ここではロサンゼルスで経験した、卒業制作(Thesis)の短編映画制作時の様々な困難やトラブルのうち、「撮影で家具などにキズをつけられた」とオーナーがクレームを伝えてきた件の続きを書きます。
▶︎ロサンゼルスで経験した、短編映画制作時の様々な困難やトラブルとその対処 1についてはこちらの投稿をご覧ください。
このロケーションでは、撮影後オーナー(女性)から「撮影で家具などにキズをつけられたので修繕費を払え」とクレームがありました。少なくともそれらうちの一部は撮影前からあったキズで撮影前に写真も撮ってありましたが、そのオーナーが強硬姿勢だったため対応に非常に苦労し、時間もかかりました。
予定どおり撮影を終えた翌日、プロデューサー経由で、オーナーからキズなどのダメージに対するクレームがあったことを知らされました。そして後日、ダメージの写真と数千ドルの修繕費の見積もりとともに、修繕費を払わなければそこで撮影した映像の使用を許可しないとの連絡が来ました。
おそらくアメリカの他の映画学校でも同様だと思いますが、ニューヨークフィルムアカデミーでの映画撮影時には、ロケーションを借りる際に、ロケーションリリースといって、撮影日や借りる値段などの借りる条件やそこで撮影した映像を該当する映画作品やプロモーションなどのために使用することをオーナーが認める趣旨を記載した書面にお互いにサインする一種の契約書をかわします。
このロケーションともロケーションリリースの書類を作成していましたが、実はこのロケーションリリースの書類作成時には、こちらが用意した学校指定の雛形の文言にオーナーが修正を求め、文言を修正もしていました。
それ自体も手間でしたが、今度は、修繕費を払わなければ現状復帰して返していないためこちらの契約不履行となるのでそこで撮影した映像の使用を許可するとしたその契約書は無効だとの主張でした。こうなるともう法律の話になってきます。
学校にも報告しつつ、プロデューサーなどが撮影日前日に撮った写真も入手して確認したところ、オーナーが主張しているキズの一部は撮影前からあった一方、ダメージの一部はおそらく我々が原因であることがわかりました。
撮影前にあったキズの写真を添付しつつ、少なくともそれらは撮影前からあったキズで、オーナーからの連絡が私の撮影から日数が立っていたため、我々が原因だと思われるもの以外のキズはその後の滞在者がつけたものか我々がつけたキズかわからない、と連絡しました。
すると、オーナーは映画撮影前に撮ったキズの写真の元データを送るように言ってきました。メールを含むインターネットでのやりとりではデジタルデータの日
私は元データをUSBメモリにコピーして送りました。しかしその後郵便局のウエブサイトで配送の状況を確認すると、不在のため配達できなかった記録となっていたため、オーナーにそのことを伝えると、自分は忙しく、妥当な時間内に彼女の満足する金額を支払わなければ撮影した映像の権利は彼女が持つと言い出しました。
幸い、映画撮影時にはロケーションリリースだけでなく、保険にも入ることが義務付けられており、私もロケーションに対して保険に入っていました。オーナーが強行姿勢だったために、学校とも相談しつつ保険の適用をするため保険会社に間に入ってもらうことにしました。
しかしここでまた落胆を味わうことになります。
私がこのクレームについて聞き、学校で報告した時、誰もが「撮影が原因だと思われる一部のダメージに対しては支払う必要があるかもしれないが、保険会社は不必要な支払いをしたくないはずだし、撮影前にあったキズのタイムスタンプ付きの写真もあるため、オーナーが要求するような金額を支払う必要はないだろう」と言いました。
しかし現実はそれほど単純でも公平でもありませんでした。
保険会社のアジャスターという役割の人から連絡がありました。アジャスターとは、関係者の間に入り、損害調査をして損害見積額を算出する人です。保険会社からの委託で調査と算出をして保険会社に報告をしている人のようでした。
そのアジャスターへ状況の説明をし、改めて撮影前にあったキズの写真の元データを提出してほしいといわれました。タイムスタンプによって確かに撮影前にそれらのキズがあったことを証明するためです。アジャスターいわく、データを受け取るためにこちらに来ることもできるし、来てもらってもいいとのことだったため、協力的な姿勢を見せておいた方がいいかなと思い、データをUSBメモリにコピーし、車で数十分の場所まで渡しに行きました。
アジャスターはオーナーとも話し、オーナーが提供するダメージの写真を見て実際にロケーションも確認したようでしたが、我々に対してはタイムスタンプを確認するということをしているのに対し、オーナーが提供する写真に対しては我々の撮影直後であることの証明は求めず、アジャスターがロケーションを確認したのも、我々の撮影のほぼ一ヶ月後でした。
我々の撮影の後、通常は宿泊用であるその場所にはすでに他の利用者がいたことを聞いており、これではダメージの原因が我々の撮影でなくても、我々側がタイムスタンプ付きの写真で反証できない限り、オーナー側の主張どおり支払わなければならないことになってしまい、不公平です。
アジャスターの損害調査は非常に時間がかかりましたが、改めて「最終見積り」を送ってきました。私は、撮影前にあったキズの写真のタイムスタンプ付きデータも提供したので、上記の不公平はあったとしても少なくとも金額は減るはずだと思っていました。
しかし、その予想は裏切られました。
撮影前にあったキズの項目はなくなっていましたが、総額はオーナーからの最初の見積もりよりも増えていました。
オーナーは本人の満足する金額が補償されないならば、そのロケーションで撮影した映像のいかなる使用も許可しないと言い、補償までのプロセスが長期化すれば訴訟を起こすことも示唆し、こちらからすれば不当に脅されている状況です。単に脅しているだけか本気かはわかりませんが、面倒な相手であることは確かです。
私は前後して数人の人に相談しましたが、どうやらアメリカではアジャスターがいいかげんであることはよくあり、また、今回の場合、挙証責任は私の側にあるらしいということがわかりました。
挙証責任とは事実の存否について証明をする責任のことです。
無料相談の範囲で弁護士にも相談しました。保険で支払う場合でも、保険の免責条項分の金額(Deductible)は私自身が支払わなくてはいけないことになっていますが、弁護士曰く、その弁護士が入ったとしても、金額を免責条項分以下にするのは難しいだろうとのことでした。
私はアジャスターに不満を伝えるとともに、学校を通じて保険会社へクレームを入れました。保険会社にとって、学校はかなりのお客のはずです。
アジャスターの口ぶりでは、どうやら保険会社側も訴訟を起こされるよりはさっさと言いなりの金額を払って済ませようとしているようですが、彼は少し態度を変え再びオーナーと話し、後日連絡があり、二回目の「最終見積り」を送ってきました。オーナーからの最初の金額よりはまだ多かったのですが、減額されていました。
いずれにしても保険の免責条項分は自分が支払わなければならず、弁護士を雇っても補償金額をこの免責条項分の金額以下にするのは難しく、弁護士代とそれにかかる時間が単純にコストアップになってしまうため、この問題をより長く複雑にする意味がなかったので、私はここで終了させることにしました。
アジャスターにdeductible分の$
ケース終了後、念のため、加入している日本の留学保険(旅行時の保険と同様のもの)の保険会社に、個人賠償責任の補償項目でdeductible分をカバーできるか相談し改めて資料を揃えて送りましたが、保険は適用されないとのことでした。