映画『エイリアン: ロムルス』を見ましたので感想を書こうと思います。
植民惑星開拓の劣悪な労働環境・生活から抜け出そうとする若者達が、別惑星へ脱出するための冷凍休眠装置を盗み出そうと潜り込んだ廃宇宙ステーションで、保管され休眠状態だった異形の化け物を起こしてしまい、襲われる。
『エイリアン』シリーズは、ダン・オバノンの企画・脚本とH・R・ギーガーのクリーチャーや廃宇宙船のデザイン、リドリー・スコットの手腕によってSFホラーの金字塔となった第一作から始まっています。
▶︎ギーガーを含む、影響力のある映画デザイナー6選についてはこちらの投稿をご覧ください。
その後、ストーリーの繋がりを意識しつつも、特徴のある監督それぞれの方法で継続していったことと、さらにリドリー・スコット自身が前日譚としてエイリアンの起源を描きながらも世界観を広げた特殊な展開をしたことで、色々複雑になってしまったシリーズですが、今作『エイリアン: ロムルス』ではリドリー・スコットの前日譚などからの要素を入れつつも原点回帰しています。
時間軸としてはオリジナル『エイリアン』と『エイリアン2』の間の出来事とのことですが、基本的には登場人物の繋がりはないです。それはそうですよね。オリジナル『エイリアン』の最後でリプリー以外は死んでしまっており、唯一生き残ったリプリーからストーリーを繋げたのが『エイリアン2』です。登場人物とストーリーを繋げようとしたら、別の『エイリアン2』を作ることになってしまいます。
スピンオフという位置づけだと思いますが、同じプロットをベースに登場人物と場所を変え、シリーズの他の映画からの要素も盛り込みつつ、オリジナルから45年たって現在の技術で作り直した初代『エイリアン』といった印象です。
ここでいう「現在の技術」は、単にCGを多用したVFXに頼るということではなく、より高度に表現できるようになったアニマトロニクス(機械操作の人形など)や、バーチャルプロダクション(環境プロジェクション)、CGなどを組み合わせた映像技術という意味です。
『エイリアン: ロムルス』のメイキング映像などで、実写での表現にこだわったそれらの表現の一端を見ることができます。
Making Of ALIEN: ROMULUS – Best Of Behind The Scenes, Set Visit & Creating The Xenomorph Animatronic
https://youtu.be/84OYOoMGwCQ?si=p28Q2AFkkXMsHPuR
より現代的な印象になりつつも「密室の宇宙船内で俊敏で頑丈な異形生物に襲われる」という基本プロットは同じで、様々な「最悪」な出来事が起きるSFホラーアクションとしてまとめています。前半は比較的『エイリアン』の印象に近く、後半はアクションが増えるため『エイリアン2』の印象に近くなります。
『エイリアン: ロムルス』はオリジナル『エイリアン』からの基本設定を完全に踏襲しリメイクと感じる印象でありつつも、新しいアイディアを加え、さまざまな点を変えています。
登場人物達が植民惑星開拓のために働いてきた搾取される労働環境・生活から抜け出そうとする普通の若者達であること、女性主人公の弟としてのアンドロイドがいること、エイリアンを比較的容易に殺せるパルスライフルの存在などです。
エイリアンの体を傷つけると酸性の血液によって宇宙船に穴があき危険なためむやみに攻撃できない、というオリジナル『エイリアン』からの設定は秀逸で、今回も使われています。今作の主人公たちはパルスライフルを手にした後そのことに思い至りますが、無重力状態にしてエイリアンを攻撃しても酸性の血液が「落ちない」状態にし、ひとまず撃退に成功します。空間に漂う酸性の血液を避けながら進むという今までになかった表現も出てきます。
その後、無重力によってエレベーターが使えないという場面があり、確かに多くのエレベーターはカゴと重りをロープで繋いでバランスさせながら動かしているため無重力では使えないな、と思いながら見たのですが、無重力になる可能性のある宇宙船内では本来は別の駆動方式にするだろうとは思います。
さてそのエレベーターが止まっていることを利用して無重力のなかエレベーターの昇降路を移動しますが、一定時間で重力が戻り、無重力の空間を飛んで移動中だった主人公が「落ちてしまう」上にエレベーターも動き出してしまう、という場面にもつなげ、この無重力を色々使ってストーリーを面白くしています。
顔に張り付いたフェイスハガーを取ろうとすると首を締めるという設定も踏襲されていますが、これを剥がす方法を見つけます。水の中から飛び出してきたりワラワラと走って追いかけてきたりかなりの距離を飛び掛かってくるフェイスハガーはこれまで見たことがなかったかもしれません。
