映画を見るというより、世界観を体感する映画。ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の子供の頃からの夢であった最高作。
DUNE/デューン 砂の惑星 オフィシャルサイト
https://wwws.warnerbros.co.jp/dune-movie/
DUNE/デューン 砂の惑星(字幕版)Prime Video
『DUNE/デューン 砂の惑星』は、『メッセージ』や『ブレードランナー2049』で高い評価を得たドゥニ・ヴィルヌーヴ監督だからこそ表現することができた、壮大な世界観を体感する映画だと思います。以下、個人的な感想を書こうと思います。
IMAXレーザーのシアターで見ましたのでその感想も最後に書きます。
遠い未来、高価な香料を産出する過酷で危険な砂漠の惑星を統治する命を皇帝から受けたアトレイデス家が、公爵の息子で予知夢を見る青年とその母も同行して現地に移住し、青年は救世主かもしれないと迎えられるが、香料を支配してきた宿敵ハルコンネン家の奇襲を受ける中、青年と母はその星の砂漠の民に導かれる。
原作小説のタイトルかつ映画の原題「dune」は砂丘という意味です。duneの読みを日本語で書くと「デューン」ですが、個人的に、この単語は語感がよく何かミステリアスな響きもあり、砂の惑星を舞台にした壮大なストーリーに合った良いタイトルだと思います。
しかし日本の日常生活では馴染みのない英単語で、小説及び映画の邦題ではわかりやすく『砂の惑星』と表現していますが、単に『砂の惑星』とはせず、元の英単語と日本語読みも足し、『DUNE/デューン 砂の惑星』としています。原題と日本語読みと意味を併記しシンプルではありませんが、ぎりぎり短くまとまってバランスが取れている邦題だと思います。
▶︎日本でタイトルが変更された(原題と邦題が違う)映画についてはこちらの投稿をご覧ください。
映画とは、非常にざっくりいうと、脚本を元に役者が演じた様子を撮影して編集したものだと言えると思います。この映画『DUNE/デューン 砂の惑星』もそれは変わらないはずですが、それだけでは到達しない作品のように感じます。
それは、映画を構成する各要素がうまくまとめられ、その中でも特にプロダクションデザイン、撮影、VFX、音楽それぞれが高いレベルで行われているということもできますし、描いている世界観が大きく、通常の映画より映像と音で伝える度合いが大きいということもできると思います。いずれにしても、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督だからこそ、この壮大な世界を作りきることができたと言えるかもしれません。
プロットドリブン、キャラクタードリブンという表現があります。プロットドリブン(Plot Driven=プロット主導)とは、主に物事の流れによって物語が牽引されるタイプのストーリー、キャラクタードリブン(Character Driven=キャラクター主導)とは主に登場人物のキャラクターによって物語が牽引されるタイプのストーリーのことで、映画によって異なります。
映画『DUNE/デューン 砂の惑星』では「世界観ドリブン」とでも言うようなものを感じます。その世界観そのものが物語を牽引し、物事の流れや登場人物のキャラクターなどは、その世界の要素にしかすぎないようなイメージです。
▶︎プロットドリブン、キャラクタードリブンについてはこちらの記事もご覧ください。
『DUNE/デューン 砂の惑星』は155分の大作ですが、2部作の想定でつくられているようで、今回はパート1です。しかしこのパート1は、ストーリー制作で使われる三幕構成のまだ一幕めのような印象で、主人公ポールの成長と葛藤の物語は始まったばかりです。
続編の公開予定は2023年10月20日とのことです。
続編公開予定について伝える記事
https://www.hollywoodreporter.com/movies/movie-news/dune-2-greenlit-movie-release-date-1235036655/
▶︎三幕構成についてはこちらの投稿も御覧ください。
