Netflixの日本ドラマ『今際の国のアリス』と韓国ドラマ『イカゲーム』は両方ともデスゲームドラマですが、さまざまな点が異なります。
ここでは私なりの感想も交えながら比較をしようと思います。
『今際の国のアリス』はマンガを原作としており、ドラマ化の前にアニメ化もされています。『イカゲーム』は原作・脚本とも、監督のオリジナルです。配信されたのは『今際の国のアリス』が先です。
2010年 12月号から『週刊少年サンデーS』にて原作マンガ連載
2013年 7月「サンデーCM劇場」にてアニメCM放送
2014年 OVA発売
2020年 12月10日Netflixで実写ドラマ配信(シーズン1)
2022年 12月22日Netflixで実写ドラマ配信(シーズン2)
参照
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BB%8A%E9%9A%9B%E3%81%AE%E5%9B%BD%E3%81%AE%E3%82%A2%E3%83%AA%E3%82%B9#cite_note-natalie20130710-3
https://natalie.mu/comic/news/94665
https://youtu.be/lTqMhDt6e38
2019年 9月にNetflixでの制作を発表
2021年 9月17日に全世界(一部地域除く)で配信
かつてマンガ喫茶で『ライアーゲーム』や『賭博黙示録カイジ』など「デスゲーム」を扱った日本の漫画を見てインスピレーションを得た
脚本・演出のファン・ドンヒョク監督インタビューより
参照
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A4%E3%82%AB%E3%82%B2%E3%83%BC%E3%83%A0
http://japan.hani.co.kr/arti/culture/41231.html
シーズン1
ニートでやる気がなく家族からも疎まれている若い男が数少ない友人たちと渋谷にいる時、突然周囲から自分たち以外の人が消え、失敗すると死ぬゲームに他の参加者といっしょに参加させられ、それぞれのゲームを生き残っていく中で生きることの意味に向き合う。
▶︎『今際の国のアリス』シーズン1:各話のあらすじ、ゲーム内容、印象的なセリフについてはこちらの投稿をご覧ください。
シーズン2
青年が巻き込まれたデスゲームのステージが上がり、ゲーム世界の住人となった人々の作ったゲームをクリアしていった末に、この世界の真実が明らかになる。
▶︎『今際の国のアリス』シーズン2:各話のあらすじ、ゲーム内容、印象的なセリフについてはこちらの投稿をご覧ください。
借金を抱え、妻と離婚し娘とも別れて暮らし、不足するお金をギャンブルに頼ろうとする男が、お金を賭けたデスゲームに参加する。
▶︎『イカゲーム』の特徴、面白さの考察についてはこちらの投稿をご覧ください。
イカゲームとは
○△□の図形を組み合わせて描かれたフィールドを舞台に、攻撃側と守備側に分かれて競う対戦型ゲーム。(ウィキペディアより)
冒頭、モノクロの映像で少年達の遊ぶ様子が映され、「その遊びは”イカ”と呼ばれていた。イカの絵に似ていたからだろう。」とナレーション(日本語は字幕)が入り、ルールが説明されます。
また、このゲームがストーリー内の最終ゲームとなっており、ドラマのタイトルとされています。
今際の国のアリス:豊かな社会の中での落ちこぼれやいじめられっ子、マイノリティが多いがそれに限らない
イカゲーム:経済的困窮を中心とする社会的半落伍者が多い
今際の国のアリス:主要な登場人物の背景ストーリーはそれなりに描かれている
イカゲーム:主要な登場人物の、どうしてもお金が必要なひっぱくした境遇がていねいに描かれている
今際の国のアリス:今際の国に巻き込まれる時にたまたまそこに居合わせた人々。自分の意志ではない
