SF映画というと予算をかけたハリウッドのSF映画が思い浮かびますが、日本映画にも良質なSF映画があります。いくつかピックアップしました。
今のようなVFX表現が一般的になる前の映画、ロケやVFXで映像表現にこだわった映画、VFXは最低限で芝居を元にしたストーリーが面白い映画など、さまざまです。いくつかはタイムトラベルのストーリーです。
ストーリー
小笠原諸島の小島が海底に沈んだため、潜水艇の操縦者の男と日本海溝の調査をした物理学者の男が海底に重大な異変が起きているのを発見し、やがて日本各地で地震や火山の噴火が起こりはじめる。博士たちは政府と共に更なる調査を行い、最悪の場合には日本列島の大部分は海に沈んでしまうという予測に基づき政府が極秘に準備を進めるなか、日本各地を大規模な地震が襲っていく。
感想・解説
日本のSF映画の原点の一つにして最高峰と言っていいかもしれません。
渾身の特撮で表現された、崩壊していく日本の映像が特徴的で印象的です。地震で崩壊する建物、降り注ぐ瓦礫と火災で混乱する街、爆発し燃え盛るコンビナート、崩れる橋、決壊する堤防などを模型を多用して表現しています。
日本の映画において、それも都市の崩壊を描くSF映画において、これほど模型を多用した作品は近年ないのではないかと思います。
人々の様子なども合成し、混乱する屋内・屋外、ぶつかる車、逃げ惑う人々、火がついた人、割れたガラスが人々に降り掛かり、目に破片が刺さり血が噴き出る人、襲ってくる水など、鬼気迫るものがあります。焼け焦げた人々の描写もあります。
特撮によって大規模地震による都市の崩壊と混乱の様子がリアルに描かれているだけでなく、ドラマとしても混乱のなか登場人物たちが状況に対処しようとする様子や政府が手を尽くす様子も描かれます。
総理をリーダーとする非常災害対策本部は当初なすすべもなく、頼みの綱の自衛隊ヘリの消火弾も各基地使い切ったとヘリの隊員は伝えられ、眼下には今まさに燃え盛る街が広がっており呆然とします。
しかしその後日本の沈没の可能性が明らかになるにつれ日本人を脱出させる計画にシフトし、そのために総理が自ら奔走する様子も描かれます。
セリフ、人間関係に昭和を感じます。物理学者の田所の口調が「俺は、、」とか「もう一度底へ降りてくれ」とか、かなり偉そうなのが、そういうキャラクターであると同時に、その時代特有の偉ぶり方だとも感じます。
タバコを吸うシーンが比較的多いのも当時の特有の演出だと感じます。タバコを吸うことで偉そうな雰囲気を出したり、イライラする様子を表現したりしています。職場で部長がタバコを吸っていたりするのも、禁煙が広がる前の社会状況が表れています。
現実にいつ大地震が来てもおかしくない現在見ておくべき映画だと思います。映画では表現の誇張はされているかもしれませんが、火災が広がり津波が襲いなすすべがなくなるのは、おそらく実際に起きることだろうと思います。加えて、昨今は人々に余裕がなくなり平時でも治安が悪化しています。この映画は、気を引き締め必要な対策をするためのきっかけとなると思います。
ストーリー
演習に参加するために移動中だった陸・海の自衛隊の部隊が突然戦国時代にタイムスリップし、武将の率いる軍団と出会う。自衛隊員たちはそれぞれに状況と向き合うが、考え方の違いも明らかになっていくなか、戦乱に巻き込まれていく。
感想・解説
同名の小説の映画化です。「自衛隊が戦国時代にタイムスリップしたら?」というアイデアが秀逸で、観客は、戦国時代に突然タイムスリップして戸惑い、混乱し、戦乱に巻き込まれていく自衛隊員と同じ目線で、これからどうなるのかと目が離せません。
自衛隊員の中にも確執があり、命令を聞かず隊を離れて好き放題し始める人物がいるなどの人間関係も描かれ、ストーリーが面白くなっています。
ただ、今見ると、「羽目をはずしたい昭和の男たちの願望」が反映されているようにも見え、倫理観や何をかっこいいと感じるかの感覚が現代と異なる印象もします。
例えば演出にも昭和っぽさが感じられます。
