映画『トップガン マーヴェリック』の見どころと感想、使われたカメラ、VFX(ネタバレあり)

『トップガン マーヴェリック』の見どころと感想、考察(ネタバレあり)

『トップガン マーヴェリック』は、海軍エリートパイロット養成学校「トップガン」の優秀だが無鉄砲な若いパイロットの功名心と挫折、友情や恋を描いた『トップガン』(1986)の36年ごしの続編で、キャスティング的にもドラマ的にも技術的にも様々な面で見どころにあふれた映画だと思います。

『トップガン マーヴェリック』の見どころと感想、ジョセフ・コシンスキー監督が起用された理由の考察や、コクピットの撮影にIMAXカメラが使われたという表現が一人歩きしていることについても書こうと思います。

『トップガン マーヴェリック』
 
あらすじ

若い頃は優秀だが無鉄砲な海軍エリートパイロットで、昇進せず今は超音速テスト機のテストパイロットに甘んじている男が、不可能と思われるほど困難な任務に向け若いエリートパイロット達の教官を命じられるが、その中にかつて戦闘機に同乗して訓練中に事故で亡くなった相棒の息子がいて軋轢が生まれる中、上層部と対立しつつも全員帰還させるために自ら率先して限界に挑んでいく。

ちなみに、ストーリー中「マーヴェリック」というのは主人公ピート・ミッチェルのパイロットとしてのコールサインで、コールサインとは、無線の交信は傍受されている可能性があるため本名を隠すなどの目的で使われる「通り名」とのことです。

上映時間

131分

公開日

当初の公開予定日:2019年7月12日
公開日:2022年5月27日(日米同時公開)

オリジナル『トップガン』の続編製作権を買い取ってしまったトム・クルーズ

『トップガン』はトム・クルーズが飛躍するきっかけになった映画とされていますが、実際、『トップガン』を非常に気に入った彼は、続編が製作されることで作品の価値が低下することを嫌って続編製作権を買い取ってしまったとのことです。(Wikipediaより)

結果として36年かかってしまいましたが、単なる続編ではなく、ストーリーとしては世代交代の要素も盛り込みつつ限界に挑む話ですが、製作上も様々な困難を乗り越え撮影の難易度的にも限界まで挑み、36年たった今だからこその正統派続編となっています。

オリジナルの『トップガン』を見ていない人も楽しめる、見た人はさらに楽しめる作品だと思います。

『トップガン』との共通点をふんだんに盛り込んだ、ファンへのサービス精神

様々な部分がオリジナルの『トップガン』を踏襲しており、前作へのリスペクト、続編らしさとファンへのサービス精神にあふれています。

冒頭で同じ音楽と主題歌を使用

映画冒頭で、ハロルド・ファルタメイヤーの音楽「Top Gun Anthem」が流れます。『トップガン』で使われた印象的な音楽で、オリジナルとほぼ同じ構成に聞こえますが、再録音されたようです。(Wikipediaより)

ハロルド・ファルタメイヤーは、『トップガン』の他にも映画『ビバリーヒルズコップ』(1984)『フレッチ/殺人方程式』(1985)などでも印象的なテーマ曲を提供しています。

「Top Gun Anthem」も印象的な曲ですが、『トップガン』の曲といえばやはりケニー・ロギンスの主題歌『Danger Zone』です(ジョルジオ・モロダー作曲)。この曲の疾走感は映画の印象に大きく貢献していると思います。『トップガン マーヴェリック』でも使われています。

同じ(に見える)フォントを使用

オープニングではやや特徴的なフォントでクレジットが表示されますが、これも『トップガン』で使われた書体(又は同じに見えるフォント)を使っています。

その他の共通点

他にも、様々な共通点を盛り込んでいます。

・戦闘機が離陸する横をサングラスをかけたマーヴェリックがバイクで走ります。

・トップガンの訓練生(エースパイロット)がクラブでちょっかいを出した相手が教官として現れます。

・『トップガン』ではビーチバレーのシーンが出てきます。場所はビーチではなくグラウンドに砂を敷いてビーチバレーコートとしているようです。『トップガン マーヴェリック』ではトップガンパイロットたちがビーチで遊ぶシーンがあります。フットボール(ラグビーのボール?)で遊んでいます。

・『トップガン』ではマーヴェリックの相方のグースがレストランでピアノを引きながら歌うシーンがあり、『トップガン マーヴェリック』ではグースの息子ルースターがエースパイロット達の集まるクラブでピアノを弾きながら歌うシーンがります。

これらの共通点をこれでもかというように盛り込んだことで、36年たって、映像技術的にも進化した今作を、続編であると強く印象づけているように見えます。

プロデューサーの1人の続投と監督の交代
 
プロデューサー ジェリー・ブラッカイマー

オリジナルの『トップガン』ではドン・シンプソンとジェリー・ブラッカイマーが共同でプロデューサーを務めましたが、1996年にドン・シンプソンが亡くなりました。

『トップガン マーヴェリック』ではトム・クルーズもプロデューサーとなっていますが、ジェリー・ブラッカイマーは企画の初期からプロデューサーを務めています。

ジェリー・ブラッカイマーは、『フラッシュ・ダンス』『ビバリーヒルズ・コップ』『トップガン』『バッドボーイズ』シリーズ、『ザ・ロック』『アルマゲドン』『ブラックホーク・ダウン』『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズ、『デジャヴ』などのプロデューサーで、特殊効果を多用した派手なアクション娯楽映画を特徴としています。

キャッチーな主題歌など、音楽との相乗効果を仕掛けるプロデューサーでもあります。

トニー・スコットを偲ぶ

前作『トップガン』の監督は、『スパイ・ゲーム』(2001)、『デジャヴ』(2006)、『アンストッパブル』(2010)などでも知られるトニー・スコットで、リドリー・スコット監督の弟ですが、2012年に亡くなっています。

『トップガン』の続編については最初ジェリー・ブラッカイマーとトニー・スコットに話があり、企画は進行していたようですが、彼が亡くなりしばらく休眠状態になってしまったようです。

ヒットした映画の続編を同じ監督が手がけ始めた矢先にその監督が亡くなるという、企画が頓挫しかねない状況ですが、トム・クルーズやヴァル・キルマーが続編に熱意を持っていたためそこを乗り越え、『トップガン・マーヴェリック』として結実しました。

『トップガン・マーヴェリック』のエンドロールで、「In memory of Tony Scott」(トニー・スコットを偲んで)と記されています。

ジョセフ・コシンスキー監督の起用

『トップガン・マーヴェリック』の監督がジョセフ・コシンスキーだと知ったとき、少し驚きました。実力のある監督ですが、テイストが違うように感じたからです。しかしよくよく考えると、このキャスティングには理由があり、それは成功したと感じます。

私の想像ですが、ジョセフ・コシンスキー監督起用の理由は以下の点です。


●過去に初監督作で、28年ぶりの「続編」を興行的に成功させた

●過去にトム・クルーズ主演で乗り物の飛行シーンがある作品を興行的に成功させた

 

また、コシンスキー監督はトム・クルーズに「すべての空中シーケンスを空中で撮影する」などのアイディアや考えをプレゼンし、GOが出たとのことです。

▶︎『トップガン マーヴェリック』の監督にジョセフ・コシンスキーが起用された理由についてはこちらの投稿もご覧ください。

『トップガン』から続くドラマ

『トップガン マーヴェリック』は『トップガン』を見ていなくても楽しめる映画ですが、『トップガン』を見て人間関係の背景を知っていると、より楽しむことができます。

『トップガン』の最後で戦果を上げたマーヴェリックは、上官から望む進路を聞かれトップガンの教官の仕事をしたいと答え、映画の最後は教官としてトップガンに戻ったことを示唆する終わり方をしています。しかし『トップガン マーヴェリック』では、自分は教官のガラではない、と表現しています。教官はやったものの2ヶ月で辞めたようです。無茶をする性格が教官には向かなかったということだと思います。

『トップガン』では最初お互いに牽制をしていたアイスマン(ヴァル・キルマー)と最後にはお互いを認め合っていますが、『トップガン マーヴェリック』では、左遷されて務めていた極超音速テスト機のパイロットとして無茶をして飛行禁止処分になるところだったマーヴェリックが、要職についているそのアイスマンの推薦によって、トップガンの教官としての任務に着きます。

首の皮一枚でつながっている状態で、ガラではない教官の任に就き、不可能と思えるミッションを行うためにやっぱり無茶をしながら若いエリートパイロット達を鍛え、引っ張っていくストーリーです。

しかも『トップガン』でマーヴェリックは訓練中の事故で相棒を亡くし、彼の責任ではないということになったものの自責の念に囚われています。それは乗り越えたものの、今回は教官としてパイロット達を不可能と思われる任務に向かわせる上で、誰かが犠牲となるのはやむをえないと考える上層部と対立してまで誰も死なせないことにこだわります。