イカゲーム:借金を抱えている者にゲーム参加のアプローチがあり、自分の意志で参加
今際の国のアリス:個々のゲームをクリアすると与えられる生きる権利「ビザ」の期間であれば、参加するゲームは基本的には自分で選べる
イカゲーム:個々のゲームを自分で選ぶことはできない
今際の国のアリス:渋谷を起点とする東京エリアの屋内又は屋外
イカゲーム:島に作られたゲーム用の施設
今際の国のアリス:走る必要のあるゲームが多い。シーズン2では心理戦ゲームもある
イカゲーム:わかりやすいゲームが特徴。身体を使うゲームとそうでもないゲームがある
今際の国のアリス:渋谷を中心とした実際の場所のイメージ+VFX
イカゲーム:ゲーム会場や運営側衣装のポップなデザイン
今際の国のアリス:音楽、音響の使い方が良くも悪くも的確で、音楽によって場面のイメージを作っている場合もある
イカゲーム:演出として、ギャップのある雰囲気のナレーションや音楽の使い方をしている部分もある
今際の国のアリス:シーズン2の最後にゲーム世界の真実が明らかになる
イカゲーム:最後にゲームの首謀者が明らかになる
シーズン1
●ストーリーに無駄がない、または少ない。
●印象的なセリフが多いが、セリフで語る傾向がある。分かりやすさとトレードオフ
●キャラクターに合ったキャスティング
●主要キャストの説得力のある演技。言葉(セリフ)が相手に作用し相手の言葉を誘発し会話のやりとりによって感情と物事の流れが変化していく様子も見どころの一つ
●音楽、音響の使い方が良くも悪くも的確で、特に一つのシーンの中で感情の変化がある場合、音楽によってそれを表現する傾向がある
●奇をてらわないカメラワークと色調補正
●オープンセットとCGを合成して作られた誰もいないリアルな渋谷などのVFXが素晴らしく、しかもストーリーの邪魔をしていない
シーズン2
●シーズン1のゲームは夜ばかりだったが、今度は昼間も多い
●ゲームの難易度が上がっているが、カーチェイス、夜の森の銃撃戦、廃墟の銃撃戦、夜のコンビナートで鉄骨を飛んだりして戦いながら追いかけっこなど、撮影の難易度も上がっている
●走る走る:シーズン1に比べて屋外のゲームが多く、とにかく走ることが多い
●語る語る:シーズン1同様に印象的なセリフが多いが、状況や心情をセリフで言う傾向がある。台本を喋っている印象。会話や回想が多い
●ルールの説明が映像とナレーションで行われる。ストーリー中の参加者のためであり、視聴者のためでもある
●セリフの多さも相まってシーズン1よりもキャラクタードリブン寄りだが、テンポを悪くしている印象
●音楽、音響が素晴らしく使い方が的確だが、音楽を利用してシーンのイメージを作っている印象
●植物に覆われた荒廃した都市の表現をはじめ、より高度で複雑なVFXとプロダクションデザイン
以下は、『イカゲーム』の特徴、面白さについて書いたこちらの投稿から抜き出しています。
主人公は、借金を抱え、妻と離婚し娘とも別れて暮らし、運転代行の仕事をしながらも稼ぎは少なくギャンブルに明け暮れる男ですが、娘思いで、娘の誕生日に食事に連れていってプレゼントをするためにギャンブルをします。
しかしそこで稼いだお金を借金取りから逃げる時に落とし、しかたなくUFOキャッチャーでプレゼントをゲットしようとします。
そんなダメ男ダメ親父ですが、それでも憎めない雰囲気なのは、単純な性格で、嬉しい時はいい笑顔になることや、娘を思い、娘のほか周りの人に優しい点です。役者の持つ雰囲気によるところも大きいのではないかと思います。
最初にゲームに参加する時に催眠ガスをかけられ眠らされていた参加者達が、広い空間に何段にも重なってコの字型に並んだベッドで目覚めるのが視覚的に面白いです。
それを整然と並んだモニターの前に座って管理するスタッフ達はピンクのユニフォームを着てフェンシングのマスクのような仮面をし、そこに○や△や□が描かれているのもキャッチーです。○△□は基本的な図形であると同時に、イカゲームを示唆していると思います。
