私は1年目最後のイヤー1フィルムのプロジェクトでは物事が比較的スムーズに進んだのですが、2年目最後の卒業制作のプロジェクトでは、キャスティングやロケーションその他に関して驚くほど様々な困難/トラブルがありました。
それらの困難/トラブルのいくつかは対処に時間がかかり、いくつかは作品のクオリティに影響し、それをカバー・改善するために卒業後も自分でVFX作業をすることにしたため、その後何年も自分の生活に大きく影響を与えました。
▶︎ニューヨークフィルムアカデミーのイヤー1フィルム(Year One Film)についてはこちらの投稿をご覧ください。
▶︎ニューヨークフィルムアカデミーの卒業制作の概要についてはこちらの投稿をご覧ください。
アメリカの映画学校で短編映画を作るメリットの一つは、ノーギャラのアクター募集でも応募があることです。ノーギャラで出てもらうかわりに、撮影・編集したそのアクターのシーンの動画素材を、彼ら自身のプロモーション用に提供する習わしとなっています。双方にメリットのある方法だと思います。
キャスティングのためのウエブサイトがあり、自分のプロジェクトの概要を記載してアップすると、たくさんの応募があります。
▶︎ロサンゼルスエリアでのアクターのキャスティング方法についてはこちらの投稿をご覧ください。
しかし、たくさんの応募があることと、役柄に合った役者が見つかるかどうかは別問題で、私の卒業制作ではメインの役は比較的すんなり決まったのですが、サブ的な役はなかなかいい人が見つからなかったことと決めたアクターの一人がキャンセルした(後述)ことで、オーディションを結果的に5回行いました。
前述のウエブサイトを使って募集をかけることは簡単なのですが、それでも候補者を絞り込み、連絡をとってスケジュールの調整をし、オーディションをするのは手間がかかります。
クラスメートには様々な役割でクルーとなってもらっており、オーディションでもカメラのセッティングや来場したアクターへの案内などを手伝ってもらえるとスムーズなのですが、彼ら自身のプロジェクトの準備もあるため、自分のオーディションの進行や撮影はほとんど自分で行いました。それを5回やったためかなり手間がかかりました。
ノーギャラのアクター募集であることのデメリットもあります。
オーディションで選んで連絡済みのアクターから、その後キャンセルの連絡がありました。ほかに仕事が入ったとのことでした。
多くのアクターにとっては、収入になるプロジェクトの方が生活のため重要だろうと思います。他のアクターをまた探す必要がありました。
時間をかけて見つけて撮影申請していたロケーションのうち2ヶ所が、直前になって使えなくなり、撮影1~2日前に別のロケーションを探しましたがその場しのぎのロケーションしか見つかりませんでした。
▶︎ロサンゼルスエリアで撮影ロケーションを探す方法についてはこちらの投稿をご覧ください。
ロサンゼルスエリアで映画の撮影をする場合、Film LAという撮影許可申請事務所へ申請が必要で、学生映画の場合も同様です。学生価格で安く申請出来るのですが、学生映画の場合は許可が下りるのがたいてい撮影日の直前になります。おそらく、同じ場所でプロの撮影申請があった場合そちらを優先するのではないかと思います。
▶︎ロサンゼルスエリアでの撮影許可申請についてはこちらの投稿をご覧ください。
私の卒業制作の時は、撮影申請していたロケーションのうち2ヶ所が、直前になって使えないことになりました。
一か所は公園、もう一か所はシェルターの入り口のシーンとして使おうと思っていた川沿いの大きなハッチのような造作物で、それぞれかなり時間をかけて見つけた場所でした。
一緒に組んだ学生プロデューサーに申請をしてもらったのですが、公園については使えなくなった明確な理由はわからず、川沿いのハッチについては軍の設備だから使えないと今になって説明されたとのことでした。それならそうと申請の段階で伝えて貰えれば他のロケーションを探せたのですが、使えないことになった2か所について撮影1~2日前の夕方以降に他のロケーションを探す事態となり、その場しのぎのロケーションしか見つかりませんでした。
あるアパートメントコンプレックスの駐車場裏が山になっておりシェルターがあっても違和感が少ない場所で、アングルによってはコンクリートの壁も見えます。また、そこのすぐ横には公園に見えなくもない場所がありました。探す時間もなく、ここなら必要な2ヶ所の撮影が1回で済むため、許可をとり撮影をしました。
しかしイメージしているロケーションではなかったことはこのシーンの出来ばえに影響しました。
ストーリー上公園のシーンは2回あるのですが、急遽ベンチをレンタルして公園のように見せて撮影し、VFXで草を足したりして使いました。
シェルター入り口のシーンもVFX処理をすることを念頭においていましたが、少なくともすぐにはシェルターの入り口とわかる表現はできず、また、ストーリー上入り口のシーンは2回出てくるのですが、1回目のシーンはあまり出来栄えがよくなく、2回目のいくつかのショットのうちの1つはややコミカルにも見える演出だったのが不評だったこともあり、結局とりあえずこのロケーションのシェルターの入り口のショットは全く使いませんでした。
その後、他の理由(後述)もあり、このシーンを含む様々な部分をVFX処理で当初のイメージに近づけていきましたが、手間のかかるものも多く、少しずつ更新していきました。費用をかけてCG・VFX会社に発注すれば比較的短時間で期待するものを作ってもらえると思いますが、すでにロケーションや外部スタッフなどにかなりのお金をかけておりそれ以上の費用はかけられず、自分でVFX作業をして修正することにしたためその後何年もかかり、自分の生活に大きく影響を与えました。