隊を無断で抜け出すが林の中で落武者たちに追われた隊員が、タイムスリップする前の世界では待ち合わせをするはずだった女のことを思いながら林の中を逃げるシーンで、昭和の刑事ドラマで流れるような歌がBGMとして流れます。「なくすものはない。イエー」というような歌詞です。
他にも要所要所で歌が流れます。
こちらもパソコンを使った映像表現が出てくる前の映画で、いくつかの映像素材をオーバーラップさせることで「タイムスリップ」の表現をしているのが時代を感じ、印象的です。飛ぶ鳥たち、流れる雲、走る馬、太陽のプロミネンス、夕日などの映像をオーバーラップさせています。
▶︎『戦国自衛隊』のより詳細な感想と解説はこちらの投稿をご覧ください。
ストーリー
裏世界の仕事人の男が、宇宙人に侵略された未来から過去を変えるためにタイムトラベルしてきた少女を嫌々手助けすることになり、かつて自分の幼馴染を殺した中国マフィアの幹部が絡んでくる中、地球に最初に侵入してきた宇宙人をめぐる攻防が繰り広げられる。
感想・解説
『ALWAYS 三丁目の夕日』(2005)が大ヒットし有名になり、『ゴジラ-1.0』(2023)で国際的にも評価された山崎貴監督が、『ALWAYS 三丁目の夕日』より前のCG発展期に、勤め先である白組と、制作会社ROBOTと取り組んだオリジナルストーリー(山崎貴監督と、ROBOT所属-当時-の脚本家平田研也さんの共同脚本)の映画です。山崎貴監督は、監督、脚本、VFXでクレジットされています。
監督デビュー作品『ジュブナイル』(2000)からオリジナルストーリーのSF映画を志向してきた山崎監督が、金城武さん、鈴木杏さん、岸谷五朗さん、そして樹木希林さんを迎え、ストーリーと演技と映像をバランスよくまとめた映画と言えると思います。
CGなどのVFX表現を追求したSF映画ですが、裏世界の仕事人の主人公、未来から来た少女、中国マフィアの幹部の男、情報屋の女など、ケレン味あるキャラクターがうまく描かれており、主人公と少女の「バディ」ものとして楽しく見られるストーリーです。
ストーリー
修学旅行から帰りの新幹線に乗車中に発生した大地震で生き残った3人の若者たちが、絶望的な状況を生き延びていく。
感想・解説
コミック原作の映画です。映画としての一般の評価はさほど高くないのですが、荒廃した都市のシーンの撮影をウズベキスタンで行い、廃墟となった街、富士山の噴火や火山弾が飛来し破壊される都市を表現した、CG発展期の当時としてはかなり頑張って作られたと想像できる高度なVFX表現が見どころです。
神田沙也加さんが映画やドラマに出演し始めた初期の作品で、メイキング映像には、体をはったアクションシーンの撮影の様子が収められています。
ストーリー
猛暑の中、とある大学のSF研究会のだらしない男子部員たちや写真部の女子部員2人がそれぞれに活動中、部室のクーラーのリモコンが壊れてしまう。翌日、部室に現れた謎の物体をタイムマシンだと思った彼らは、壊れる前のリモコンを取りに過去へと戻るが、ふざけたことばかりしているうちに、過去を変えると現在が消えてしまうことに気づき、元に戻そうと奮闘する。
感想・解説
舞台作品が原作のSFコメディです。舞台版の作者の上田誠さんが脚本を手掛け、『踊る大捜査線』シリーズの演出・監督やアニメ『PSYCHO-PASS サイコパス』シリーズの総監督をした本広克行さんが監督をしています。
楽しい映画が好き、面白い邦画が見たい、という人にはイチオシの映画と言えると思います。
メイキング映像には、出演者達の交流を促すために撮影前に遊園地に行ったり、合宿をして稽古をする様子が収められています。そしてそれは成功していると思います。
後にドラマ(2006)及び映画(2009、2010)『のだめカンタービレ』でブレイクする上野樹里さんや、ドラマ『WATER BOYS』(2003)でブレイクし、『のだめカンタービレ』にも出演している瑛太さんが主演となっていますが、他のキャラクター達もそれぞれいい意味でクセが強く、群像劇と言えるコメディとなっています。
映画制作上、タイムマシンを小道具で作り、タイムトラベルする瞬間をVFXというか簡易的な映像処理や光で表現しているのが、この映画のトーンとマッチしていていい感じです。