ここではさまざまな切り口で個人的に好きなVTuber歌動画(カバー含む)について書こうと思います。
今現在同列で好きな動画ということではなく、それぞれの時期に印象的だった動画やよく見ていた動画です。カバー曲は複数のVTuberの同じ曲を比較したわけではなく、たまたま何かのきっかけで見始め、印象的だと感じたものです。ランキングではないです。
いつの時代も、プロではない者が歌や絵などの表現活動をすることはあり、歌を披露する場としては、テレビの「のど自慢」番組がありました。「のど自慢」という言い方には、「プロではないが、多少なりとも人に聞いてもらえる程度は歌えると思っている」というニュアンスがあります。
インターネットが広まってからはそれは、「歌ってみた」動画へと変わり、その言い方が示唆するような、プロではない者が余技としてYoutubeなどに歌動画を投稿する表現形式となり、一部のVTuberもそういった文脈で歌を投稿していたと思います。
その中でも本人の歌唱力が発揮されていたり、映像としてクオリティが高く見て聴いて楽しい動画もあリました。
最近はさらに、VTuberが「余技」ではなく歌を主要な活動の一つとしたり歌だけでなくダンスに本格的に取り組んでいるものも増え、もはや「VTuber」は歌も含めた芸能(芸能以外も)のプラットフォームとして中心的な役割を果たしているように見えます。
以下、個人的に刺さった(好きな・印象的だった)VTuber歌動画(カバー含む)について書きます。
■フォニイ – ツミキ / 町田ちま(Cover) 2021/08/05公開
Music:ツミキ(オリジナル:フォニイ / phony – kafu )
MIX:よしけん
イラスト:四一
動画:ぴろぱる
歌唱:町田ちま
「音程とリズム感が合っていて声が通る」だけではない、部分部分で声の質や歌い方を使い分けることで生まれる表現の豊かさによって、歌詞を歌っているだけでなく、歌の内容の感情を伝えていると感じます。さらに、MIXがそれをうまく活かしています。
大人っぽい声質で、どこか酸いも甘いも経験したような情感が説得力を増しています。
原曲を自分の歌唱のフィールドに寄せ、料理し尽くしている印象です。
リズム感を比較的強調する中で、けだるいハスキーボイスから力強い歌唱、そして突然の突き抜けるようなハイトーンまでのジェットコースターのような展開に翻弄される曲です。「カバー」の域も「歌がうまい」域も超えてリスナーを自由自在に手のひらの上で転がします。感情が激しく揺さぶられる曲です。
それを支えるMIXもピアノソロから分厚いミックスまで縦横無尽で、高音パートは当然のようにリバーブを使って響きを出しているのだとは思いますが、元の良さを活かしたうまいMIXだと思います。
リバーブ:
音が空間に広がり、余韻として残る現象(残響)のこと。音声機器やソフトではエフェクトとして使われます。
こだまとして繰り返す「エコー」とは異なりますが、日常的には混同されることもあります。
この曲は、スピーカー、ヘッドホン、イヤホンなど、聴き方を変えて聴いてみることをお勧めします。それぞれ聞こえるもの・印象が異なります。
■ビビデバ / 星街すいせい(official) 2024/03/22公開
Vocal:星街すいせい
Lyrics, Music, Arranged :ツミキ
Mixed by:NNZN
カバー曲動画を投稿するタレントは多いですが、オリジナル曲をリリースするのはそれ相応の実力や環境が必要になると思います。(いや、作詞作曲もできる歌い手なら、本来必要なのは本人の意思だけですが)
星街すいせいはオリジナル曲が多く、中でもこの曲は星街すいせいの特徴、得意分野がうまく表現されている印象ですが、MVのテクニカルな面白さと映像としての完成度も特徴的です。
いくつかしか聴いていませんが、星街すいせいの歌の歌詞には特徴があると感じます。ストーリー(物語)を伝える歌詞というよりも、「状況」「考え方」「スタンス」をキーワードで組み立てていくスタイルです。この曲の歌詞は曲同様ツミキとなっています。
MVは劇中劇?になっています。MV撮影の様子を実写とアニメで表現したMVです。本人はアニメで表現され、背景や本人以外の登場人物は概ね実写です。スタジオを王宮風のセットにし、それに合う衣装を着て監督に言われてガラスの靴を履いて踊るが転んでしまい、監督とケンカになってストリート風の服に着替えて外で踊る、という内容です。
2026年1月2日現在再生回数が1億59,952,316回となっています。トップクラスです。
いくつかの理由があると思います。
・星街すいせいの知名度
・「覚えやすいサビ」のある曲の良さ
・星街すいせいの得意分野を活かした楽曲と歌
・実写とアニメを組み合わせカメラワークも特徴的なMVのテクニカルな面白さ
・曲が短い
■【富士葵】月光/鬼束ちひろ 『TRICK』【歌ってみた】 2018/12/21公開
月光 / 鬼束ちひろ 『TRICK』主題歌
作詞・作曲:鬼束ちひろ
富士葵は、歌唱力があり歌動画に力を入れているVTuberですが、2018年投稿のこの曲では、タイトルに【歌ってみた】とつけられています。