幼生のエイリアンであるチェストバスターが腹を食い破って出てくるシーンもありますが、エイリアンの卵を出産する(というより無理やり出てくる)というさらにグロテスクなシーンもあります。
産まれたソレは、成長の早い通常のエイリアン同様急速に、というよりあっという間に成長し、大型のヒトとエイリアンが融合したような姿になり気持ち悪いです。個人的には、赤ん坊とエイリアンの融合した姿(のデザイン)であってほしかったと思いますが、とてつもなくグロテスクになるため避けられたのかもしれませんし、単にストーリーの都合上「大型」である必要があるためかもしれません。
この「大型のヒトとエイリアンが融合したような姿」は、『エイリアン4』に出てきたものに似ていると同時に『エイリアン』前日譚に登場した「エンジニア」にも似ています。ただ、「エンジニア」には「エイリアンが融合したような」という要素はないと思います。
第一作で出てきたアンドロイドのアッシュと同型の破壊されたアンドロイドが登場し、その後登場人物たちが再起動しますが、相変わらず異種生物から抽出して実験中のサンプルを持ち帰るという会社優先の行動をします。
主人公の弟アンドロイドは、宇宙ステーションのシステムに侵入するために連れて来られており後で見捨てられることになっています。主人公もそれを知っています。しかし、破壊されたアンドロイドから抜き取った小型ディスク(劇中では「モジュール」と表現)で更新されて高性能化した彼が、自分たちの安全のために一人を見殺しにして扉を開けなかったことに対し、主人公は怒って叩くという皮肉が描かれています。
このあたりで、「正確で正しい判断をするAI」対「感情優先で間違いを犯す人間」の対立という現代的な視点も深堀りされるのかと期待して見ていたのですが、そういうことはなく、弟アンドロイドの優先事項はウェイランド・ユタニ社に書き換えられており、「会社の指令を優先するアンドロイド」対「人間」というオリジナル『エイリアン』と同じ対立に留まります。
この対立は一見「アンドロイド」対「人間」に見えますが、実のところ「資本主義」対「人間味」という定番の対立、つまり「人間」対「人間」の形を変えたものです。
この、ややポンコツだった弟アンドロイドが高性能化し、また元に戻るあたりは「アルジャーノンに花束を」を思い起こさせます。
『エイリアン: ロムルス』のプロダクションデザインに関する記事
https://www.dezeen.com/2024/09/04/alien-romulus-production-design-naaman-marshall/
プロダクションデザイナー、ナーマン・マーシャル(Naaman Marshall)の『エイリアン: ロムルス』でのアプローチについて解説しています。
前述のとおり今作は実際のセットやアニマトロニクスなどを使い実写での表現にこだわった作品ではありますが、当然多くのVFXも使われています。
エンドクレジットには、多数のVFX会社とそのスタッフ名がクレジットされています。
『エイリアン: ロムルス』でVFXショットを担当した主なVFX会社
Industrial Light & Magic (ILM)
Industrial Light & Magicウエブサイトの『エイリアン: ロムルス』のページ
https://www.ilm.com/vfx/alien-romulus/
WETA FX(旧Weta Digital)
WETA FXウエブサイトの『エイリアン: ロムルス』のページ(最低限の情報のみ)
https://www.wetafx.co.nz/films/filmography/alien-romulus
Image Engine
Image Engineウエブサイトの『エイリアン: ロムルス』のページ
https://image-engine.com/portfolio/alien-romulus/
『エイリアン: ロムルス』でコンセプトアートなどを担当したVFX会社
DNEG
https://www.dneg.com/
『エイリアン: ロムルス』でコンセプトアートを担当したコンセプトデザイナー
Nick Stath
Nick Stathウエブサイト
https://www.nickstath.com/
Nick Stathの『エイリアン: ロムルス』でのコンセプトアート
https://www.artstation.com/artwork/Bk3dwm
Alex Nice
Alex Niceウエブサイト
https://www.alexnice.com/
Alex Niceの『エイリアン: ロムルス』などのコンセプトアート
https://www.artstation.com/alexnice
SFホラーの金字塔となったオリジナル『エイリアン』から45年たち、『ドント・ブリーズ』で緊迫感・緊張感を演出したフェデ・アルバレス監督を迎え、新しい観客達にも向けて作り直した、怖く楽しい映画だと思います。