参加者は緑の体操服を着せられ、その緑と管理側のピンクのユニフォームのコントラストがグラフィカルです。
デスゲームの施設内が幼稚園のようなパステルカラーのポップなデザインで、上記の服装をした参加者や運営スタッフ達が並んで迷路のような階段を歩いている様子は漫画的でキャッチーです。
メンコ、だるまさんがころんだ、綱引きなどのわかりやすいゲームが特徴です。しかも多くのゲームは動きのあるゲームのため、見るゲームとしてわかりやすいです。
主人公をはじめ、主要な登場人物(ゲーム参加者)の、どうしてもお金が必要なひっぱくした境遇がていねいに描かれています。
失敗すると死ぬデスゲームですが、2重3重に参加者達の意思、尊厳が尊重されています。
それぞれの問題を抱えた参加者達が自分の意思でお金を賭けたゲームに参加し、尊厳も尊重されているため、ストーリーを牽引するのは「理不尽なゲームをやめさせること」や「運営側への反発」といったモチベーションではなく、それぞれの抱える事情やキャラクターから生まれるドラマとなっていきます。
登場人物それぞれの境遇だけでなく、性格や考え方などキャラクターの違いもていねいに描かれています。
その一方で、参加者どおしで殺しても運営側は何も咎めず、亡くなった人のぶんの賞金が積み上がる様子が描かれ、参加者どおしに緊張感が生まれます。
ストーリー中、最初のゲームから出た主人公の話を警察は真面目には受け取らず、相手にされません。
しかしこの時たまたまゲームの連絡先カードを見た若い警官が、行方不明の自分の兄の部屋から同じカードを見つけ、個人的に主人公に接触し、その後参加者を乗せたゲーム主催者の車を追い、施設内に潜り込み、運営スタッフと同じユニフォームと仮面をかぶって運営者の一人になりすまします。このあたりはサスペンス調になっています。
今まで同じチームとして力を合わせていた者どおしで対戦しなければならないゲームで、極限状態の中、裏切る者が出てきます。
運営スタッフのうちの数人が参加者の一人と繋がり、裏で不当なビジネスをしています。
シリアスな境遇やゲーム内容だけでなく、コミカルな表現やサスペンスの側面もあり、それらのバランスがよく飽きさせずサクサク見られます。
サバイバルゲーム、デスゲームの映画では、しばしば、命を賭けたひどいゲーム内容に対して、人をくったようなやけに明るい調子で説明がなされたりしますが、『イカゲーム』でもそういった演出が見られます。
起床や就寝、ゲームの進行を伝える女声アナウンスがいかにも場内アナウンスといった印象で、妙な雰囲気を作っています。
また、例えば、だるまさんがころんだのゲームの、多くの人たちが動いてしまい撃たれてしまうシーンで、シャンデリアの煌く部屋でお酒を飲みながらモニター越しにゲームの様子を見ているゲーム運営のリーダー格の「フロントマン」が、「フライ ミー トゥ ザ ムーン」の音楽をかけ、それがこのシーンのBGMにもなります。
詳細なネタバレはしませんが、最後に、このゲームの首謀者が明らかになります。その口から語られる言葉から、現代社会の抱える経済と貧困、老いや生きがいの問題がずっしりと響いてきます。
日本にはサバイバルゲーム・デスゲーム系の映画やコミックが多い印象で、これは日本の社会の「気分」が影響していると思いますが、『イカゲーム』には日本以上とも思われる厳しいヒエラルキー社会である韓国の「気分」が現れているのかもしれません。競争社会、格差社会において脱落した人や脱落することへの恐怖を感じる人の気分がベースにあるのではないかと思います。
『イカゲーム』は単にデスゲームに巻き込まれるだけの話ではなく、登場人物達の境遇や問題といった物語・思惑が何レイヤーにも重なっており、しかしストーリーはわかりやすく、デスゲームですが参加者の意思が尊重されており、ビジュアルや音楽も工夫されているのが特徴です。