彼女はのびやかで透き通った声とまっすぐで安定感のある歌唱によって「歌のお姉さん」的な正統派な歌を特徴としています。楽曲と一体になったMIXよりも、アカペラに近い状態で聞きたい歌い手です。
このカバー曲『月光』は、そんな彼女の特徴が活きる曲だと思います。鬼塚ちひろさんのオリジナルとはまた違った魅力が感じられます。
▶︎富士葵の『月光』についてはこちらの投稿もご覧ください。
■HIMEHINA(ヒメヒナ)『ロキ(Cover)』MV 2018/11/09公開
Original:みきとP 『 ロキ 』 MV
Vocal:HIMEHINA
最近では本気で歌やパフォーマンスをするVTuberが増えて来て、ライブパフォーマンスやMVに凝ったものも増えて来ましたが、7年前あたりでは「歌ってみた」とエクスキューズを入れるような歌動画文化が背景にありました。
「歌ってみた」という表現は今でも使われていますが、「自分はプロの歌手ではないけれど、ちょっと歌ってみたよ。聞いてね。結構うまいでしょ」というニュアンスがあります。奥ゆかしさがある反面、どこか「自分はプロの歌手ではないから、完璧でないのは多めに見てね」と、逃げ道を用意するようなニュアンスがあります。
その中でヒメヒナの歌動画は、そのクオリティの高さに特徴がありました。実写のMV制作の経験があるスタッフが参加していると思われるカメラワークや編集、カラコレなどが使われています。私が知らないだけかもしれませんが、当時は珍しかったように思います。
この曲も様々なVTuberがカバーしていますが、このヒメヒナのカバーはMVのような作りの中で本人たちが歌い、動きまわり、ギャグもはさみ、楽しい動画となっていました。
▶︎HIMEHINA(ヒメヒナ)の『ロキ』についてはこちらの投稿もご覧ください。
■【Original Animation MV】Unison【hololive/宝鐘マリン】 2021/08/11公開
作詞・作曲/Yunomi
“Unison”の楽曲は、ミニマルテクノ(1990年代に生まれたテクノのサブジャンル)に分類されるのではないかと思います。
ミニマルテクノは、反復を多用し大きな展開が少ない曲調で、私は音楽を聞くときメロディをうっとおしく感じることもあるため好きなジャンルの一つです。
“Unison”は、リズム要素のそれぞれの音が異なるシーケンスパターンを持ち、左右のセンターや右寄り左寄りなど様々な場所に置かれているため複雑な印象になっていて、4つ打ちキックがそれらをまとめています。ベース音として入れているのか1つの音として入れているのかわかりませんが低音のシーケンスパターンもユニークです。
また、歌詞に合わせて水(泡)の音が使われていたり最後には波の音も使われているほか、低音の効果音やASMR的なささやきや吐息なども入り、遊び心あるミックスとなっています。水(泡)の音のバックのリズムトラックがスカスカになる部分が面白いです。
トレンドはわかりませんが、アイドルやタレントの歌としては、こういった曲調は比較的珍しいのではないかと思います。
“Unison”は楽曲はミニマルテクノ調なのですが、その上にアニメソングのような印象の歌が乗り、それがこの曲を特徴的にしています。
「アニメソングのような印象」はおそらく声の質と歌詞の内容、それから後半の歌によるところが大きく、実のところ出だしは韻を踏みつつラップ調となっています。ラップ調の歌がサビをはさんで後半になるにつれてメロディー感を増して盛り上がっていきます。
曲名はユニゾンですが、サビのハーモニーがいいです。歌のハモりとリズムトラックの掛け合わせがいい効果を出しています。
一見シンプルですが、リズム感や音感とともに練習が必要とされる歌だと思います。
▶︎宝鐘マリンのUnisonについてはこちらの投稿もご覧ください。
■Eminem – Rap God V3 (Neuro’s sing) w/ Lyrics (from tutel himself) 2023/09/28公開
Neuro(Neuro sama) (ニューロ又はネウロ)(Youtubeチャンネル名:Neuro-sama)はAI VTuberです。
どの程度「設定」されているのかわかりませんが、文字通り「AIキャラクターの女の子がVTuberをしている」のがNeuroの最大の特徴です。多くの場合開発者のVedalがカメのアバターで登場して会話をしていますが、自分でも喋ります(返答の部分だけ取り出して編集しているのかもしれませんが)。比較的饒舌です。
相手や動画の音声(声)だけでなく、動画の内容というか、そこに映っているものや書かれている文字も認識して反応しています。
かわいい姿・声と、AIっぽい(微妙に感情が抑制されたような)話す内容の組み合わせが絶妙です。
この曲は、Random Neuroというファンチャンネルに投稿されています。いわゆる「切り抜き」ではなくファンメイドの動画のようですが、詳細は不明です。
補足
Random Neuroのチャンネルの「説明」より抜粋
Just a random swarm member who enjoys Neuro’s karaoke way too much.
