます。