デジタルプロダクションワークショップ(Digital Production Workshop)
ここではニューヨークフィルムアカデミーの撮影プロジェクト、デジタルプロダクションワークショップ(Digital Production Workshop)について紹介します。
前回のユニバーサルスタジオのバックロットでの同時録音ワークショップで初めて、セリフ、音声の同時録音に取り組みましたが、今回はセリフのあるシーンとしてより踏み込んだ内容となっています。
このワークショップでは、事前に渡された短い会話原稿に基づいて監督します。一見つながっていないかのようなセリフもつながるように、セリフはそのままでストーリーを考え脚本としてまとめ、事前のクラスでプレゼンし、講評を受けます。
撮影は6人のチーム(DR、DP、AC、AD、Gaffer、Soundが基本的な役割分担)で行います。ここでのSoundはブームポールを持つ録音係です。チームメンバーが一人ずつ順番に半日使って監督し、他のメンバーはクルーとなります。役者、ロケーションは自分で確保します。今回は撮影にインストラクターが立ち会います。
カメラはPanasonic HMC、道具類は三脚、ACキット、照明器具、ブームマイク(カメラに接続して録音)で、HDサイズ、カラーで撮影します。
このワークショップではADが編集し、後日授業で講評を受けます。
上記の通り、このプロジェクトはいくつか特徴があります。
・自分で考えたストーリーではなく、渡された会話原稿を元に監督すること
・その会話原稿のセリフは、言外の感情を説明していないため一見つながっていないようにも感じられるのですが、それがつながるようなストーリー、感情の流れを考え、それを映像として見せる必要があること。
・学内プロジェクトでは通常、監督が自分で編集しますが、今回はADが編集すること。
そういったことを考えると、このワークショップは興味深いと思います。
自分で考えたストーリーを自分で監督して自分で編集すると、撮影時にセリフを変更するとか編集でつじつまが合うようにするとか、安易にというか、いかようにもできてしまいますが、今回はセリフが固定のため、感情の流れやストーリーの意図をあらかじめ決めて撮影する必要があり、またそれを編集者に伝える必要があリます。
実際の仕事での映像制作は、他の人の考えた絵コンテにそって監督をすることはありますし、映画監督であっても他の人の考えたストーリー、他の人の書いた脚本にそって監督をすることは普通です。また、編集担当者に映像の意図や流れを伝えて編集してもらうことも多いです。
また、言外の感情を説明していない原稿からそれがつながるようなストーリー、感情の流れを考えるのも面白い課題だと思います。映画は映像メディアであるため、ストーリーや感情はセリフで説明せずに表現するのが望ましく、今回のプロジェクトでは否応なくその表現を考えることになるからです。
渡された会話原稿の冒頭の一部を抜粋して日本語にすると次のような内容です。
A「誰だった?」
B「何?」
A「電話。君あて?」
B「わからない。彼は何も言わなかったわ。」
A「おっと、なんで彼ってわかる?」
B「あなた、女ができたの?」
(以下略)
セリフの内容から、一緒に住んでいる男女だと想像できます。夫婦かもしれません。どちらあてかわからない電話がかかってきたということは、個人の携帯ではなく家の電話で、今家にいるのだと思います。「おっと、なんで彼ってわかる?」までは流れが想像しやすく、通常の言葉のやり取りで違和感がありませんが、次の「あなた、女ができたの?」が自然に聞こえるためにはその前の「おっと、なんで彼ってわかる?」のニュアンスや、その前後の様子を演出する必要がありそうです。
脚本にしても2ページ程度の内容ですが、元の原稿では上で抜粋した以降も言外の感情の説明がないため、自分でそれらのことを考えまとめます。
MFA Filmmakingコースの概要はこちらの投稿をご覧ください。