監督のドゥニ・ヴィルヌーヴにはパート3の構想もあるようです。 いずれにしても、原作も過去の『DUNE』の映画も見ていない私にとっては、今後物語がどのように展開し、どのように収束するのか楽しみです。
『DUNE/デューン 砂の惑星』はSFということになっていますが、異世界ファンタジーの側面もあると感じます。
「転生」や「転移」はしませんし猫耳少女も出てきませんが、おそらく『DUNE/デューン 砂の惑星』の若い主人公にとって過酷で危険な砂漠の惑星への移住は一種の「転移」でしょうし、未知の冒険の始まりを意味します。
宿敵ハルコンネン家、砂漠に生息する巨大な生物サンドワーム、地下で生活する砂漠の民、声で人を操り政治的に力を持つ修道女の結社、今後出てくると思われるギルドの存在など、要素としてはファンタジー色が強いと思います。
ドゥニ・ヴィルヌーヴは過去に『メッセージ』(2016年)や『ブレードランナー2049』(2017年)を監督しています。それらの映画でも感じた特徴が『DUNE/デューン 砂の惑星』でも出ていると思います。
私の感じるドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の映画の特徴は、シンメトリーな構図を使う、音響で雰囲気を演出する、静かな緊張感、といったものです。
『DUNE/デューン 砂の惑星』では監督の過去作よりもさらに壮大な世界観になり、『メッセージ』や『ブレードランナー2049』が習作であったかのような印象さえします。
いいキャスティングだと思います。
主人公のポール役のティモシー・シャラメは、予知夢を見るけれどもアトレイデス家の後継者としての期待の中まだ未熟な青年の役にうまくはまっていると思います。
アトレイデス公爵役のオスカー・アイザックが演じた2015年の『エクス・マキナ』のネイサン役は、助演男優賞を受賞しているものの個人的にいいと思えなかったのですが、アトレイデス公爵役はうまくはまっていると思います。
ポールの母レディ・ジェシカ役のレベッカ・ファーガソンは、ジェシカが独自の方法で精神と肉体の鍛錬をするこの世界で力を持っている修道女の結社に属する側面とポールの母としての側面を併せ持つこのキャラクターをうまく表現していると思います。
アトレイデス家の戦士ダンカン・アイダホ役のジェイソン・モモアは、力強くユーモアもある頼れるキャラクターを体現していると思います。
その他、声で人を操る強力な力を持つ、ポールの母も所属する結社の教母、坊主頭の悪者であるハルコンネン家の面々、夢の中でポールを導く砂漠の民の女やその他の砂漠の民など、それぞれのキャラクターがうまく描かれています。
全編に渡り、音楽でもあり音響でもある音で、壮大かつ荘厳な雰囲気を作っています。すでに64歳とのことですが、制作にも集中力が必要と思われる緊張感のある音楽を作り出しています。
メイキング映像によると、この映画のために楽器も作り、女声を主体とし、独自の言語まで作ったとのことです。エキゾチックで力強い歌の含まれる音楽となっています。
「砂漠が細かな粒子の砂でつくられているのと同じように、音楽も無数の音の粒でつくられている」という、インタビューでのハンス・ジマーのことばは、いい表現だと思います。
ハンス・ジマーは、『ダークナイト』(共同制作)『インセプション』『インターステラー』『ダンケルク』などクリストファー・ノーラン監督の映画の音楽のほか、『マン・オブ・スティール』『ブレードランナー 2049』(共同制作)などの音楽も手掛けています。
『インセプション』に対する音楽の役割は非常に大きいと感じましたし、『マン・オブ・スティール』では、壮大なストーリーを音楽でも盛り上げていたと思います。
『DUNE/デューン 砂の惑星』でも「世界観ドリブン」であり「音楽ドリブン」でもある印象となっています。
映画の世界観にそった、しかし過度に主張しないデザインが見て取れます。また、映画でリアルなCG表現がされるようになって久しいですが、ここでも巨大な建造物や乗り物が、違和感なく表現され、それが臨場感を作っています。
・巨大な建造物
ここで表現されているのはきらびやかな未来世界ではなく、砂の世界にふさわしい遺跡のような、しかも巨大な建造物です。
・ジブリアニメを連想するような空飛ぶ乗り物