さらに、亡くした相棒の息子が訓練生パイロットの中におり、彼は父親の死はマーヴェリックのせいだと考えており、軋轢が生まれます。

『トップガン マーヴェリック』の後半はやや付け足されたような印象もあるのですが、不可能と思われる状況に挑み、様々な問題に対峙し乗り越えていく様子に心打たれ、爽快感があります。

『トップガン マーヴェリック』のキャスト
 
現役を退く世代の苦悩も表現できるようになってきたトム・クルーズ

イケメンスターのトム・クルーズも今年60歳となり(『トップガン マーヴェリック』撮影時は56歳)、相変わらず若々しくパワフルですが、歳はとりました。

『トップガン』の時は単なるイケメン俳優だったトム・クルーズは、トップ俳優を経て今やベテラン俳優として歳相応の芝居も求められる年齢だと思いますが、今作はまさにドンピシャの役どころだと思います。

ストーリー中マーヴェリックは、優れたパイロットで数々の勲章もあり、パイロットの操縦からドローンへ移り変わる時代に人間の能力にこだわり、現役にこだわっていますが、しかしそこから外れていく時代背景であり、年代です。そのなかで自分の限界に挑み続けるマーヴェリックの姿は、トム・クルーズ自身の姿でもあります。

今後10年後、20年後にどう変化していくのか楽しみです。

ヴァル・キルマーの起用

『トップガン』でマーヴェリックのライバル的な存在であったアイスマン役のヴァル・キルマーが、2017年頃に咽頭がんとなり、手術後には以前のようには声を出せなくなっているそうですが、『トップガン・マーヴェリック』でも、要職についていますが以前のようには声を出せなくなっているという状況設定でアイスマン役をしています。

最初アイスマンはパソコンの画面上でテキストで会話をし、マーヴェリックとの間合いによる演技も見どころですが、最も伝えたいことを声を振り絞って伝える姿に心打たれます。

ヴァル・キルマーは、音声合成を専門とする英国を拠点とするソフトウェア会社である Sonantic と協力して、AI 技術とアーカイブされた音声録音を使用して自分の声をデジタルで再現できるようになったようですが、『トップガン・マーヴェリック』ではこの技術は使用せず、キルマーの実際の声を使用し、明瞭さを高めるためにデジタル処理されたとのことです。

参照
How A.I. helped Val Kilmer get his voice back for ‘Top Gun: Maverick’
https://news.northeastern.edu/2022/06/07/a-i-clones-val-kilmers-voice-in-top-gun/

‘Top Gun’ secrets: Why Tom Cruise’s love scene isn’t steamy and Val Kilmer’s voice didn’t need A.I.
https://web.archive.org/web/20220823025425/https://www.usatoday.com/story/entertainment/movies/2022/08/22/top-gun-maverick-tom-cruise-bedroom-scene-val-kilmer-voice/7838688001/

前作中に亡くなったマーヴェリックの相棒の息子役

『トップガン』のストーリー中で亡くなった相棒グースの息子ルースター役のマイルズ・テラーが、ヒゲのせいもあると思いますが、父親の面影を感じさせる顔つきになっており、ドラマに信憑性を持たせています。

映像に重みを与えるベテラン俳優陣

ジェニファー・コネリーやエド・ハリスなどのベテラン俳優陣が映像に重みを与えています。

『トップガン マーヴェリック』の撮影技術
 

リアルにこだわり、実際の役者が戦闘機に乗り込んで撮影

前作『トップガン』でも俳優を戦闘機に乗せて撮影しようとしたものの、トム・クルーズ以外は嘔吐したり失神したりして撮影できなかったようで、今回はそこへの挑戦もし、成功しています。

ただし、彼らが操縦しているわけではなく、訓練を受けた海軍パイロットが操縦したようです。それでも役者たちはトム・クルーズ自身が開発した3ヶ月の訓練プログラムへの参加を通してジェット機に乗っています。

トム・クルーズはパイロットのライセンスを持っていますが、彼のスキル、保険、および軍事規則の制限により、彼のシーンも基本的には海軍パイロットが操縦し、ただ、エンディングでマーヴェリックがペニーと飛行機で飛ぶシーンは実際にトム・クルーズが操縦しているようです。

参照
How Much Of Top Gun 2 Is Real & How Much Is CGI
https://screenrant.com/how-much-of-top-gun-maverick-is-real-cgi/