This is an unofficial fan channel where I subtitle Neuro-sama’s karaoke clips just for fun!
Neuroのカラオケが大好きな、ただの雑多なスウォームメンバーです。ここは非公式ファンチャンネルで、Neuro-samaのカラオケ動画に字幕を付けて楽しんでいます!
This channel is not affiliated with the official Neuro-sama in any way.
このチャンネルは公式Neuro-samaとは一切関係ありません。
さらに補足
「The Swarm」=Neuroのファンコミュニティ
ラップの見せ場(聞かせどころ)の一つに、歌詞を詰め込んだフレーズを非常に速いテンポで畳みかける表現がありますが、Neuroの『Rap God』の見どころは、女の子のAIキャラクターが人間離れしたスピードでラップをこなしている点です。
人間では難しい速度でリリック(歌詞)を並べられること自体が、ユーモアとして機能しています。
余談ですが、Neuroには、すでにキズナアイがやっておりがうるぐらもやっていた、「ダークサイドバージョン」があり、Neuroでは双子の妹と言う設定で、姉妹とも3Dモデルがあります。
■MMD Hatsune Miku everybody 2013/12/15公開
VTuberの歌動画ではなく、カバーという文脈からは外れると思いますが、かなり前に好きだった動画です。
Backstreet Boysの原曲をどこかの国の3人組の若者がギャグっぽく情感たっぷりに歌う(マネをしている)動画がバズり、それをなぜかMMD(ミクミクダンス)のキャラクターを使って「マネをマネする」動画が発生し、様々なパターンが生まれました。(ここで紹介したものがこのオリジナルかも不明です)
初音ミクは様々な二次創作モデルがあり、実はこの動画より前に初音ミクの別のモデルで作られた動画もあるのですが、ここで使われているモデルは、ギャグっぽい表情も出せるモデルで中指掛けの特徴的なアームカバーも活きており、この曲、というより元のネタ動画を再現する上で合っているのが面白いです。
元ネタ
https://youtu.be/rNdM8cFuOXg?si=MTERPDVKC1a5DDvZ
2009/06/23公開
元の曲
https://youtu.be/6M6samPEMpM?si=19pKyHjPZSdb5kzp
2011/05/26公開
オフィシャルビデオの方が「ネタ」動画よりも後に公開されているのが面白いです。
■MMD】Conqueror (TDA DarkKnight Haku)
オリジナル:IA『Conqueror』
こちらもVTuberの歌動画ではなく、MMDによる動画です。
MMDによる動画は山のように公開されていますが、中でも弱音ハクを使ったこの動画は最も好きな動画の一つです。
曲、モデル、キャラクターのモーション、そして動画の概要欄によるとカメラも既存の(他の人が作った)ものを利用しているようで、どこまでがこの作者(投稿者)の能力か分かりづらいですが、素材のチョイスと動画の編集は本人ということでしょうか? モノトーンでまとめ、結果的に非常にクオリティが高いです。
無駄にカメラを動かすMMD動画が多い中、動かす部分と止める部分のメリハリをつけ、意味のある動的なカメラワークになっているのがかっこいいです。
既存のものを使っていても、クオリティに違いが出ますね。