昆虫とヘリコプターを合わせたような形状で、複数の羽が高速ではばたく乗り物がデザインされています。『天空の城ラピュタ』の羽がはばたく乗り物『フラップター』を小型のラジコンで実現した人がいますが、小型ヘリコプターのサイズで羽がはばたいて飛ぶ乗り物は現実には不可能ではないかと思いますが、このファンタジー世界にはあっていると思います。撮影では大型の模型も作られたようです。
・場面ごとにデザインされた、変に主張しない衣装
衣装は、ストーリー中のそれぞれの場所ごとにデザインされています。その多くは変に主張するデザインではなく現代の服の延長にあるように見えます。
アトレイデス公爵やその息子で主人公である青年ポールは、ややかしこまった服が多く見えますが、現代でも見つけられそうなスーツやコートを着ています。
トレーニング中は、教官はややトレーニング用にアレンジしたTシャツとジーパン、ポールも同様の動きやすそうな服装です。
皇帝の命を受ける場面では軍服を思わせる正装をしています。
登場人物によっては、その役柄に応じて、修道院風の衣装になる場合もあります。
砂地で生活するための衣服は特徴的です。宇宙服のようにも見えますが、汗や尿をリサイクルして飲めるようになっている設定で、股間に小型の平らなタンク状のもの、腹の部分に袋状のものがついています。
『DUNE/デューン 砂の惑星』のVFXは、イギリスのVFX制作会社DNEG社が手がけています。DNEG社は以前はダブル・ネガティブという社名でしたが、2014年にPrimeFocus社と合併してDNEGとなったようです。
DNEG社ウエブサイト
https://www.dneg.com/
映画『エクスマキナ』『ゴースト・イン・ザ・シェル』『ブレードランナー2049』『ヴェノム』『アリータ: バトル・エンジェル』『TENET テネット』『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』『マトリックス レザレクションズ』ほか、非常に多くの映画のVFXを手がけている会社です。
砂漠や屋内のシーンの多くはグリーンバックを使わずロケやスタジオで実際に撮影されている『DUNE/デューン 砂の惑星』ですが、VFXも極めて高度だと思います。乗り物や巨大な建造物、砂漠に生息する巨大な生物サンドワームなど、砂漠の世界に合っていてリアルなだけでなく、雰囲気も表現されています。
『DUNE/デューン 砂の惑星』は簡素化したロゴデザインが特徴的です。
DUNEのEの中央の線が、星を連想する「点」と細長い「線」(光)で表現されている以外は、すべてU字形の同じ形で表現されているのが、シンプルでこのストーリーの世界観にもあっています。
映画やテレビドラマなどについて批評家と観客の評価とレビューを掲載しているウエブサイトRotten Tomatoesが参考になります。
Rotten Tomatoes
https://www.rottentomatoes.com/
Rotten Tomatoesでは、批評家の意見に基づくスコアをTomatometerとして表し、観客のスコアをAudience Scoreとして表します。以下、当記事執筆時の概数です。詳しくはRotten Tomatoesをご覧ください。
観客のスコア 90%台前半
ちなみに監督の直近の過去作の評価は以下のようになっています。
観客のスコア 80%台前半
観客のスコア 80%台前半
Duneについての記事で引き合いに出されることの多いこの映画の場合はどうでしょう。
観客のスコア 90%台
私は東宝シネマズ新宿のスクリーン10、IMAXレーザーのシアターで見ました。
IMAXレーザーは、以前は大阪の109シネマズ大阪エキスポシテイと東京池袋のグランドシネマサンシャインだけにあったのですが、東宝シネマズでも導入を進めているようです。
今回は東宝シネマズ新宿のスクリーン10のG列16番です。この席はスクリーン10の座席のほぼ中央やや後方で、見やすかったです。チケット購入時に仮にもう少し前の席か後ろの席しかない場合は、後ろでもいいと思います。
▶︎『TENETテネット』フルサイズ版をIMAXレーザー/GTのシアターで見た感想は、こちらの投稿をご覧ください。