ソニーの映画制作用カメラ「VENICE」をコクピットに設置

コクピット内の俳優の撮影について、ジョセフ・コシンスキー監督がメイキング映像のインタビューで「six IMAX quality cameras」(6台のIMAX品質のカメラ)と説明している部分が、テロップで「6台のIMAXカメラ」と訳され、そのせいか「IMAXカメラ」という表現が一人歩きしています。

表現として間違いではないのかもしれませんが実際にはソニーの映画制作用カメラ「VENICE」が使用されています。ソニーは「VENICE」においてIMAX社とパートナー契約を締結しており、「IMAX認定カメラ」というのが正確かもしれません。IMDbの『トップガン・マーヴェリック』の技術仕様のページを見ると、使われたカメラやレンズのリストの中に、「Sony CineAlta Venice IMAX」という表現が見られます。

https://www.imdb.com/title/tt1745960/technical

IMAXのウエブサイトのFilmed In IMAXについての記載
https://www.imax.com/content/imax-launches-new-filmed-imax-program-worlds-leading-digital-camera-brands

ソニーのサイトで、The IMAX Experience® with VENICEが説明されています。
https://pro.sony/en_ME/products/digital-cinema-cameras/venice

また、このサイトで写真とともに説明されていますが、「VENICE」カメラはVENICE Extension Systemとして、イメージセンサーを内蔵したフロント部分を取り外し、カメラ本体とケーブルで繋いで小さなスペースに設置することができ、『トップガン・マーヴェリック』の撮影でも活用されているようです。メイキング映像で確認できます。

メイキング映像では、機内の乗組員(俳優)の目の前に設置されているカメラが確認できます。

こちらの記事でも撮影について詳しく解説されています。
THE LOOK OF TOP GUN: MAVERICK
https://www.filmmakersacademy.com/blog-the-look-of-top-gun-maverick/

その他参照

ソニー、デジタルシネマ「VENICE」がIMAXとパートナー契約。放送局向けIP Live拡充
https://av.watch.impress.co.jp/docs/news/1289892.html

「トップガン」撮影したシネマカメラも、ソニー映像機器展示会
https://av.watch.impress.co.jp/docs/news/1421721.html

『トップガン・マーヴェリック』(1)航空機の撮影にまつわるあれこれ
https://news.yahoo.co.jp/articles/3678529cf955767cd1b64b5dde8ad558ace00db2

『トップガン』の撮影中、スタントパイロットが事故で亡くなった

前作『トップガン』の撮影中、スタントパイロットが事故で亡くなったそうですが、今回は役者自身が戦闘機に乗り込んで撮影することもあり、安全面でもかなりチェレンジングだっただろうと思います。

『トップガン・マーヴェリック』のVFX

おそらくマーケティング上の理由もあって「リアルにこだわった撮影」が強調されている『トップガン・マーヴェリック』ですが、VFXも多用されています。エンドロールにはSF大作映画同様、VFX関連のスタッフの名前がこれでもかとクレジットされています。

F-14と敵の第5世代戦闘機(Su-57)の飛行シーンはすべてCGで作成され、F-18の出る複数ジェット機によるシーンではほとんどの場合1機が本物で他はCGのようです。Wikipediaの参照先のYoutube映像は非公開となっています。(Wikipediaより)

『トップガン・マーヴェリック』でVFXショットを担当したVFX会社

Method Studios
Method Studiosのウエブサイトの『トップガン・マーヴェリック』のページ
https://www.methodstudios.com/en/features/top-gun-maverick/

MPC
MPCのウエブサイトの『トップガン・マーヴェリック』のページ
https://www.mpcfilm.com/en/filmography/topgun-maverick/

Lola VFX
Lola VFXのウエブサイト
https://lolavfx.com/wp/

BLIND LTD
BLIND LTDの『トップガン・マーヴェリック』のページ
https://www.blindltd.com/maverick

それぞれの会社の実際の担当ショットは不明です。BLIND LTDはモーショングラフィックスの会社で、『トップガン・マーヴェリック』では「コンピューター・グラフィックス」を担当したと上記のページに書いてありますが、「コンピューター・グラフィックス」が具体的にどのようなショットが不明です。

『トップガン・マーヴェリック』の評価

映画やテレビドラマなどについて批評家と観客の評価とレビューを掲載しているウエブサイトRotten Tomatoesによると、『トップガン・マーヴェリック』は批評家の評価も観客の評価も高いです。

批評家の評価も観客の評価も「スターウォーズ エピソード4/新たなる希望」を上回り、「ゴッドファーザー」とほぼ同じです(批評家の評価はやや低く、観客の評価はやや高い)。

Rotten Tomatoes
https://www.rottentomatoes.com/