下の画像はシェルター入り口のシーンのVFX処理後です。背景は写真素材を合成した架空の建造物です。
ケータリングの支払いをクレジットカードで支払ったのですが、処理されないトラブルがあり、その時は撮影直前で極めて忙しかったため、原因を調べるより、別のクレジットカードを使ったと記憶しています。
電動リフト付きの重いドリーを使うため電動昇降機付きトラックを予約したのですが、当日行ったら昇降機なしの普通のトラックしかないと言われました。
▶︎ドリーを含む撮影機材・道具についてはこちらの投稿をご覧ください。
トラックのドライバーをクラスメートにお願いしており撮影日前日に彼と一緒に行ったため、その日に借りる必要がありました。貸し出し担当の人は単なる雇われスタッフのようで、他の営業所に電動昇降機付きトラックがないのか聞きましたが、ない、の一点張りです。何らかのミスがあったのか、どうせ何かを借りるだろうと思ってレンタカー会社がダブルブッキングしているのかもわかりません。
しかたがないので重くない普通のドリーを使うことに変更し、昇降機なしのトラックを借りました。
▶︎撮影機材運搬用のトラックについてはこちらの投稿をご覧ください。
クラスメートにクルーになってもらったり、外部のプロダクションデザイナーなどを雇って撮影に臨みましたが、機材のセッティングに対するクルーの数が足りないことに気づき、急遽雇いました。
ロケーションの1ヶ所では、撮影日に建物内の別の部屋の家具などを移動して使わせてもらうように事前に担当スタッフと話していましたが、撮影当日オーナーが現れ、ものを動かしてはいけないと伝えられました。
以前企業のオフィスと使われていたビルを撮影用に貸し出しているロケーションがあり、様々な部屋があるため複数のシーンに使え移動の時間を節約できるため、借りることにしました。
下見で様々な部屋を見せてもらい、どの部屋を使うか決めて借りました。
ただ、撮影シーンに合いそうな部屋の作りが古い印象で、逆に他の部屋には比較的モダンなデスクなどがあったため、撮影日にモダンなデスクなどを実際に撮影する部屋に移動して使わせてもらうように、スタッフと話してありました。
ところが、実際にはそれができなくなりました。
予兆はありました。
クラスメートが私より前に同じロケーションで撮影したのですが、プロダクションデザイナーとロケーションオーナーが何かの理由でトラブルがあり、撮影できなくなる寸前だったとの報告がありました。そのプロダクションデザイナーは私の撮影でも依頼している人です。
クラスでそのトラブルの情報は共有され、私の撮影では穏便にやろうという話になりました。
そして案の定、問題が起きました。撮影日に、事前に内見して申し込みをした時にはいなかったロケーションのオーナーがやってきて、部屋の中のものを移動してはいけないと言い始めました。スタッフと事前にデスクなどを移動させてもらう話になっていたのですが、スタッフも雇われているだけと思われ、クラスメートの時の経験から穏便にやろうという話になっていたこともあり、交渉の余地はなさそうでした。
それでもとりあえず同じ部屋の中なら動かしていいという許可を取り、予定していた撮影はしました。
しかしそのままだと古い印象の部屋でイメージと異なるため、結果的に何回かに分けてVFX処理をしました。
最初は、当初から予定していたもので、モニターグラフィックのはめ込みです。この状態で学内の卒業制作の上映はしました。
次に、卒業後、OPTの期間中から日本帰国後にかけて、背景をCGに置き換えました。このバージョンで、アメリカの映画祭で賞をいただきました。
その後、前述のシェルター入り口や上のシーンの中央のモニターに映っている場所のシーンのVFX処理や編集、音楽効果処理などの大幅な更新をする際に、背景のCGを作り変えました。
別のロケーションでは、撮影後オーナー(女性)から「撮影で家具にキズをつけられたので修繕費を払え」とクレームがありました。少なくともそれらうちの一部は撮影前からあったキズで撮影前に写真も撮ってありましたが、そのオーナーが強硬姿勢だったため対応に非常に苦労し、時間もかかりました。
このロケーションはAirbnbで見つけた、もともと撮影用ではなく宿泊用に貸し出している場所です。
撮影用に貸し出している物件の場合、ある意味選び放題ですがたいてい料金が高く、一方、部屋を再現してあるスタジオの場合、いかにもスタジオに作った部屋に見えてしまい、いずれにしてもあまり使いたいと思える場所がありませんでした。
Airbnbは物件の数や種類が多く、しかもリーズナブルな値段のため、いい物件を見つけたら片っぱしから連絡をし、撮影可能か聞きました。たいてい断られるのですが、中にはOKの場合もあります。1年目最後のイヤー1フィルム短編映画でも、いくつかのロケーションはそうして確保しましたので、今回もAirbnbで確保しました。
撮影日前日にチェックインし、私、プロデューサー、プロダクションデザイナーが撮影前の準備をしました。撮影用ではない物件を使うこともあり、現状復帰の資料として部屋の様子を撮影する際に、すでにあったキズなどの写真をそれぞれが撮影しました。
予定どおり撮影を終えましたが、翌日プロデューサー経由で、オーナーからキズなどのダメージに対するクレームがあったことを知らされました。そして後日、ダメージの写真と数千ドルの修繕費の見積もりとともに、修繕費を払わなければそこで撮影した映像の使用を許可しないとの連絡が来ました。